イギリスでは物価高騰が止まらない。労働者たちは待遇改善を求めてストライキをおこなっている。ストライキは教師、弁護士、救急車など多岐に及んでいるのだが、この時期注目されるのが鉄道と航空のストだ。クリスマスシーズンはどうやら乗り切ったようだが今後は「どうやって帰ってくるのか」が問題になりそうだ。
TBSがクリスマス旅行への影響に懸念 イギリスの鉄道・空港で「スト」続く 記録的な物価高で「賃上げ」求め|TBS NEWS DIG(YouTube)で伝える通り、イギリスの鉄道・空港でストが続いている。記録的な物価高の影響とされている。
BBCも「イギリスでなぜストが増えているのか 交通や医療、学校・大学でも」という記事でストの原因を解説している。やはりインフレの影響だそうだ。エッセンシャルワーカーと呼ばれる社会インフラを支える人たちから法廷弁護士まで幅広い業種にストが広がっている。社会全般に物価高の影響が及んでおり「支持しない」とする人は少数派にとどまるようである。
問題はなぜ物価高が続いているのかということになりそうだが、ここまで混乱が広がるとそんなことはもうどうでも良くなってしまうのだろう。直近のウクライナの戦争による食料と燃料の値上がりを挙げる人が多いとは思うのだが、おそらくブレグジットの影響も見逃せないだろう。
アメリカでも労働市場が「好調」である。こちらもウクライナの戦争の影響を指摘する声が大きい。だがおそらくはデカップリングで中国の安い労働力に依存できなくなったという事情や日本で言うところの「団塊の世代」の早期退職などによってそもそもの人件費が値上がりしているという事情もありそうだ。
アメリカの労働市場に比べイギリスの労働市場は流動性が低いのだろう。アメリカでは賃金の高い地域や職種に簡単に人が流れるのだが、イギリスは職場に留まり待遇改善を目指す人の方が多いのではないかと思われる。これがストライキにつながっている。
ここまで混乱が広がると「どうしてストが起こるのだろう」とか「なぜインフレは止まらないのだろう」などと思索しても仕方がない。ここは「いつストが起こるのか」について考えるべきだ。BBCはカレンダーを掲載している。全国的な鉄道ストは27日の朝まで続き年始の3日から再開される。人々はこうしたストのスケジュールを念頭に入れて旅行計画を立てるしかない。自動車での帰省に切り替える人も多く道路も渋滞しているという。
イギリスは国民皆保険制度を維持している。スト回避のためには医療分野で働く人たちの報酬を上げるために国が制度を見直したり一時的な補助金を見直すという政策も考えられるのだが財政健全化を掲げるリシ・スナク首相は今の所は待遇改善い積極的に動くつもりはないようである。
Skyニュースによるとクリスマス休暇を妨害するために設定された労働争議に「悲しく失望している」そうだ。だが国際金融に大きく依存するイギリスでは金融市場の信頼を損なってまで財政支出を増やす余裕はない。
リシ・スナク首相は「政府が援助しているおかげでクリスマスに屋根のある家で過ごすことができる」と政府の取り組みをアピールする。給仕のボランティアに参加しカジュアルなスカイブルーのセーター姿でBBCの取材に答え「政府は独立した勧告に従ってできることはやっている」とした上で「旅行する人は今後何が起こるかよく確認してくれ」とどことなく他人事のコメントを出している。
ストライキという言葉の語源はイギリスの海運労働者が船の帆を下ろして抵抗したことが起源になっているそうだ。何かを打つ・打ち壊すことをstrikeというわけではなく帆を「水平にして下ろす」ことを to strike the sailsと表現するそうだ。古い英語においてstrikeは「打つ」よりも「水平にする」という意味の方が早くからあるようだ。