NHKの昼のトップニュースは東京五輪汚職問題だった。ついに電通などの関係先に「司直の手が延びた」と記者が驚きの表情で伝えていた。読売新聞やNHKの報道を見ると「ついにあの電通にも」と言いたくなる。だが一方で「かねてより談合が行われているのではないか」と言われていたという報道もある。つまり、みんなが知っていることをあたかも晴天の霹靂のように演出している。「知らなかった」と言いたい人がいるのだろうなと感じた。
札幌五輪招致を目前にして東京五輪の問題点は全て清算しておきたい。だが政治家に疑惑が向かうのは困る。情報が欲しいメディアともうまく協力して検察主導で幕引きをはかろうとしているように思える。
これがいいことなのか悪いことなのかはよくわからないが世間の関心はそれほど高くない。せいぜい電通が叩かれて終わりになる程度なのかもしれない。検察の捜査で「どこまでが叩いていい人たち」なのかが明らかになったからである。
読売新聞の報道では「電通社員憤り「いまだに説明ない」…五輪汚職に続き談合疑惑、再び強制捜査」となっており「突然強制捜査された」などという印象を持つ。電通の人たちも知らなかったんだと感じると「なんだかかわいそうな」気もする。だが実際には読売新聞やその他の新聞の報道が先行しその後で調査が行われるというように情報を流しつつ粛々と儀式的に捜査が進行している。
一方で、かねてより調査報道をしてきたと思われるTBSは「「あれ談合してるんですよ」 五輪テスト大会で談合か?電通など家宅捜索 組織委関係者語るさらなる疑惑…「本大会は入札せず受注」」と報道している。つまり、みんな知ってましたよねということである。みんなが知っていたことを「ああ、驚いた」とやっているのだ。本大会は入札すらなく証明はできないものうっすらとした疑念も払拭できない。TBSのこの短いこの記事は本大会を持ち出すことで「その先もあるのでは」と匂わせる形になっている。
ただいずれにせよ「みんな知らなかった」ということにしておきたいという大人の事情はあるだろう。小池百合子東京都知事は「誠に遺憾」と他人事だ。東京都としては報告書を作り「我々は知らなかったが再発防止に努める」で終わらせたい。これはJOCも同じ立場だ。山下会長も知らなかったから調査をして再発防止に努めると言っている。「みんな知っていた」では困る。
業界にとってショックだったのは電通だけでなくイベント会社にも捜索が入ったことだろう。巻き添えを食らった形のセレスポは株価が落ちたようだ。実はワールドカップが盛り上がったことでサッカーイベント手掛けるセレスポの株価も上がっていたそうである。これが台無しになった。今後公共事業の発注などに影響が出るかもしれない。文化事業を手掛けるKADOKAWAは公共事業からの撤退をしている。和歌山市海南市の事業から撤退したという報道があったが他にも影響はあるのではないかと思う。
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おそらくセレスポだけでなく同業他社もいざとなったら不祥事に巻き込まれるということを学んだはずである。そしておそらく電通も「いざとなったら政治は自分達のことを守ってくれない」と気がついているのではないかと思う。
さらに、自主的に談合を申告する課徴金減免制度があるということは広く周知された。今後はこれを活用するところが増えるはずだ。トップや取引先を庇ってもあまりいいことはない。早めに罪を認めたほうが得だと考えるのが自然だ。上の人は上の人でなんとか後のことは考えるだろう。
さて、今回急ピッチで清算が進んでいる裏にはおそらく札幌招致計画があるはずだ。時事通信は「公取と検察合同、リニア以来 談合調査、課徴金減免「武器」に―水面下で協議、予定早め着手」と書いている。ことを長引かせず早めに終わらせたかったようだ。
今回の招致ではソルトレイクシティと札幌が競合になっている。ソルトレイクシティは79%の住民がオリンピック招致を支持している。一方の札幌市は2022年3月に調査をしているのだが賛成は52.2%だったそうだ。オリンピック招致を進めるためには調査をやり直して支持率が上がったところを見せたいはずだ。
このままではオリンピックはソルトレイクシティに行ってしまうだろう。組織委員会への不信感が払拭されなければ世論調査の支持も伸びない。かと言って今は国が積極的に招致しますとも言い出しにくい。
東京オリンピックの場合もIOCの世論調査ではあまり支持が伸びなかったが「国が全面的にバックアップします」と表明することで招致獲得に成功したという経緯がある。メディアは懸命に承知が盛り上がっているという雰囲気づくりをしていたがIOCが直接調査したところでは「それほど盛り上がっていなかった」わけである。
改めて当時の状況を振り返ると、当初から日本人は「一部の人たちに旨味があるから熱心に誘致しようとしているだけなんだろう」と冷静に状況を見ていたのかもしれないと思う。
だからこそ「かねてより談合の噂があった」などと聞いても殊更誰も驚かないのだろう。