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中国のコロナデモでBBC記者が一時拘束され、国際問題に「昇格」する

中国で厳しすぎるコロナ対策に対するデモが行われている。各地で起きている抗議運動は必ずしも習近平体制の転覆を狙ったものではない。だが、要素は複合的で一部はすでに国際問題化している。ただし西側が介入すればするほど政府は反発を強めかねない。おそらく一つの要素だけであればこれほど大きな問題にはならなかったのだろうが偶然が重なったことで騒ぎが拡大している。それにしてもワールドカップの影響は意外だった。中国政府は「発展する世界の中国」をアピールしようとしたが一部住民は異なった受け取り方をしたようだ。

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細部を見る前に構造をおさらいしておこう。中国全土が「習近平打倒」一色になっているわけではない点には注意が必要だ。ただ火種になりかねない材料がいくつかある。

  • 第一の要素は統治構造だ。ピラミッド型の統治体制のため中央政府から地方政府にコロナ抑制の通達がゆくとその通達を是が非でも達成しなければならない。おそらく、成績が悪いところほど中央からのプレッシャーが強くなるのだろう。一部地域では過剰な対策が行われているようだ。一部の住民が反発している。
  • 次の要素はわかりやすいメッセージだ。民主主義と自由を求める動きは学生や教授など一部のインテリ層の間にしか広がらない。だが世界ではワールドカップが行われ「これが自由なのだ」と感じた人たちがいるようだ。中国企業もスポンサーとして入っているため当初は「誇らしい」と感じていた人たちが多かったようだがそれだけではおさまらなかった。
  • 最後の要素は根強く存在する被差別感情だ。新疆ウィグル自治区のウルムチで起きた火災はウイグル人が多い地域で発生した。被差別感情を持っているウイグル人が政権打倒のメッセージを訴えたようだ。イスラム系の労働者は中国全土に広がっているためこの問題が民族紛争化するのは避けたい。西側の介入を招きかねないという事情もある。

このように「新型コロナの抑え込み」が圧力になりさまざまなな不安定要素の起爆剤になっているという構造がある。さらにワールドカップという本来は関係がなさそうな要素も加わった、。偶然が積み重なって問題の拡大につながっているようだ。

皮肉なことに今回騒ぎを大きくした理由の一つに中国政府の宣伝がある。当初ワールドカップの影響はこじつけではないかと思っていたのだが、必ずしもそうではなかったようだ。

前回のエントリーではワールドカップがそれほど大きな要素になっているとは思えなかった。だが改めて調べてみると「【中国】中国が今回もW杯で存在感 協賛金14億米ドル、国別最多」という記事が見つかった。選手こそ出していないものの経済的に成功した中国が世界に大きな貢献をしているという意識があったようだ。人民網も「中国の要素がそこかしこに見られる」と宣伝をしていた。影の主役は自分達だと言わんばかりである。世界への貢献は確かに好ましいことだ。だが、自分達は自由が制限され食べ物すら調達できない人たちはこのメッセージを複雑な思いで眺めたはずである。

中国全土が封鎖されているわけではない上に世界ではお祭りが行われている。なのに自分は……ということになる。

基本的には防疫対策なので国内で処理すべき問題だ。だが、深刻な問題が二つある。一つはウイグルの被差別感情問題だ。火災では子供を含めて大勢が亡くなっているがウイグル人が多い地区だったそうである。欧米を中心に人権に対する懸念がある上に普段から被差別感情を抱えるウイグル人を刺激しかねない。この抗議運動を力で抑え込むと「やはりイスラム系住民は差別されていた」ということになるだろう。当局は新疆ウイグル自治区のコロナ規制を弱めるなどの懐柔策に転じている。イスラム系労働者は中国全土に広がっているのだから民族暴動に発展すればかなり面倒なことになりそうだ。中国政府から見れば「下手に騒ぎが大きくなると西側の介入を招きかねない」という懸念もあるはずだ。

次の問題はジャーナリスト拘束である。BBCの記者が一時拘束され暴行を受けたと主張している。記者とBBC側のステートメントはTwitterで発信されている。日本語の記事から辿ると記者のコメントとBBCのステートメントを読むことができる。BBCは取材許可を受けたと主張しているが中国外務省はこれを否定しているようである。

日本人はあまりジャーナリストの取材自由についての意識が高くないが欧米ではかなり問題視されているようだ。CNNロイターの英語版にはこの件についての報道があり欧米の強い関心がうかがえる。

時事通信で確認したところ、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)米国家安全保障会議(NSC)ドイツの大統領からのコメントが見つかった。すでに国際社会から懸念する声が出ている。

中国の執行部は西側からの懸念を「介入」とみなす傾向にある。内政上はおそらく新型コロナ対策を緩めるべきなのだろうが「西側への対抗意識」が生まれると「自分達がやっていることは絶対に正しいのだ」という強行姿勢に転じてしまうのだ。BBCからの指摘に対して中国外務省は「中国のコロナ防疫は絶対に成功する」と主張している。新型コロナウイルスとなんとか付き合って経済も回すしかないと考え始めている我々日本人とは全く異なった主張だ。

新型コロナ防疫という観点から見ると「やはり封じ込めは難しく是々非々で付き合ってゆくしかないのだな」というだけの話なのだが中国の場合はやはり派生する問題に目がいってしまう。国家統治の仕組みが我々のそれと全く異なっているからだ。特に習近平体制では「政策の維持」そのものに重点が置かれてしまうため反発もその分大きくなってしまうのである。

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