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サンフランシスコ市警察の殺人ロボット承認がアメリカで波紋を呼ぶ

サンフランシスコ市の市議会が「殺人ロボット」を承認したという話があるCNNBBCWIREDなどが伝えている。「ついにパンドラの箱が開いた」と話題になっている。「殺人ロボット」に目がゆきがちなのだが実はアメリカ国防総省が警察に軍事兵器を供給しているという背景がある。そもそもどうしてこんなことになったのか、さらにこれがどのようなインパクトを持つのかについて考える。

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WIREDによるときっかけはカリフォルニア州議会の決議だった。警察が軍用装備の調達・購入・使用をする際には地方自治体の監督が必要だと決議した。警察当局が「軍事化」しないようにシビリアンコントロールを効かせる狙いがあるのだという。しかし、ながらこのことは「軍用品を利用しないとアメリカの治安が守れなくなっている」ということを意味している。

ではなぜ警察は軍用品を調達できるのだろうか。背景にあるのはアメリカ国防総省のプログラムだ。日本では防衛省にあたる国防総省が警察に武器を提供している。だが地方行政はこれに対応しきれなかった。このため後付けで監督権限を付与することにしたのだ。

このプログラム1033はクリントン政権下で承認された。オバマ政権はこれに制限を加えたがトランプ政権下で限定が解除されたそうだ。アメリカの治安が悪化する中で全米に広がったものと思われる。警察力をどの程度限定的にするかについてはいまだに多くの議論がある。

ところがこうした軍用品は治安の悪い地域で多く利用される傾向がある。アメリカでは一般に有色人種が多い地域が治安が悪いとされている。つまり有色人種の差別につながりかねない。サンフランシスコ市ではでは議論が割れたそうである。

2020年にはアフリカ系アメリカ人ジョージ・フロイド氏が白人の警察官に殺されたという事件をきっかけにした暴動がいくつか起きた。シアトルでは市民が警察を包囲して占拠するという事件も起きている。リベラルな市民たちは警察を抑圧の象徴だと感じており中には「占拠と自治区の設定」という過激な行動に走る人たちもいたことになる。「自治区」では逆に治安が悪化し内部で死傷者も出る騒ぎになった。

つまり元々は警察にシビリアンコントロールを持たせる目的で規制が導入されたというニュースなのだが結果だけを見ると「サンフランシスコ市が殺人ロボットを承認した」というヘッドラインで広がった。前段の議論は取り除かれているため、サンフランシスコ市が何やら恐ろしい殺人ロボットを市民に差し向けようとしているというような印象になってしまっている。

「リベラル」なCNNはBBCが殺人ロボットと書く装備品を「殺傷力を持つロボット」とマイルドに表現したうえで、こうしたプログラムは限定的に運用されるとする警察の見通しを書いている。例えば自律型・事前プログラミング型などは使わないとしている。兵器を装備品と言い換える日本の自衛隊と同じ手法である。

だがこれは逆に実際には自律型・事前プログラミング型の殺人兵器が既に開発されているということを意味している。実際の戦争ではイラン製などと言われるドローンが徘徊しつつ市民を狙っている。こうしたドローンはカミカゼ・ドローンという日本人にとってはありがたくない名前で呼ばれている。軍事兵器という意味では限りなく残忍な発想で市民が襲われている地域があるのだ。

アメリカのリベラルはこうした現実に晒されており「市民に向けて軍事兵器が使用されるべきではない」という前提が置けない。このため「こうした兵器は限定的に利用されるのだ」と釈明せざるを得ない。

「殺傷力を持つロボット」の延長線上には「無差別攻撃プログラムを搭載可能な兵器」があることになるだろう。BBCはこれを「滑りやすい坂道」と表現する。つまり一度過激化の道を進み始めるとどんどん軍事化が進んでしまうと指摘している。自衛隊がもともと警察予備隊と呼ばれる警察力を起源に持っており「内政秩序維持」の役割も期待されていたことからもわかるようにもともと軍事と警察力の境目は曖昧なものだ。

専制主義とされる中国で警察力が軍事兵器を使って市民を統治するとなれば大問題になりそうだが、実はアメリカの合衆国の方が深刻な状態にある。だがアメリカは徐々に治安が悪化しているため、治安維持に軍事兵器利用が必要ということになってもこれを「内戦だ」という人は誰もいない。それはサンフランシスコ市のように本来開かれてリベラルとされる都市も例外ではない。

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