ざっくり解説 時々深掘り

財務省が差し出した「余剰金」で防衛費増額16兆円の大部分を補填へ

カテゴリー:

岸田総理が年内決着を目指していた防衛費増額議論だが「16兆円の大部分を余剰金で賄う」ことで決着しそうだ。実際に「余剰金が16兆円あった」というわけではないのだが、結局は政府が本気で探させれば官僚たちはなんとか差し出してくるわけだ。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






いささか煽り気味で不正確なタイトルなので、まずは共同通信の正確な表現を見てゆきたい。「23年度からの5年間で必要と見積もる増加分の約16兆円についても、特別会計の剰余金などを中心にかき集めた上で、不足する場合は一部増税による確保を検討する。」となっている。つまり16兆円の余剰金があったというわけではなく「当座必要な金が16兆円あり」「まずは特別会計の余剰金を充てる」となっている。これでも不足する分は増税したいというのが政府の考え方である。

「かき集める」という表現が生々しい。

このアイディアは岸田総理が鈴木財務大臣に財源捻出の指示をした結果として生み出されている。つまり財務省が差し出したと言って良い。鈴木財務大臣は「防衛費増額 「当初5年とその後は財源イメージ異なる」 鈴木財務大臣 当面は必ずしも増税による安定財源にこだわらない考えを示す」と言っているそうだ。5年後のことは5年後の政権が考えればいいということだろう。要するに先送りが決まったということになる。

ただ例えば3割や4割増税しますとなった場合「一部増税」という表現はふさわしくないだろう。おそらく有権者は「大部分は余剰金で賄われるのだから増税は回避された」と見做すはずだ。そしてその期間は5年間だ。数字は一人歩きする。

これまでも特別会計を経済対策に使ってはどうかというアイディアは国民民主党などから出ていた。国民民主党のウェブサイトを見ると「【法案提出】「外為特会繰入法案」を提出」というような記事があり今もその主張を変えていないようである。

この国民民主党が狙っている外為特会が今回財務省が差し出した特別会計の中に入っているかどうかはわからない。おそらく財務省としては「これだけかき集めました」とはいうだろうが自分達が残したいものは温存するのではないかと思われる。つまりおそらくその気になればまだまだ余剰金はあるのだろう。いくら出してくるのかは官僚の胸先三寸だ。

ではなぜ財務省はこれまで出し渋っていた余剰金を差し出したのだろうか。おそらく「将来の増税」の検討が入っているからだろう。つまり現在苦しんでいる国民を救済するためにはお金は出したくない。しかしながら「将来政権が増税してもいい」と約束してくれればそれは価値のある取引だと考えたのではないかと推察できる。冷静に考えるとなぜこれほどまでに増税に固執するのかはよくわからないがとにかくそうなっている。

さらに曖昧に「一部」となっている。つまり4割は増税で6割が余剰金でも「一部」とは言える。財務省としては具体的な言質を与えないことで「増税余地を残した」と考えたいのかもしれない。

さらに野田政権のような失敗も避けたい。財務省は埋蔵金探しを主張する民主党政権を2年以上に渡って「教育」しつづけて消費税増税に漕ぎ着けたのだが、国民の反発で政権が壊れてしまった。その後の安倍政権では日銀の金融政策による対策が打ち出され現在も出口探しに苦労している。おそらく「統一地方選で岸田政権が揺らげば今までの岸田政権への教育が無駄になる」と考えているのだろう。

いかにも頭の良さそうな議論なのだが財務省が考えるような展開にはなっていない。つまり財務省が期待するほどには政治も有権者も賢くはない。

おそらく今回の議論からは「その気になれば16兆円がポンと出てくるんだからまだまだなんとかなるのではないか?」というような方向に話が流れるのではないかと思う。増税しなくてもなんとかなるんだったら今後も余剰金を使ってなんとかして欲しいと国民は期待するはずだ。水は低きに流れる。

余剰金でなんとかなるんだったらこの話は終わりだと思いたいのだが実は政権内の意見はまとまっていない。岸田総理が「聞く力」を発揮し続けているからである。

統一地方選挙への影響を恐れる萩生田政調会長は依然「自民・萩生田氏、増税論けん制 防衛財源」と増税を牽制している。萩生田氏が主張する財源は当然国債である。つまりまだまだ借金ができるだろう?と言っている。ただ地方選挙を乗り切ってもまた別の選挙がやってくる。結局政治が増税を説得することは難しくなるだろう。

防衛費、規模先行否めず 安定財源確保は不透明」によるとすでに政府の有識者会議からは「増税で賄うべきだ」という答申を受け取っているが自民党側からは「国債で賄うべきだ」という声が上がっている。とはいえアメリカに約束した以上「税源が見つかりませんでしたごめんなさいと」は言えない。各方面からさまざまな声を聞いてしまっている。あとは岸田さんが決めるだけなのだがおそらく岸田さんが「決断力」を発揮することはないだろう。

結局、国民生活を豊かにして税収を増やすという当初の約束は完全に忘れ去られた。すでに借金も難しくなっている。そこで、家中の貯金箱や通帳をひっくり返して「使える金がどこかにないか」を探すような事態になっているようだ。それでも政権は「自分達が政権を担当している間(つまり長くて5年程度)はなんとかなる」と考えているのかもしれない。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です