萩生田政調会長が台湾を訪問し蔡英文総統と会談を行ったそうだ。日経新聞によると「安倍晋三元首相が亡き後の日台関係をしっかりつなぐことができるよう、後継者と言うのはおこがましいが力を尽くしたい」と安倍晋三氏の後継としての意欲を滲ませたそうである。一部では萩生田氏に対する期待が高まっているのではないかと感じた。今回は萩生田氏がこのほかに抱える三つの防衛について考えてみたい。
萩生田氏の狙いは中国に対峙する強い日本をアピールし安倍元総理の後継者の地位を固めることなのだろう。マスコミに応えての「後継者意欲アピール」だから記者たちもそのことはよくわかっている。だから、日経新聞が「おこがましい発言」を冒頭に持ってきたのは的確だ。
その中で防衛増税に触れ「国債の償還費の見直しも検討すべきでは」と独自の見解を披瀝した。増税を避けたい有権者の一部は胸を撫で下ろしていることだろう。防衛力を増強したいが負担は増やしたくないと言う人は大勢いる。
台湾の地方選挙で敗北した蔡英文総統もカウンターパートとして椅子を用意した。つまり「国家元首の客」として対等に見えるような待遇をしたのである。蔡英文氏も国際的な支援があるとを国民にアピールしたい。そのためには願ってもない機会なのだ。
萩生田氏が安倍総理の後継者になった場合には「三つの防衛」について検討する必要がある。一つはこの席でも触れられた日本と民主主義陣営の防衛である。台頭する中国を念頭にアジアのトップリーダーとしての地位を守り抜くという意図があるのだろう。軍事外交は極めて重要だ。
もう一つの防衛は通貨・経済防衛だ。実はかなり大変な状態に陥っているが日銀・財務省に任せきりになっている。だが状況はかなり悪化しているようだ。国際的に金利が高騰し日銀はついに含み損を出した。現在の日銀は市場で国債が値崩れするとそれを全て買っている。おそらく今後は新規国債を発行しても日銀が引き取ることになるだろう。0.38%を超えると債務超過という状況に陥る。これは無制限の日本売りにつながりかねない危険な状況だ。
円安により経常収支も単月赤字に転落した。現在通貨防衛は小康状態だがアメリカの高金利政策は長期化が懸念されている。神田財務官が防衛体制を構築したが一時は「籠城」などと呼ばれていた。つまりまだこれは過ぎ去った危機ではない。
近年、財務規律の見直しが金融市場の離反につながった例がある。それがイギリスのトラスショックだった。金融市場から離反されてトラス首相は短い間に公約撤回に追い込まれた。私は敗残者ではないと議会で強がって見せたが、最終的に党首選挙でライバルだったリシ・スナク氏に首相の座を譲り渡すことになった。
銀行員経験がある岸田総理は盛んに「国債依存で防衛力の強化はやらない」と言っている。トラスショックをまともに分析している人の発言としては極めて真っ当である。国際金融市場は抵抗しない。また選挙まを待ってはくれない。ある日淡々と日本売りを始めるのだ。
もう一つの防衛は少子高齢化である。NHKの日曜討論では少子化問題について話し合われたが小倉担当大臣は安定財源の確保を訴えた。日本の出生数は過去最低になっており政府の想定より早いスピードで少子化が進んでいる。地方の方が出生率は高いそうだが東京などの大都市に流出することが多いのだそうだ。このままでは防衛する国土には誰も住んでいないという状態が作られるかもしれない。
三つの防衛のうち二つは緊急度が極めて高い「今そこにある危機」である。
現在日本の政治について聞くと「私が政治について語るのはちょっと」と臆して語らない人たちが多い。だが政治について積極的に勇ましい意見を言う人たちは防衛議論については熱心だが残りの二つに関しては極めて無関心かつ冷淡である。子育ては自己責任で勝手にやればいいが「ミサイルは買わなければならない」などと言い出しかねない。
さてここまで考えたのは萩生田政調会長が国をまとめる立場になったときに抱えるであろう大きな防衛の話だった。だがその前に語られなければならない小さな防衛がある。それが永田町の嫉妬心との戦いである。
安倍元総理の後継を狙っている人は大勢いる。安倍派の次の領袖を誰にするかについても休戦状態にすぎない。また、領収に慣れたとしても大きな派閥を支えるためには大きな財源がいる。そのためには色々な人たちと協力しなければならない。ここで「なんだ国家元首気取りか」となれば嫉妬心からくる反発を招きかねない。永田町の嫉妬ほど怖いものはない。
マスコミ向けの絵作りには嫉妬心を呼ぶというデメリットもある。その意味では岸田総理がこの写真をどう言う気持ちで見たのかは少し気になる。総理を支える政調会長と言う立場でありながら「総理を差し置いて独自外交ですか」ということになればあまり面白い展開にはならないように思える。
最後の障壁は国全体としては取るに足らないものなのかもしれないのだが、嫉妬心との戦いは永田町の中では意外と大きなファクターなのではないかと感じる。