自衛隊で「特定機密」が初の漏洩というニュースが飛び込んできた。あまり話題にはなっていないのだが、実は「元海将」の依頼が発端になっているのだという報道もある。防衛増税を目指す岸田政権にとっては新しい火種になりそうだが、今のところ政府要人が記者会見をしたという報道はない。
12月24日昼頃のニュースでは「特定秘密」初の漏えいか 海自1佐、近く懲戒処分へ―OB依頼が発端・防衛省となっている。これだけを見ると何らかの事情を抱えた中間管理職的な人が外に情報を漏らしたのだなという感覚になる。ところが夜遅くの共同通信の記事では進展があった。漏えい疑い、警務隊が捜査 海自1佐、26日にも懲戒 「特定秘密」元海将へ 仲介隊員の関与見極めとなっている。つまり「海将」という位の高い人が内部の中間管理職的な人に依頼をして特定機密を持ち出したようである。読売新聞は特定を避け「将官級」と書いている。
防衛省の公式発表もなく報道機関によって確認されているわけではないので詳細は差し控えるが「海将」で検索するとある幕僚長候補が海将で勇退させられたというような記事も見つかる。もちろんこの人がどうこうというわけではないが、一般に「海将」という地位は幕僚長手前というエリートでありそれなりに内部で権力や地位を巡る競争があることがわかる。やはり自衛隊も組織であり権力闘争とは無縁ではないのだ。
ただし、そもそも今回報道されたこの「元海将(あるいは将官級の誰か)」が情報を受け取ったのかそしてそれがどこに流れたのかなどはわからない。仮に企業に持ち出されただけでも問題だが外国が関与していたなどということになれば大問題だろう。
外国の関与がないならないですぐに発表されるべきである。産経新聞は外国に持ち出されたという証拠は上がっていないと書いているが、持ち出すつもりがあったならその時点で大問題だ。「結果的に持ち出されなかったからよかったですね」ということにはならない。そもそも「某政府関係者」のオフレコであり政府の責任のある回答ではない。つまり「政府が把握していない」と言っているだけである。自慢できるような話ではないだろう。
ただこうしたオフレコベースの報道は日本では珍しくない。つまり、日本の報道だけを見ていても違和感はあまり感じない。たまたまドイツで機密情報がロシアに漏れたというニュースが見つかった。副首相が会見を行っており「政治がきちんと関与している」ことがわかる。これが普通の対応だ。日本では報道が出た後で政府の要職にある人が「状況をきちんと把握しています」と発表をすることはない。できればとばっちりを受けたくないのだろうし、あるいは自分達の監督責任を自覚していないのかもしれない。
政府が不祥事に関して責任を回避する一方で防衛予算には熱い視線が集まっている。時事通信は「安全保障が錦の御旗」になっているとして批判している。岸田総理は「今は有事だ」と強調すれば予算の膨張も増税も正当化できると計算しているのであろう。余剰金を「掻き集めて」基金を作ろうともしているが、他に回るはずだった事業が圧迫される。
岸田政権は「国民は黙って税金を差し出せばいい」し「自衛隊は黙って政治に従っていればいい」と考えているのだろう。実際に自衛隊は「憲法の外」にあり政治的な発言を行うことはない。自衛隊は政治にとって都合のいい存在だ。
では自衛隊やOBたちが何の不満も持っていないのかということになる。
日本共産党の志位委員長が自衛隊の香田洋二氏の「砂糖の山に群がるアリ」発言を引用して防衛費議論を批判している。そもそも自衛隊の存在を認めたくない共産党が自衛隊出身者の言葉を引用して広めるという実に複雑な事態だが、現場の声を聞かずに勝手に話を進める政府に対する苛立ちは十分に伝わる。
原文は朝日新聞のインタビューだが「「今回の計画からは、自衛隊の現場のにおいがしません。本当に日本を守るために、現場が最も必要で有効なものを積み上げたものなのだろうか。言い方は極端ですが、43兆円という砂糖の山にたかるアリみたいになっているんじゃないでしょうか」」と言っている。この後「身の丈を超えている」と発言しており、装備だけを充実させても自衛官がついてこれなければ意味がないという趣旨のようだ。毎日新聞でも同様な指摘をしている。
おそらく共産党は「軍拡反対」の立場からこの香田発言を引用したのだろうが実際に幸田さんが言いたかったのは現場の状況を踏まえた上で装備計画を立ててくれなければ実際の安全保障に早くに立ちませんよということのようだ。これを「現場のにおい」という独特の表現で伝えようとしている。
いうまでもないことだが、実際に国土防衛してくれるのは優れたミサイルシステムではなくそれを動かす人である。幹部を含めた自衛官たちが本当に納得感を持って働いているのか、あるいは現在の事態を苦々しく思っているのかという点はもっと注目されて良いと思う。彼らの声が十分に吸い上げられていないのならば憲法改正をして自衛隊をきちんと憲法の枠組に組み込むべきだろう。つまり誰が責任を取るべきかを含めて明確にすべきである。
今回のケースはまだ詳しい報道が少ない。政府が今後どのように説明をしそれをマスコミがどのように報道するのかに注目が集まる。立件も視野にと書かれているが騒ぎが大きくならない場合は懲戒処分だけて終わってしまう可能性もある。事件にならなければそのまま多くのニュースの中に埋もれてしまうのかもしれない。
いずれにせよ今のところ増税と予算拡大に邁進する政府には自衛隊の現場の声を聞き自ら率先して責任を取るという積極的な姿勢は見受けられない。