政府から流れてくる情報を見ていると「政府」が虎視眈々と増税路線の定着に向けて動いていることがわかる。過去に2回失敗しているために今度こそは増税路線を定着させたいと考えているのだろう。ロイターに「再送-防衛財源巡る増税は24年度以降と想定、歳出改革を先行=政府筋」という記事を見つけた。過去二回の失敗を踏まえて「三度目の正直」を目指す政府の姿勢がよくわかる。
あまり意味がないのかもしれないが今回は主語は政府ではなく財務省にした。増税議論を喜びそうなところが財務省しかないからだ。
一度目の失敗は民主党政権
財務省は過去に2回増税路線の定着に失敗している。一度は野田政権だ。民主党政権に好きなように政治をやらせたあと「やはり消費税を増税しないともたない」と認めさせた。この時は行政仕分けを諦めさせるのに2年かかった。だが野田政権が突然増税路線に転じたために財務省の計画は失敗した。野田さんの変心は唐突過ぎたのだ。
民主党で政権を担当した人たちはおそらく消費税減税を言い出すと政権担当ができなくなることがわかっている。立憲民主党の枝野前代表の発言を見ているとそのことがよくわかる。日経新聞が「枝野前代表の「消費税減税間違い」発言 立民内に波紋」という記事を書いている。記事では責任政党という言い方がされているが、要するに財務省を敵に回すと政権担当できないということになる。減税方針を変えていないと主張する泉さんは鳩山内閣で内閣政務官をやっているがその他に目立った役職にはついていない。
二度目の失敗は安倍政権
次の失敗は安倍政権だ。黒田日銀総裁との連携はうまくゆき「戦後最長の好景気」と政府が主張できるような状態を作り出した。実際にそうだったかはこの際に全く関係がない。政権中枢が信じ込むことが重要だ。逆に思い込みが強い総理大臣の方がむしろ都合がいいかもしれない。
この時も消費税増税を狙ったのだろう。安倍元総理は消費税増税には合意したがおそらく財務省にとって計算外だったのは安倍元総理が「教育費の無償化」という国民へのプレゼントをセットにしたことだろう。財務省は国民へのプレゼントには興味がない。これも失敗と言って良いだろう。
過去の失敗に学び「今度こそは」と意気込む岸田政権
おそらく今回はこれらの失敗を踏まえて慎重に空気を作ろうとしている。まず国民の反発が強い消費税を使った増税は行わないことにした。仮に成功できたとしても財務省から見れば「代償」が大きすぎる。そしておそらく野田政権のような失敗をしないために徐々に情報を出す作戦に転じたのではないかと思う。
「他にやるべきことがある」も封じたい。民主党は外からやってきたため埋蔵金発掘に失敗した。だが財務省の人たちは構造がよくわかっている。そのため2023年はまず余剰金を掘ってみて「それでもダメだったから税金を上げたい」とするのだろう。この時に自分達の権益につながりそうなものは差し出さず適当に見繕って政権に渡せばいい。
自民党内で増税に反対する人たちにも配慮する必要がある。積極財政論の持ち主は安全保障にも関心がある人が多い。防衛費増税なら反対はしにくいだろう。政治家の利権にならない消費税と比べると、関係者を抑えやすい防衛費はじつに都合がいい。
今回の記事を読むと「2023年には増税はない」という点がまず強調されている。2023年は歳出削減の形を作る。さらに新型コロナで経済が落ち込んでいるのだから「ここから回復した」という形を取れば「政府の景気刺激策が成功した」とも言いやすいだろう。安倍政権の貴重な教訓は「国民が実感できなくても政治家さえ納得をすればいい」というものだったのだから今度は岸田政権さえ説得できればいいのだ。そのあとの2024年から増税を「既定路線」として進行させればいいということになる。
最後の懸念は岸田総理の「聞く力」
ロイターの記事には「政府関係者」と出てくるだけで、誰が言っているかについては書かれていない。政権浮揚に財源が必要な岸田総理は財務省に頼る必要がある。つまり主語が政府だろうが財務省だろが政権だろうがなんでも構わない訳である。岸田総理は国会審議で「安税財源の必要性」について触れている。
おそらく財務省の最後の懸念は「いつまで経っても具体論に触れない」総理大臣にどう状況を突破させるかなのだろう。周りから雰囲気を盛り上げても政治家が「増税批判」という矢を全身に受けてくれなければ意味がないのだ。政権が派手に倒れてくれれば国民はそれで納得して増税を受け入れてくれるかもしれない。これもこれまでの消費税増税で財務省が学んだことである。総理大臣は何人も倒れたが消費税は10%まで上がった。
財務省官僚の頭の良さは過去の失敗から学び緻密な計算をして過去の穴を塞ぐところにある。そのために諦めず何度も挑戦するというメンタルの強さも評価されて良いだろう。一方で増税の押し付けが日本経済の今後や国民全体の幸せにとって良いことなのかという視点は全く欠落している。