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緊縮財政路線へまた一歩。岸田政権が既存事業に「エビデンス」を求める。

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年末に国会が終わってから立て続けに岸田総理が緊縮財政に向けて一歩ずつ前進している。今度は既存事業全てに「エビデンス」を求めるという報道が出てきた。うまく運用すれば無駄を省くことができそうだが「エビデンス」を恣意的に選べば気に入らない事業を切ることができるようになるだろう。いずれにせよ既存事業の見直しが始まったのだ。

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時事通信は「行政レビュー「抜本見直し」 効果的な政策立案目指す 岸田首相」という記事の中で行政事業レビューにEBPMという手法を導入することにしたと報道している。5,000の全事業に適用するということだ。「関連性のない検証項目の廃止」も検討すると言っていることから「誰が廃止判断をするか」によって恣意的な運用が可能な内容になっている。

もちろん正しく運用されればEBPMは予算編成の無駄を省くことができる良い制度だろう。安倍政権下の国会での予算編成作業を見ていると「とりあえず根拠づけは後だ」と言わんばかりの予算編成が横行していた。いちおうビーバイシー(Benefit/Cost)という考え方はあったようだが、恣意的な指標を作り「これは未来への投資だ」というような説明がまかり通っていた。

今後の注目点は引き続き、誰がこの国の運転席に座っているのかという点になりそうだ。

日銀が事実上の利上げを決めた時、Twitterには「官邸に事前の相談がなかった」というようなキャプチャーが流れてくるのを見た。実際に「岸田政権は事前に知らされていなかったようだ」というニュース記事を元に記事を書いたネットメディアもあったようである。

これが修正されている。時事通信が「アベノミクス、修正探る岸田首相 日銀決定に影響か 「機動的な運営」先月共有」という記事を書いている。つまり岸田総理と黒田総裁は事前に確認をしあっていて、岸田総理の意向が強く働いたのではないかというのだ。つまり、政権側は「一連の流れは追い込まれて決まったものではなく岸田総理が強いリーダーシップを発揮しているからこそ起きたのだ」という印象をつけたいのだろう。時事通信の記事は安倍派への配慮で記事を終えている。つまり時事通信は政局に関心がある。

同じようなトーンの記事がロイターからも出ている。こちらは「焦点:柔軟な政策求めた政府、変動容認で応じた日銀 認識共有へ布石」という記事だ。時事通信よりも正確に状況を判断していると思われる箇所がいくつかある。

  • 政府側は「柔軟な対応」を求めていた。だがその指示は曖昧なものだった。なお、ロイターは具体的な指示の内容を書いているだけで曖昧とは言っていない。
  • 日銀には日銀の思惑があり今回の「事実上の利上げ」の発表をした。
  • ところが金融市場は政府・日銀の思惑通りには動かなかった。

これは岸田政調会長時代からよく見られたおなじみの光景だ。追い込まれてから狭い範囲で意思決定をする。これが思わぬハレーションを引き起こし大騒ぎになるのだ。そこから当初の「聞いていなかった発言」を解釈すると「こんなに大騒ぎになるとは聞いていなかった」ということなのだろう。

おそらく今回のエビデンスベースという方針も後に党内外から反発されれば「きちんと運用できると聞いていたのに」ということになるはずだ。

菅前総理は「増税より先に行政改革だ」と言っている。だがこれも誰が指標を判断するかによって「いい行政改革」と「悪い行政改革」の差が出てくる。おそらく切られた事業に関わる人はなんであれ「悪い行政改革」とみなすはずである。

ただし「岸田総理が追い込まれているのかいないのか」というのは既にもうどうでもいいことなのかもしれない。個人への影響としては住宅ローンの金利上昇が見込まれている。また企業の資金調達も難しくなるだろう。

永田町は安倍派を刺激しないように「アベノミクスが終わったわけではなく状況が変化したのだ」と思わせたい。だが国民にとってはもはやどうでもいいことである。

防衛費に関してはアメリカの要望に応え党内の保守派の要望に応える形で数字ありきの防衛費増額を決めている。根拠は「中国が攻めてくるかもしれない」という曖昧なものである。だがその費用を捻出するために「既存の事業にも厳しいエビデンスを求めます」という宣言をした形になっている。おそらく新規事業については「税源も一緒に提案してこい」ということになるだろう。おそらく産業のある都市部よりも地方の方が大きな影響を受ける。

トリクルダウンというありもしない神話を信じたツケは大きかったようだ。

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