時事通信が元気だ。国民民主党と自民党が連立を組むのではないかという観測を出た。タイトルは「自民、国民と連立検討 局面転換狙う、玉木氏入閣案―公明反発も、実現不透明」となっている。つまり玉木さんを大臣にして国民民主党を取り込もうとしているわけである。岸田総理も国民民主党の玉木代表もこの報道を否定している。
降ってわいた真冬の怪談のような話だが、今後岸田政権が揺らぐに連れてこの手の話が多く出てきそうである。背景を考察した。
主語を自民党にするか岸田政権にするかは悩ましいところだが支持率が伸び悩んでいる。安倍元総理がなくなり国葬問題で揺れ始めた頃から自由落下のように支持率が落ち込んでいることから党内バランスが崩れていることは間違いがない。こうなると政策より政局の話が多く聞かれるようになる。さらに動揺すれば「なんとかおろし」になるのだが、この手の話は前段階と言って良いだろう。
この話の展開は面白いものだた。まず「一部報道が否定された」という話が出てきた。この時点で「うちが一部報道ですよ」というところはなかったようだ。そしてその後で時事通信の記事が出てきた。このため「時事通信の他にどこか先行して伝えたところがあったのでは?」と思ったのだが正確な出火元がどこなのかよくわからない。
だが、狙いは明確だ。国民民主党を引き込むという情報を流すことで政権内外に動揺が広がる。すると発信元の顔色を伺う人が出てくる。結果的に発信元に注目が集まり求心力が増すということになる。あるいは誘発されて地下で進行していた別の動きも見えてくるかもしれない。
ただ、一連の流れがあり単体の記事を読んだだけでは意味がわからない。
まず、玉木雄一郎さんについて軽く触れておく。もともと大平元首相の地盤だったところを受け継いだが自民党が取り込めなかったという人なのだそうだ。名藩の殿なのでつまり「家柄としては申し分ない」ということになる。戦後70年以上経って日本の政治が貴族化・武家化していることがわかる。朝日新聞は「過去の選挙戦では、自民に籍を置く選挙区内の首長が「身分は自民党員、所属政党は玉木党」と発言し、自民県連から除名処分を受ける出来事もあった。」と書いている。つまり玉木さんは「大平藩」の殿として扱われている。一体何時代の話なのかと思う。
次の論点は公明党との関係である。実は大きく揺らいでいる。
次の国会のテーマは統一教会問題だ。創価学会を支持母体としている公明党が抵抗している。弁護団は「このままでは全く役に立たない法律になる」と警鐘を鳴らしているが公明党は寄付行為に手を突っ込まれることは避けたいのだろう。
自民党と公明党の関係はかなり微妙なものになっている。防衛関連では公明党が妥協して敵基地を攻撃できる「反撃能力」の獲得に賛成した。平和の党という看板は押し入れにしまわれたまま埃をかぶって忘れ去ろうとしている。
だが、さすがに支持母体の根幹である宗教問題となると話は別である。公明党と自民党の中を割きたい人たちにとってこれは格好の攻撃材料になるだろう。
長く与党でも野党でもない「ゆ」党と揶揄されてきた維新は立憲民主党と組んで統一教会問題救済法案を推進している。大阪市は元々公明党が強い地域だがこの地域での優位を定着させたいという狙いもありそうだ。「公明党は統一教会問題に熱心ではない」と攻撃できれば地方選挙は優位に働くだろう。
そんななか、新たな「ゆ」党のポジションを狙い予算案に賛成してきた政党がある。それが国民民主党だ。維新にとってみれば「ゆ」党は維新だけではありませんよということになる。
つまり国民民主党で空気を揺らすことで、公明党や維新に対してもメッセージをおくることができるわけだ。立憲民主党・国民民主党の支援をしてきた連合もおそらく揺れるだろう。予算案に賛成する「与党シフト」ですら動揺している。
では「揺らして誰が得をするのか」ということが気になる。つまり、そもそもこの噂を流しているのは誰なのか。
時事通信は12月3日の朝に玉木氏入閣情報の他に「政権立て直しのために国民民主党の取り込みを図っているという記事を出している。記事の中には情報の発信源は書かれていないが、使われている顔写真は茂木幹事長だ。記事はどういうわけか、二つの因果関係のない話を合体させている。見事な仄めかしといえるかもしれない。
公明党は菅義偉氏を自公連立の要であると評価している。茂木幹事長には「一定の動機」がある。つまり菅義偉氏に出てきてほしくないのだろう。
現代ビジネスの生々しい記事に面白いエピソードがある。萩生田政調会長を批判していた八王子の創価学会だったが、菅さんが直接交渉すると攻撃が止んだのだそうだ。つまり、公明党をパートナーにしている限り菅義偉さんの影響力を落とすことができないのだ。
岸田総理では地方選挙を戦えないとなれば菅グループに期待が集まる。安倍元総理を支えて長期政権を支えてきた菅さんが「今度は誰を支えるのか」という点に期待が集まるだろう。つまり今後マスコミの目は菅さんに向くことになるだろう。
全く火のないところに煙を立てた「冬の幽霊」にすぎないなのか、あるいは自民党の一部の人たちが流した情報なのか。とにかくどこから出てきた話なのかがよくわからない。
政局情報はとかく「なんとか藩の殿」が永田町との関係を修復しつつあるというような話になってしまう。「もしかしたら近いうちに戦があるのか」という噂が流れそれを遠くから見守るというような風景は民主主義というよりむしろ戦国時代のようだ。