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トランプ氏の捜査に特別検察官が任じられるが、英語に「特別検察官」という用語はない。

各紙が「トランプ氏の捜査に特別検察官が任じられた」と書いている。トランプ氏は元職の大統領であり大統領選挙に出馬を表明している。このため特別扱いになったのだろうと思う。だがこの記事には不思議な点が一つある。実は英語では特別検察官という役職はなくこの訳語はに日本語独自のものなのだ。

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いわゆる「特別検察官」に任じられたのはジャック・スミス氏だ。捜査官は司法省の管轄に入るのだが特別検察官は独立性が高いと言われている。民主党が政治的に訴追を利用しているのはないかという疑念を払拭するのがその狙いなのだろうと広く信じられているようだ。スミス氏は「直ちにアメリカに帰国」とされているところから現在アメリカには在住していないことがわかる。また、政治的には無党派である。CNNの報道を見ると「この人はだれ?」というくらい無名の人のようだが、それこそが起用の狙いなのだろうと言われているようだ。政治的に有名な人にはなんらかの色がついており党は対立と無縁ではいられない。

CNNによるとスミス氏は1994年にニューヨーク郡の地方検事局で地方検事補としてキャリアをスタートさせた。2008年からは国際刑事裁判所に勤務し戦争犯罪捜査などを行なっている。だが彼の肩書きは「Special Counsel」になっている。つまり特別顧問・特別相談役というような意味合いになる。

BBCは「訴追するつもりがないのならわざわざ特別検察官を任命することはない」と指摘する。つまりそれなりの証拠が集まっているのだろうということになる。いよいよ訴追に向けて具体的な動きが始まったというわけである。

そもそもアメリカ合衆国にはなぜ司法省が管轄しない「特別検察官」なる制度が存在するのか。興味を持って調べてみた。日経新聞の用語集ははウォーターゲート事件がきっかけと書いている。なるほどトランプ大統領の問題はウォーターゲート事件以来の大事件なのだなと思いたくなる。

ニクソン大統領は弾劾寸前に追い込まれたところで特別検察官を解任した。これは土曜日の夜の虐殺などと呼ばれ当時マスコミから大々的に非難されたようだ。トランプ大統領時代に任命されたロバート・モラー氏は「大統領も解任できない」などと表現されていた。Bloombergが当時のローゼンスタイン司法副長官の発言として伝えている。

セッションズ司法長官がトランプ大統領(当時)の捜査指揮から外れたため指揮はローゼンスタイン氏が担うことになった。ローゼンスタイン氏は「モラー氏を任命したのは自分だから大統領もモラー氏を解任できない」と主張したのだ。だが、これは厳密には事実ではない。

トランプ氏はローゼンスタイン氏を快く思っていなかった。ローゼンスタイン氏もトランプ氏を快く思っていなかったようで「会話を録音してトランプ氏を解任できないか」などと周囲に話していたそうだ。ローゼンスタイン氏はこの報道を否定している。

結局ローゼンスタイン氏はモラー特別検察官が報告書を提出した後に辞任を申し出た。CNNのこの報道では「モラー」ではなくマラー氏と表記されている。同じく退任報道を伝えた当時のBBCではモラー氏はムラー氏と表現されている。トランプ氏はローゼンスタイン氏が反逆罪で投獄されている写真をTweetしておりかなり腹を立てていた様子である。だが、それでも政治的には抵抗が強く特別検察官を解任することはできなかったようだ。

各紙の報道で、モラー・マラー・ムラー氏と表記されたRobert Mueller氏の捜査もSpecial Counsel Investigationだった。つまり特別な監督下における捜査というような意味合いになる。これは司法省の影響を受けないということを意味している。つまり民主主義体制下のアメリカにおいては「政権になんらかの偏りがある」という前提があるのである。政権には偏りがなく間違いもないという前提を置く日本人にはなかなか理解が難しい。

キャノングローバル戦略研究所の研究主幹宮家邦彦さんは2017年当時の報道で「特別検察官は大統領にも解任できない」は誤りだと書いている。そもそも特別検察官に当たる訳語が3つあることを指摘した上で、実際は「特別顧問」と呼ぶべきだろうと言っている。ウォーターゲート事件を踏まえた法律が1978年に作られ1983年から1999年まで独立顧問と呼ばれていたそうである。つまり当時の政治状況では「検察」という言葉さえ使われなくなっており、それが今も引き継がれている。

当時の宮家邦彦氏は「これはトランプ政権の終わりの始まり」と言っている。つまり当時の日本人が信頼するリベラル系のメディアではトランプ氏の疑念ついて「ほぼ有罪」というようなトーンで報道していたためその影響を多分に受けたものと思われる。あるいは宮家邦彦さんの独自のパイプもどちらかと言えばそのような見立てだったのかもしれない。

結局、トランプ大統領は大統領任期を全うし宮家邦彦さんの見立ては当たらなかった。宮家邦彦さんが主張するように、大統領の弾劾は下院が発議する。つまり下院が検察官の役割を果たす。それを審査する裁判官の役割を果たすのが上院である。

弾劾裁判そのものは議会襲撃事件を受けて下院から訴追された。つまりそもそもの発議はロシア疑惑ではなかった。さらに上院は無罪判決を下してしまったためトランプ大統領が弾劾されることはなかった。BBCの当時の報道によると共和党の中には「もうやめることがわかっているのだからいまさら弾劾しても仕方がない」とするミッチ・マコネル氏のような人もいたようだ。

今回のジャック・スミス氏は民主党のバイデン政権が「中立」を演出するために起用されたのだろう。体裁としては独立した監督を置き司法長官から切り離すという意味合いはあるものの疑念の矛先が政権に向かっているわけではない。

どのような判断が出るのかはわからないもののCNNは粘り強い捜査でなんとか裁判に持ち込んで欲しいと期待を寄せているようだ。これまでも何度も政治的修羅場を乗り越えてきたトランプ氏が今回も荒波を乗り越えて華麗な復活を遂げることができるのかに注目が集まる。

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