読売新聞が「セルフレジで酒・たばこ、年齢確認にマイナカード利用を検討」という記事を出している。マイナンバーカード普及促進の一環なのだろう。確かに便利そうだなとは思ったが違和感も感じた。当初の「マイナンバーカードを持ち歩くな」という話はいったいどこにいったのだろう?と思ったからだ。間違っているとまでは思わないのだがいかにも要領が悪すぎる。
読売新聞と日経新聞を読み比べると両紙のアプローチの違いも感じる。
政府が検討しているのはセルフレジでのマイナンバーカード利用だ。酒やタバコを買ってもらう時の年齢確認に使ってもらいたのだそうだ。確かにセルフレジでみんながマイナンバーカードを取り出して年齢確認に利用するようになれば「マイナンバーカードが普及したなあ」と感じられるようになるだろう。便利になるので反対するつもりは全くない。だが、やはり違和感は感じる。
違和感を感じる理由は3つある。
第一の理由は経済合理性のなさだ。マイナンバーカードで自動化する必要が見当たらない。スーパーマーケットは監視員をおいてセルフレジ対応している。セルフレジやセミ・セルフレジに戸惑う人が多く却って手間が増えたという話もあるようだ。またセルフレジで客の不正をチェックするのに疲れてアルバイトを辞めてしまったという人もいる。万引きはいけないことなのだが所得が上がらない中で物価が高騰を続けている。そんなときにセルフレジならひょっとしてなんとかなるのではないかと考える人がいるようだ。
いずれにせよ、機械操作になれない高齢者や生活が苦しい人たちがいる限りスーパーマーケットから監視員がいなくなるという未来は想定しにくい。従ってわざわざコストをかけてまでマイナンバーカード対応の装置を導入しようというお店は増えないだろう。
第二の理由は当初の風評の存在だ。当初の「マイナンバーカードは危険だから持ち歩くな」というメッセージが盛んに流れてきた。kろえが漠然と印象として残っているため「そんな危険なものをレジなんかで使って良いの?」という疑念は湧く。実際には暗唱番号がわからなければ悪用されることはないというのだが、挿しっぱなしにして忘れたら大変なことになりそうな気がしてなんとなく不安である。政府はビニールカバーを廃止して「番号を見られても大丈夫」と方針を転換している。だが、亡霊のように一人歩きする風評を消すことができる人はいない。読売新聞は「金庫で保管している人もいるがその必要はない」という政府関係者のコメントを書いている。国民が勝手に誤解しているというような言い方だが、元々その印象を作ったのは政府である。
第三の違和感は実運用との間にあるちぐはぐさだ。確かに政府はさまざまなシーンでマイナンバーカードが人の目に触れるようなアイディアを出している。だが、マイナンバーカードをなくしたときのめんどくささはなくなっていない。申請はスマホでできるのかもしれないだが一度は市役所に出向かなければならない。ましてや「即時再発行」というわけにもいかないようだ。中には確定申告の申請などに使う人もいるのだから、買い物などで頻繁に使って失くしたら面倒だと感じる人は多いだろう。さらに些細な話だが再申請はおそらく有償だろう。
仮に政府が本気でこのシステムを導入したいのなら、まずは「当初の危ないという説明は事実ではありませんでした」と認めた上でさまざまな対策を打ち出すべきだろう。だが政府はなぜか過去の間違いが認めたくない。また再発行が容易になったという話も聞かない。
松野官房長官はこのセルフレジでのマイナンバーカードの活用を政府のデジタル化の一環だと説明しているが、マイナンバーカードという申請や再発行が不便な仕組みにこだわるならスマホに直接政府認証をつけてくれた方が手っ取り早い気がする。
自宅でマイナンバーカードによる認証をしたり政府が公認する窓口にスマホを渡して認証をつけてもらえるようにお願いするという仕組みが考えられる。政府がマイナンバーカードという形式にこだわることさえやめてくれたなら日本社会のデジタル化はさらに進展するだろう。
日経新聞の書き方を見ると「お店の要求」をマイナンバーカード普及の取引材料にしているということがわかる。
- お店側はセルフレジでお酒を売りたい。
- 政府はそれを認めてあげる。
- その代わりに年齢認証にマイナンバーカードを使えと言っている。
- ガイドラインを作ってお店がマイナンバーカードを使うように誘導する
改めて読売新聞の記事を読み返すと「お店の要望を後押しする」と言っている。つまり、政府が親切にも助けてあげているのだといっているのである。日経新聞は企業側の目線に立って伝えているのだが、読売新聞が「お上目線」のパターナリズムに陥っていることがわかる。
確かにガイドラインまで作られたら、高価な「マイナンバーカード読み取り装置付き」のセルフレジを導入せざるを得なくなるだろう。
自由主義の原則から見ればやり方は企業に任せて逸脱行為だけを取り締まるべきなのだろうが、政府はマイナンバーカードは成功したと言いたいがためにあまり便利とは言えない仕組みを企業に押し付けようとしているということがわかる。