お坊さんにまで薬物汚染が広がるタイの深刻な事情

「微笑みの国」タイのあるお寺から僧侶が全員いなくなった。全員が薬物検査で陽性判定を受けたためだ。僧侶は全て還俗し地元の人たちが困っているという。「そんなこともあるんだなあ」などと思って読んだのだが調べてみたら意外と深刻なことになっていた。薬物流入を止められなかったタイでは比較的安全な大麻が解禁された。だがそのほかの薬物も広がっており対応が追いついていない。日本の常識では想像できないが旅行者にとっては「知らなかった」では済まされない状況になっている。






事件があったのはペッチャブーン県ブンサームパンという町だ。バンコクを北上するとペッチャブーン県に入りそのまま北上するとラオスのルアンパパーンに入ることができる。そのままさらに北上すると中国の雲南省に入るという位置関係にある。北上せずに西に進むとビルマに入る。ここにはタイ語と同系統の言語を話す人たちが住んでいる。

実はこの地域は麻薬屋覚醒剤の交易路になっている。AFPの記事の中にはビルマのシャーン州からラオスを経由して薬物が持ち込まれたと書かれている。元々ビルマ族はヒマラヤ山脈の北麓にいた人たちだがイラワジ川流域に進出し地域の民族を征服した。シャン州はイラワジ川流域からは外れておりシャン族と呼ばれる人々が住んでいる。これはシャム(タイの旧名)がなまったものなのだそうである。つまりこの地域に住んでいる人たちはビルマ領内にいるタイ人ということになる。

ラオスを挟んでビルマ東部とタイの交流は盛んである。このため様々な物資がこの地域を流通する。薬物もその一つである。

お坊さんと麻薬・覚醒剤というとかなり過激な組み合わせのように思える。だが実は宗教は薬物汚染の救済施設としての役割を果たしてきた。つまり仏教僧と薬物患者にはかねてより接点がある。

西日本新聞にお寺が若者の救済施設になっているとする記事が見つかった。これが2018年の記事である。1959年から麻薬患者を受け入れているという。困った人を助けるのが仏教僧の仕事であることは間違いがないが「ミイラとりがミイラに」ということなのかもしれない。

ではなぜタイではこのような救済が必要なのか。第一に東南アジア各国から様々な薬物が流れてくるという事情がある。またタイ人は薬物にあまり警戒心を持たないようだ。

2016年にはすでに「タイでは麻薬の合法化が進んでいる」とする記事が見つかった。

もともとタイでは薬物犯罪は厳しく制限されてきた。所持しただけで死刑になることもあるそうだ。ところが軍事政権になってからこの規制が追いつかなくなっている。

厳しく制限されている大麻が高値で取引される一方でメタンフェミンが安値で取引されているそうだ。日本でも戦中に兵士に支給されていたという話があるが勉強に集中したい学生や居眠り運転を避けたいトラック運転手などの間で広まっているそうだ。あまり罪悪感なく使い始めそのまま依存状態に陥ってしまう人も多い。

2018年には日系企業が対応に苦慮しているという記事が書かれていた。このため背中を拭くだけで薬物使用が判別できるという鑑別方法が人気を呼んでいるという。ここではアヘンや大麻に加えて「アンフェタミン系」の薬物が広まっていると書かれている。

この記事は「タイの法律では更生の機会を与えなければならないと定められており」と説明されているが、安易に刑務所を頼られても困るという政府側の事情もあるのだろう。

いずれにせよ、タイ政府は薬物の抑え込みに失敗した。

2022年7月になると「大麻解禁」に関する記事が見つかった。タイ政府は6月についに大麻を規制麻薬リストから削除した。スマホのアプリで申請すれば誰でも栽培できるようになったそうだ。つまり禁止せずに管理する方針に切り替えたのだ。

大麻解禁を進めてきたアヌティン保健大臣は希望する家庭に100万本の大麻草を配布する計画を立てているという。解禁されたのだから収入源として役立ててほしいという政策なのだそうだ。

ここまで読むと「タイ=大麻が全部OK」とみなす人も出てくるだろう。実際はそうではないのだが中にはそういう間違った印象を持つ人もいるはずだ。

こうなると「タイは薬物天国だ」という風評が広まり各地から薬物を求めてタイに渡ってくる人を惹きつけることになる。VICE Japanが「タイ政府が大麻草100万本を無料配布 ─ その裏事情とは」という記事を書いている。政府の目的は「大麻の管理」だが、そもそも薬物対策に失敗しているため、実際に監視ができるようには思えない。つまり、危険な薬物を求めてタイに人々が押し寄せるということになりかねないというわけである。

こうなると難しい立場に置かれるのが日本の旅行者である。タイでは大麻の合法化が進んでおり中には栽培を奨励する政府関係者まで現れた。街には「大麻成分入り」の飲料が溢れている。こうしたものを輸出入・所持・譲渡するとタイでの行為であっても国外犯処罰規定にひっかかるそうだ。

タイ政府の対応も後手に回っているのだから中には危険な場所もあるだろう。昔から人気の観光国なので見どころもたくさんあるはずだが、変なネットの情報に惑わされてタイに出かけていったら人生が滅茶苦茶になったというようなことも起こりかねないという状態になっている。

日本から飛行機でわずか数時間という国だが我が国では考えられないような変化が起きているようだ。

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