ざっくり解説 時々深掘り

政府・日銀は政策変更を否定するが、金融市場は正しく「日銀の事実上の利上げ」と判断

火曜日の午後は大騒ぎだった。日銀が突然「事実上の利上げ」を決めたと報道されたからである。日銀の金利維持政策も限界だったのだなと感じた。これを受けて政府・日銀は「あれは利上げでも政策判断でもない」という声明を出したが市場は「正しく」反応し為替は円高方向にふれた。安倍派重鎮の中には「アベノミクスは継続される」と主張している人もいるが「住宅金利が上がるのでは?」というエコノミストの声を伝えるテレビ局もある。それぞれの思惑でそれぞれの方向に走り出した感がある。アベノミクスがまだ継続していると信じたい人もいるだろうが一つの時代が終わったという気がする。トリクルダウンはなかったのだ。

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第一に報道にある「事実上の」とは何だろうかと感じた人は多かったのではないだろうか。実は日銀は金融政策を変更したとは言っていない。政策金利は短期・長期とも据え置かれたが「許容変動幅」が変わったと書かれている。だが日経新聞をはじめ各紙は「事実上の利上げだ」というヘッドラインでこのニュースを伝えた。

黒田総裁が説明する通りだ。日銀は政策変更はしていない。だが日銀は現状を追認せざるを得なかったようだ。ここに第一の危うさがある。

このニュースについてQuoraにいくつか記事や回答を書いたのだが「日銀は国債買い入れを増やすようだ」という日経新聞の記事を教えてくれた人がいた。国債の買いが膨らんでおり「これまでの金利幅は維持しきれない」と判断したのかもしれない。

日銀はアベノミクスを支えるために国債を無制限で購入し価格の下落を抑えている。だが日銀が保有する国債は総発行額の50%を超えたという。さらに最近では新規で発行してもそれを即座に買い取るようなことも行っているようだ。日経新聞はこの発表の前にすでに「国内の債権市場に無言の警鐘がなり始めた」と不吉な書き方をしていた。ここからさらに買い入れ幅を増やすとすれば「事前に枠を広げておかなければならない」と考えても当然である。

状況追認のつもりが「政策変更だ」と受け取られたと考える。だが事実上の政策変更というメッセージは一人歩きし、結果的にそれが「正しい」ものとして定着しつつあるというのが現状だ。

おそらくもう限界だったのだろう。そこで許容金利を上下とも広げた。当然金利は上昇傾向だからこれが「実質的な利上げ」と受け止められたのである。結果的には「事実上の利上げという観測」が正しかったことになる。金融市場がそう判断したのだからそれが「正しい」のである。

鈴木財務大臣から気になる発言もあった。先日共同通信が「日銀と政府が共同声明を見直しますよ」という報道を出していた。今回、鈴木財務大臣はこの報道を否定したようだ。これは疑心暗鬼を呼ぶのではないかと思う。誰がどんな目的で共同通信の報道の元になる情報を流したのかがわからなくなった。

今回最も顕著だったのが安倍派の反応である。西村経済産業大臣、世耕参院幹事長、松野官房長官がそれぞれ「政策変更ではない」と否定している。最もわかりやすいのが世耕氏だ。アベノミクスは維持されていると「理解している」と言っている。このことが逆に世耕氏が状況を把握していることを物語っている。世耕氏がどう理解しているかはこの際どうでもいい。人々は脱アベノミクスに向けて走り出したのだ。

ここは岸田総理が日銀・財務省と共同して「正常化」に向けて動いていると思いたいところである。岸田総理は今回の防衛増税議論で「新しいことをやるためには新しい財源を準備してこなければならない」というペイゴー原則を提示して見せたという識者がいる。つまり誰かがシナリオを書いている。これはアベノミクスの明確な修正である。

仮に、防衛増税・共同通信の報道・日銀の事実上の利上げ発表がシナリオ通りならば、あまり面白くはないが安心はできる。「政府は説明してくれない」のだがシナリオには結末がある。最悪なことにはならないだろう。誰がシナリオを書いているかはわからないが、あとは脚本家が名作家であることを願うばかりだ。

ただそれぞれが打ち出しているメッセージにはかなりばらつきがあり整合性がない。

さらに、我々が知っている岸田総理は稀有な「優柔不断力」を発揮して事態を散々悪化させた結果として最悪の状態で判断をする傾向がある。仮に財務省・日銀から警鐘が鳴り響きそれを政府に解らせる形で共同通信の報道が出たとすると鈴木財務大臣の否定会見は「いまだに政府にはメッセージが響いていない」ということになる。

防衛増税で刺激された安倍派に対して鈴木財務大臣が「共同通信の言っていることは正しいですよ」などとは口が裂けても言えないだろう。さらに安倍派が刺激されることは目に見えている。つまり党は対立に縛られて増税推進の岸田政権が動けなくなっている可能性も捨てきれないのである。

おそらく党は対立の影響もあり岸田政権は明確なメッセージを打ち出せていない。だが、今回の件でマスコミは早速「わかりやすい解説」を出している。荻原博子さんは「もしかしたら住宅ローンも上がるのでは?」としている。これを「正しく」受け止めた庶民は節約に走るだろう。当然企業もそう思っているはずだ。借入が難しくなると判断すれば当然ながら先行投資はしない。さらに賃金アップの要請にも応えないだろう。景気が上向かない中、数年後には法人税が増税されることがわかっているのだ。仮に「政府は身動きが取れないのだな」と判断してしまえば企業は政府の要請には応えなくなるだろう。

積極財政により経済に好循環を生むというのは結局は単なる神話だった。この神話が維持できなくなり現状を追認する形で修正が進んでいる。この点は間違いがなさそうだ。だがその修正にシナリオ作家がいるのかあるいはそうでないのかという点がよくわらない。

もしかするとシナリオ作家はおらず単に津波警報が鳴っただけかもしれない。「正常化に向かうか疑心暗鬼が続くだろう」とロイターが取材した金融関係者の一人は言っている。「あるいは誰も状況をコントロールしていないのではないか」という疑いも持ちつつ、今後の報道に注目したい。

参考資料

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