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イギリス王室職員が「あなたは本当はどこからきたの?」と黒人女性を侮辱し解任される

イギリスで王室職員の発言が問題視され解任されるという騒ぎがあった。ちょうど杉田水脈総務政務官の謝罪が話題になっており「謝罪の違い」を考え込んでしまった。イギリス王室は人種差別問題を深刻に受け止めSNSが炎上する前に職員を解任した。「統治」に深刻な影響が出るからだ。

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イギリス王室は国民統合のために自分達がどのような役割を果たしているのかをよく理解している。この統治者としての責任の意識が日本の政治にはない。杉田さんの謝罪には実効性もなければ真摯な気持ちもない。単に作文を読んだだけだ。

同じ島国のイギリスでも「すわ炎上」という騒ぎが起きた。ウイリアム皇太子のゴッドマザー(代父母)でカミラ王妃の側近となっている人物がイギリス人の女性活動家に対して「あなたは本当はどこからきたの?」と繰り返し質問したのだ。

イギリス王室の対応は素早かった。レディ・スーザン・ハッシーというこの職員の辞任が発表された報道によると「SNSでの告発の数時間後」だったそうだ。その後謝罪文が発表された。

黒人慈善団体の創設者、ンゴジ・フラニ氏の両親はカリブ海出身で彼女の容姿もアフリカ系だ。だが本人はイギリス出身だ。長く海外領土を抱えていたイギリスは多くの非ヨーロッパ系イギリス市民を抱えている。つまり領土拡大政策が第二次世界大戦で挫折した日本と大きく社会情勢が違っている。特にロンドンは世界的な金融市場になっており「イギリスの中でも外国」と呼ばれるほど多様化が進んでいるそうだ。現在のイギリスの首相はロンドン金融街出身のインド系ヒンズー教徒だが、首相の出自が問題になることはないのはロンドンを中心としたイギリスが多様性を当たり前のものとして受け止めていることを意味している。

非キリスト教徒が首相になってもイギリス人が実は密かに非ヨーロッパ系を差別しているのではないかという疑念が消えることはない。アフリカ系アメリカ人と結婚したヘンリー王子の子供には称号がなくアメリカ合衆国では「イギリス王室には人種差別が残っているのではないか」と疑う人は多い。今回のレディ・スーザン・ハッシーの辞任についてウィリアム皇太子がアメリカでのハレーションを避けたかったのではないかとBBCは指摘している。現在ウイリアム皇太子はアメリカを訪問しておりバイデン大統領と面会したことがニュースになっている。

ハーパス・バザーによると王室はこの件について素早く謝罪文を出したそうだ。スコットランドや北アイルランドの独立問題が燻り続けるイギリスにおいて王室は国民統合に積極的な役割を果たしてきた。貴族階級の中には多様化したイギリスが受け入れられない人もいるのだろうが多様性や包摂性の要としての役割を意識しているのである。またチャールズ三世の統治下で共和制移行の議論が活発化するのではないかという予測もある。王室は常に緊張感を持って発言をコントロールする必要がある。

杉田さんの遅すぎた形式的な謝罪を見ると「日本はまだまだ遅れている」という気がする。岸田総理も含めて統治者が道を誤れば国家が分裂しかねないという緊張感もないのだろう。だが日本の政治が遅れているだけであって社会全体の意識はかなり変わりつつある。

例えば人種差別だけでなく包摂性を損なう発言は少なくとも地上波では許されなくなっている。民放各局2023年4月1日から「民放連放送基準」を見直すことにしている。人種差別的な放送は許されなくなり価値観の多様化を踏まえた表現上の配慮も必要になる。

民放連は外国の目を意識するというよりはむしろ社会の要請に従ってガイドラインを定期的に見直している。民放のビジネスの中心は国内の広告収入であり視聴者・リスナーから離反されるわけにはゆかない。つまり、民放連の規約変更は必ずしも西洋のスタンダードにキャッチアップするためだけに改正されるわけではないだろう。

国会議員は「国民全体」に奉仕すると定められている。杉田さんは比例議員でありおそらく特定の人たちの意見を代表しているのだろう。つまり、国会議員になった時点で国民の価値観がどう変化しているかを鋭敏に感じ取る必要があった。もちろん表現の自由はあるわけだから杉田さんがどのような発言をしようが自由である。だが国会議員の振る舞いとしてはふさわしくないし、2023年4月からはこうした発言はテレビではできなくなる。

衆議院のウェブサイトには「国会議員は、主権者である国民の信託を受け、全国民を代表して国政の審議に当たる重要な職責を担っています。」と書かれている。

つまり本来は杉田さんのみならず日本の国会議員全員に「主権者である国民の信託」を遵守し続ける必要があるはずなのである。

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