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共産党の区議会議員が「日本代表が勝っちゃうし残念」で批判される

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FIFAワールドカップカタール大会で日本がドイツに勝利した。予想外の勝利だったことでワイドショーは大騒ぎになっている。とにかく「アガる」ニュースがないなかで、日本の勝利は貴重なニュースだった。日本中がお祝いムードに包まれる中で共産党の中野区議会議員が「日本が勝っちゃうし残念」とツイートし「トレンド」として拡散されてしまった。この人は日本人の勝利を喜べなかったようだ。一体どうして喜べなかったのかを考えてみた。

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Tweetが拡散されたのは羽島だいすけ中野区議会議員である。2019年の中野区議会議員選挙で1840票を得て投票している。当時の年齢は32歳だった。

問題になったツイートはドイツ代表が試合前の写真で口を塞いだという毎日新聞のリツイートになっている。羽鳥さんがどのような気持ちでリツイートをしたのかはわからないがカタールの人権状況に懸念があるにもかかわらず勝利で盛り上がっているという状況に複雑な感情を抱いたのであろうということはわかる。

ところがこれがネットに拾われて炎上した。後に羽鳥議員は発言を修正し「日本代表が勝って残念」という言動は間違いでしたとした上で謝罪をしている。

ではなぜ羽鳥さんのツイートは炎上したのか。原因は二つあるだろう。一つ目は共産党が「日本はこのままではダメだ」と言い続けてきた政党であるという点に起因する。こうなると日本のダメな点ばかりを探すようになりいい点を喜べなくなってしまう。政治評論をする人なら誰でも陥りかねないマインドセットだ。悪い点ばかりを探すのではなく良いところも見つけるようにしなければならない。これは素直に気をつけたい。

だがそれだけではこの問題が炎上することはなかったはずだ。忘れてはならないのは日本人が「勝利」に飢えているという点である。実は高度経済成長期にはありふれていた「我々は頑張ってここまでやってきた」という報道が近年では全く聞かれないのである。

では昭和の日本はそれほどよかったのかということになる。ここで重要なのは「人の感覚」である。つまり、人は何かと何かを比べることで幸せを実感するようにできている。つまり「比較」が重要なのだ。

高度経済成長期には8月になると必ず終戦特集をやっていた。表向きは「戦争の悲惨さを忘れない」という名目で放送されるのだが、実は「あの悲惨な戦争から立ち直ってよくここまできたな」ということが確認できるコンテンツになっていた。空前のヒットを記録した「おしん」に代表されるNHKの朝の連続テレビ小説が戦後の復興期をよく扱っていたのは「あの悲惨な状態からよくここまで頑張ってきた」というのが国民の共通認識だったからである。

玉音放送の苦々しい記憶は必ず現在の成功とセットで語られていた。つまり今の繁栄を際立たせるためにはそれに先立つ「どん底」の絵も必要だったのだ。

今回の報道では「ドーハの悲劇」と「ドーハの歓喜」が必ず一セットで語られる。これはおそらく偶然ではないだろう。

「ドーハの悲劇」の映像も現在の日本代表チームの成功を語るのに欠かせない最初のピースとして利用されている。あの悲劇を起点にすると「今や世界で多くの日本人選手がヨーロッパ選手と対等に戦っている」という絵が引き立つ。それは多くのサッカーファンが実感できる事実だ。この成長の実感が日本には欠けている。戦後復興のような大きな物語が平成・令和にはないからである。

「しょせんワールドカップ」と思う人もいるかもしれないのだが実は株価にも影響が出ている。景気の気は気のせいの気でもある。全体の雰囲気が上がればそれだけ経済にも良い影響がある。裏返せば日本人が勝利に飢えているということがわかる。

今回の炎上騒ぎは単なる「ネットのネタ」に過ぎないのだが、おそらく有権者が今求めているものをよく表している。人はやはり「良くなってきた」という成長実感がないと満足ができない。政治の役割の一つはそれを人々に示し続けることにある。

ここから、野党が支持されなくなったのかがよくわかる。さらに言えば岸田総理もあまり「日本は勝っている」とか「このままで大丈夫なのだ」とは言わない。あるいはこれが支持率の低下につながっているのかもしれない。

この共産党の区議はおそらくその辺りを見誤ったのだろう。ただ羽鳥さんが日本の勝利を喜べないのにはおそらく理由がある。

日本共産党は10月、全国で4123人に入党を働きかけ、前月を上回る394人が入党を申し込み、「しんぶん赤旗」読者拡大では、日刊紙144人増、日曜版874人増、電子版(日刊紙)14人増となりました。日刊紙・日曜版ともに前進したのは、7月の参議院選挙後初めてです。

2022年11月の共産党のウェブサイトにはこのような一節がある。共産党は党員の高齢化に伴って厳しい状況に置かれている。しんぶん赤旗のわずか数百人の購読申込みを「成果」として強調するのはその危機感の裏返しだろう。

立憲民主党は維新との連携を深めているが共産党の志位委員長は対決姿勢を隠さない。一方で泉代表は「野党共闘は共産党との連携のイメージが強い」などと公言しており、共産党との連携が一部の有権者に支持されていないようだという認識を示している。

このように共産党をめぐる環境は厳しさを増しており、若手党員たちは「どうすれば若者の支持が共産党に向かうのか考えろ」と言われているはずだ。彼らにしてみれば共産党が指摘する問題ではなくワールドカップに国民の関心が向いてしまうのは確かにあまり面白くないだろうなとは感じる。共産党がアジェンダを決める時に優先されるのは数として勝る中高年層の課題だろう。若手の間には高齢化する既存支持者と自分達の実感に大きなギャップがあるのではないかと思うがトップダウンではなかなか若手の声も届かないだろう。

「確かな野党」が求められることは確かなのだがかつてとは状況が大きく変わっている。野党が支持を集めるために、今の政治家に何が求められるのかを再検証したほうがいいのかもしれない。

人々は成長の実感に飢えている。

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