テレビが信じられなくなったらそっとブックマーク

ソマリアの首都のホテル占拠は20時間かかって鎮圧

Xで投稿をシェア

「西側」は民主的に選ばれた代表者がいる政府を支援したい。ではそもそも民主的な代表者を選ぶ選挙が行えない場合は西側はどう支援するべきなのだろうか。それがわかるのがソマリアである。アフガニスタンと同じような背景がありアフガニスタンと同じように失敗しつつある。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






ソマリア社会は氏族社会に分かれて内戦状態に陥っていた。ソマリアは多民族国家ではなくほぼソマリ人による単一民族国家である。ソマリ人はソマリアだけでなくエチオピアの東部やケニア北部にも多く暮らしている。現在ソマリアと呼ばれる地域は旧イギリス領と旧イタリア領に分かれていた。北部は事実上ソマリランドとして独立しており、現在混乱しているのは旧イタリア領の中部・南部である。

混乱の要因の一つは「西側が考える民主主義」がソマリアの事情にあっていないという点がある。

2012年に議会による選挙に漕ぎ着けてハッサン・シェイク・モハムド氏が大統領に選出された。ソマリア社会は氏族社会のためおそらく直接民主主義による大統領の選出は難しいのだろう。まず各地で代表者を選びその代表者が選挙して大統領を選ぶ仕組みになっている。ところがこの仕組みがソマリアでは機能していない。却ってイスラム過激主義の温床になっている。

結局2012年以降も国は安定しなかったようだ。アブディワヒド・エルミ・ゴンジェ、モハメド・アブドゥライ・モハメドと二代の大統領が選出された後、再びハッサン・シェイク・モハムド氏が大統領に選出された。西洋型の民主主義は氏族社会とは極めて相性が悪い。

今回、アルカイダ関連のテロリストグループが首都モガディシュのビラローズホテルの門の近くで自爆がありその後ホテルが急襲された。BBC(英語版)が伝えるところによると8月に襲撃されたホテルとは別のホテルだそうだ。この地区は政府軍によって厳重に守られている。

CNNによるとソマリア政府はアメリカ合衆国から支援を受けてており8月以来南部と中部で作戦を遂行中だ。民主的に選ばれた大統領を各国が支援するという形になっている。つまり民主主義という形式と価値観を守るために支援をしていることになる。

ソマリアはバイデン政権にとって象徴的な意味合いが強い。再支援はアメリカの国防省が要請していたものだ。5月15日にハッサン・シェイク・モハムド氏が大統領に選ばれたことを受けてバイデン大統領が支援を決定していた。実利主義で民主主義のような価値観には重きを置かないトランプ大統領が一度引き上げていたのだが、国防総省の要望に応える形でわざわざ復活させた。バイデン時代になって引き上げたアフガニスタンとの違いが見られる。この地域から撤退すれば「バイデン政権の失策」と見做されることになるだろう。

ところがソマリアには目立った利権があるわけではない。おそらくそのために西側の支援も抑制的なのだろう。どうやらアルシャバブの抵抗を抑えることができていないようだ。

結局、自爆攻撃から始まったホテル占拠は20時間余りで鎮圧された。政府が首都の重要地域を奪還した形になる。8名の犠牲者が出たそうだ。アルシャバブ側が首都中心地域を重要拠点と見ていることがわかる。8月19日にもモガディシオのホテルにアルシャバブの戦闘員が立て篭もり治安部隊が奪還を試みていた。この時は奪還に30時間かかり21名が死亡している。BBCは10月29日には教育省の前で車が爆発し100名以上が死亡しているとも伝えている。

西側がもっと支援をすべきなのか諦めて撤退すべきなのかはわからない。下手をすれば内戦に逆戻りしかねない。真っ先に被害を受けるのはソマリアの一般市民であろう。

ソマリアも気候変動の影響を受けている。世界的に食糧価格が高騰する中で21万人が飢餓に直面しているという。雨が少ない年が4年も続いている上にロシアのウクライナ侵攻の影響を受ける。食糧不安定な状態の人が国民の半数いるそうだ。

では西側の関与がなくなればその地域は混乱するのだろうかという疑問が生まれる。実は介入のない北部では状況が落ち着いている。

北部には国際承認されていないソマリランドという地域がある。1991年にソマリアから一方的に独立を宣言したが国際承認はされていない。炭化水素鉱床や石油・ガス、石炭を含め、膨大な投資機会があるそうだ。こちらも国際的に孤立傾向にある台湾(中華民国)との間にパートナーシップを結び自称「外務大臣」を派遣している。

もう一つ、西側がこの地域を手放せない事情がある。周辺を中国が固めているのである。

中華人民共和国もこの地域を狙っており周辺のエチオピア、エリトリア、ジプチ、ケニアを担当する特使まで任命する力の入れようである。つまり、この地域から西側が撤退すると地域が全て中国側にとられるということになりかねない。

西側の関与は必ずしも成功しているとはいえない。だがこのようにアメリカには引くに引けない事情がある。いずれにせよ首都のモガディシュでは度々事件が起こりその度に人が亡くなっている。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで