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「マハティール後」が見つからずマレーシアの政権交代が難航

マレーシアで2022年11月19日に総選挙が行われた。おそらく選挙があれば次の政権がすんなり決まるのだろうなどと考えていたのでたいして関心を持たずにいたのだが、いまだに結果が決まらない。実はかなり混乱しているようで国王が仲介に乗り出す異例の状態になっている。背景には二つの問題がある。一つは国民が思い描くような美しい物語が提示されなかったことである。もう一つが国家アイデンティティの喪失だ。

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おそらく誰も興味を持たないと思うのでいくつかのネット記事をまとめて終わりにしたいのだが、実はマレーシアの政局はとても複雑である。代議院(下院にあたる)の任期は解散ありの5年で、定員んは222名なのだそうだ。

今回の選挙でイスマイル・サブリ・ヤコブ首相の与党連合は30議席しか取れず惨敗となった。97才のマハティール・モハマド元首相も立候補していたが落選してしまう。53年ぶりだという。

多くの新興国と違っておりマレーシアのインフレはそれほど高いものではない。しかしながら2018年以降は正常不安が続いていており3名に首相が誕生しているそうだ。マレーシアは中華系が経済を支えるが中核になっているのはマレー系イスラム教徒である。この他にインド系のマレーシア人が住んでいる。何らかの理由で微妙な民族のバランスが取れなくなっているようである。国を発展させようとすると中華系とマレー系の格差が開く。これに憤ったマレー系がイスラム主義を強調するようになると中華系とインド系が反発するという図式である。

ところがこれとは別の問題もあった。それがマハティール首相と後継者の問題である。もともとマハティール首相には「息子のような」アンワル氏という後継者がいた。ところがアンワル氏は国家を経済成長させたい。するとマレー系が置いてゆかれることになる。マハティール氏との間に亀裂が生じ、職権濫用と同性愛の罪で起訴され政権を追われてしまった。

マハティール氏が政権復帰すると人々はアンワル氏との関係を修復し「美しい親子のような関係」が復活することを望んだようである。だがマハティール氏がいつまで経っても権力を手放さないことで「このまま権力にしがみつくのではないか」という懸念が生じた。これがマハティール氏の首相解任と今回の落選につながったようである。

選挙が終わったあとBBCはボルネオの地域政党(サラワク政党連合23名)がムヒディン・ヤシン前首相(国民同盟73名)や現政権(国民戦線30名)と協力して政権を取るのではないかと書いている。つまり一度は期待された息子であるアンワル氏が排除されている。

ところが、政権はすんなり誕生しなかった。アンワル氏が政権を諦めていないのだ。ロイターは政治危機と書いており国王は次の首相を指名するのがいつになるのかの時期を明らかにしていないそうだ。

現在の与党であるBNがどちらの候補も支持しないと決めてしまったことも問題を大きくしている。現在の首相候補者はアンワル元副首相(希望連盟82名)とムヒディン前首相(国民同盟73名)である。三つ巴になっているのだから誰か二人が協力すれば組閣ができるのだが、国王が新しい首相を任命できていないことからこの二人も協力することはなさそうだ。

日経ビジネスが経緯を書いている。マレーシアはイギリスから独立した。経済的には中国系やインド系が支配しているのだがマレー系を優遇する政策をとってきた。ところがマレー系のイスラム教徒がイスラム保守主義を掲げるようになると中華系(非イスラム教徒)と対立するようになる。

このバラバラな状況を辛うじてまとめてきたのが1981年から2003年まで首相を務めてきたマハティール首相であることは間違いないだろう。2018年に首相に復帰したが2020年2月に辞任に追い込まれた。

マハティール氏はもともとUMNO(統一マレー国民組織)と呼ばれる政党に所属していた。ところが2018年にはこの政党ではない別の政党を立ち上げて総選挙に勝利していた。

人々がマハティール氏に期待した点は二つあるのだろう。今まで政権を受け持っていたUMNOは信頼できない。だがマハティール氏も高齢で先は長く無い。マハティール氏が後継者を決めることで「マハティール氏時代」のよい時代が再び戻ってくることを期待しているのかもしれない。1990年代には9%程度あったマレーシアの経済成長率はじわじわとではあるが落下傾向にある。2021年は3%程度だった。

だが、そのアンワル氏は「楽園追放」の憂き目に遭っている。1998年に罷免され、その後に権力濫用罪と同性愛行為で有罪判決を受けてしまう。マハティール氏とアンワル氏の間に仲違いがあったのだろうと言われているようだがその内容はよくわかっていない。

一度は楽園から追放された息子だが、2018年には関係が修復されたかに見えた。日経ビジネスは「国民はこれを確執を乗り越えた親子の美談と捉えた」と書いている。

だがこの美談はやがて失望に変わる。マハティール氏は権力にしがみつきいつまで経ってもアンワル氏に権力を禅譲しなかった。

おそらくマレーシアは古き良き時代を脱しつつあったのだろう。つまりマハティール時代が戻ってきたとしてもマレーシアが良い時代に戻ることができていたのかはわからない。

結局、マハティール首相のあとをついだムヒィディン・ヤシン政権も長続きしなかった。表向きの理由は新型コロナ対策に失敗したからなのだそうだ。この時には新型コロナの蔓延により総選挙ができなかったため政局の混乱が解消することもなかった。その後のイスマイル・サプリ・ヤコブ首相も今回の選挙に負けたため政権を手放すことになりそうだ。

マハティール氏には実の息子もおり三男のムクリズ・マハティール氏は政治家として父親と行動を共にしている。だがどういう理由なのかわからないが後継者とは見做されていないようである。2020年には第二副首相候補として名前が上がっているのだが「アンワル氏外しだ」と見做され国民から支持されなかった。この短い記事からもマハーティール氏が自分の影響力を温存するために後継者指名でさまざまな「画策」をしていたことがわかる。今回落選したことを考え合わせるとこれが権力の私物化だと捉えられ有権者の落胆につながったのかもしれない。

さらにどの記事を見てもアンワル氏外しがマレーシア政局のキーになっていることがわかる。どのような性格の政治家なのかはよくわからないが、少なくとも一部の人たちからはかなり嫌われているのだろうということが窺える。

難しく表現すれば国家アイデンティティの喪失と交易条件の変化によりマレーシアは現在に対応できなくなっているなどと書くことができる。だが人々の願いはおそらくそれよりもずっと単純で単純なものだろう。マハティール氏とアンワル氏の仲が復活し再び「かつてあった成功」を取り戻したい。また前途洋々のマレーシアを象徴していたマハティール氏が実は権力に固執していたとは思いたくはないだろう。

次に考えるべきなのは国民誰もが望む理想的なリーダーが現れず「マレーシアの夢」が叶わないと分かったときのことである。おそらく人々は「誰かがそれを盗んだ」と考えるだろう。マレーシアではイスラム主義が台頭しているそうだ。経済的に成功している非イスラム系の中華系がマレー人から「盗んだ」と見做される可能性もある。

中進国お決まりの転落コースだがマレーシアも今そんな状態に差し掛かっているのかもしれない。

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