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裾野市さくら保育園の園児暴行事件はなぜ長い間見過ごされてきたのか

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静岡県裾野市の私立認可保育園さくら保育園で保育士3名による園児暴行事件が起きた。保育士たちは逮捕され園長も犯人隠避の疑いで裾野市から告発されたようだ。「園児たちはカッターナイフで脅かされていた」と伝えられていたが告発は長期間放置されていたようだ。なぜ園児たちは長い期間危険に晒されてきたのか。理由は二つある。どちらも集団防衛のために園児たちが犠牲になっていたという構造だ。子供たちより自分達の方がかわいかったということになる。

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この理由のうち最初の理由はおそらく盛んに報道されることになるだろう。それは報道しやすいからである。そして二番目の理由はあまりおそらく報道されないだろう。

最初の理由は保育園の異常な状況に起因する。園長は「たまたましつけがゆきすぎたのだろう」と言っている。自分のマネジメントが失敗したと思いたくないために自己正当化を図っている。保護者たちに知られると大騒ぎになるのでさまざまな手段を使って事件を隠蔽しようとしていたとの疑いが持たれている。結局園長は市側から犯人隠避の疑いで告発された。

園長がどのような認識を持っていたかにかかわらず保育士たちがやっていたいたことは単なる暴行である。いかにもどこにでもいそうな優しそうな女性保育士三名だがカッターナイフで園児を脅かしていたという疑いまでもが持たれているそうだ。このレベルのことが起きても「自分の保育園を守りたい」という気持ちが勝ってしまうのである。組織防衛本能の根強さと恐ろしさを感じる。

ただ報道を見ていて違和感も感じた。静岡新聞の報道によるとこうした異常保育(単なる暴行なのだ)が行われ始めたのは6月だそうだが同僚保育士たちの告発は8月だった。かなり悩んで報告したのだろう。にもかかわらず「部局でなんとかしようとしていた」ことがわかる。市がこれを公表したのは11月の末だった。おそらく新聞報道が先行している。つまり報道されるまで表沙汰にならないようにしていた形跡があることになる。

その後の市長の強硬な態度を見るとどの辺りで報告が止まっていたのかがなんとなくわかる。報道されるかどうかはわからないが市長がいつこの件について知ったのかはおそらく大きなポイントになるだろう。

おそらく市職員と市長の間に深刻なコミュニケーションギャップがあったのだろうと思った。調べてみたところ「やはり」という感じだった。中日新聞によると村田悠(はるかぜ)市長は2022年1月に初当選している。当選当時34歳という若い市長だった。三期目を狙っていた現職を破って初当選している。市長が掲げていたのは市の人事改革だった。市長政策を説明したのウェブサイトには年功序列の排除と言った言葉が並ぶ。古くからいる市職員にとっては革命に近いような過激なメッセージに響くだろう。

当時の現職市長はウーブンシティというトヨタのテストコースの開発が裾野市に活気をもたらすと主張していた。おそらく「一部の人が潤うだけだろう」と期待を広げられなかったのだろう。だが、市の中には「一部の人」も多くいたはずで村田市長のことを面白く思っていなかった人は大勢いそうである。

こうした開発がらみのいざこざが実際にあったのかはわからないのだが、いずれにせよ改革を謳って当選した若い市長が市職員から抵抗されるというのはありそうなことだ。あの市長の得点になるから上には報告するなというような職員間のスクラムがあったとしてもなんら不思議ではない。一方で確たる証拠があるわけではないのだからマスコミがこれを報道することはないだろう。

新潮の記事によるとこの事件は静岡新聞の11月29日の報道がきっかけだったそうだ。静岡県警はこの報道で初めて暴行事件を認知することになった。裾野市の発表は11月30日と書かれている。市長がこの件についていつ知ったのかはよくわからないが事前に知らされていなかった可能性もある。その後の展開が急すぎるからだ。

こうした裾野市の状況を考慮せずにニュース見ると「市長もかなり重く受け止めているのだな」というような印象しか持たない。共同通信も市長と副市長が深々と頭を下げている様子を報道している。

だが、その一方で報告を遅らせていた市の幹部職員に対して市長は市側の幹部の処分をおこなっている。根深い対立が感じられる。地元では書類送検程度だろうという認識だったそうだが結局は保育士3名の逮捕と延長の告発という事態になった。市長の強い意向によるものだとされている。

保育園や市当局側がどのような気持ちで何を守ろうとしたのかは報道からは伝わってこない。だが実際に危険に晒され続けたのは園児たちだった。晴天の霹靂と言えるような事態に保育園に子供を通わせていた保護者の間には動揺が走っているそうだ。中には別の保育園に子供を通わせたいという保護者もいるそうである。当然だろう。

国側も「あってはならず誠に遺憾」と言っている。これまでも手引き書などを作っていたそうだが大人の事情で自分達の既得権を守りたい人たちには届かなかったようだ。

市長と市職員の間に深刻な問題があったと断定的に書くことはできない。ただ子供たちのことを第一に考えるなら、なぜこの問題が長い間部局で留め置かれたのか、市職員と市長との間にどんなやりとりがあったのかは報道されるべきだと思う。大人の事情で子供が犠牲になるなどあってはならないことだからだ。

参考資料