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防衛費増額を突破口に「増税やむなし」という雰囲気づくりが始まる

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自民党税調で防衛費増額に関する議論が始まった。こういう時は最初のアジェンダセッティングが大切だ。防衛費を増額すべきか?という議論はなく「アメリカに約束もしたのだから」何かの税金を上げなければならないという話になっている。政府・与党としては増税に向けた雰囲気づくりがしたいのだろう。いくつかの意味で防衛費はそのためにはうってつけなのだ。

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最初のポイントは消費税が除外されたという点である。消費税増税が不人気なのは今に始まった事ではない。細川政権は福祉税構想で瓦解し野田政権も消費税増税を提案したことで政権を失った。特に民主党にとってはトラウマがある。教育費無償化などよほどの取引材料がない限り消費税増税は言い出しにくい。増税はしたいが政権が倒れては元も子もない。

このため消費税は最初から除外され法人税と所得税が増税の対象になっている。

経団連は最初から「法人税増税」には反対の立場だ。企業の支援を受けている自民党が所得税増税に踏み切れるとは思えないのでおそらく最終的には「別の形で」ということになるのだろう。だが、最初から「法人税も消費税もやりません」などというと国民からの反発を受けかねない。

増税に反対しそうな勢力は二つある。一つは「上潮派」と呼ばれた積極的な財政出動を推進する人たちだ。安倍政権下では主流の考え方だった。ただし彼らは安全保障ではタカ派なので防衛費増額には反対しない。「増税」の中から防衛費が選ばれたのはこのためだろう。

公明党側が狙うのは金融資産課税だ。東京新聞が「一億円の壁」について書いている。創価学会の信者の所得から考えると「庶民から税金を取る」という主張はしにくい。このため公明の総会で西田実仁税調会長は一億円の壁について検討しなければならないと言っている。

だが、政府・自民党中枢の本音は所得税増税だろう。このため「国民から幅広く」というようなフレーズが多用されている。この増税路線推進のために岸田総理は信頼がおける人材を登用し着々と布石を打っている。

まず自民党税調だ。岸田総理は個人的に信頼ができる宮沢洋一氏を自民党の税制調査会の会長に充てた。よく知られた話だがこの二人は従兄弟(いとこ)同士だ。宮沢税制調査会会長は以前から増税ありきの情報発信を繰り返しており、岸田総理・宮沢税調会長が「増税議論ありき」で議論を進めていることは明白だ。

政府側も淡々と外堀を埋める作業をしている。岸田総理の性格上「私が決めました」とは言いたくない。そこで「世界がそれを望んでいるから私が自発的にそれを推進している」という形をとっている。

このために使われているのがアメリカだ。バイデン大統領のに約束しアメリカも諸手を挙げて歓迎しているという報道を後ろ盾に防衛力増強はもはや不可避であるという空気を作りろうとしている。

政府の有識者会議の座長を務める佐々江賢一郎さんは元外務省の官僚である。野田政権で外務事務次官を務めアメリカの特命全権大使に任じられた。その後安倍政権でもアメリカ大使として留任し2018年に離任しているそうだ。岸田外務大臣時代にもアメリカ大使としてやりとりがあったということになる。最初にバイデン大統領に防衛費増額を表明し佐々江さんを座長にしたのはおそらく偶然ではないはずだ。

日経新聞で佐々江さん関連の記事がまとまっている。防衛費は増額しなければならない、そのためには増税が必要だ、中国とは仲良くやってゆかなければならないといった提案をしているようだ。政府の意向をよく理解した上で元外交官として危なげのない提案に終始している。

事務次官経験者である佐々江さんが駐米大使に転出したことは当時の国会で問題になっている。事務次官は最終ポストであるという慣例が作られつつあったからである。だが民主党政権が対中関係の政策で行き詰まっている時期だった。中国とのビジネスを推進したい丹羽さんを中国大使から外しアメリカとの関係改善のために事務次官まで経験した佐々江さんをあえて駐米大使に任じたということだったようだ。アメリカに対する太いパイプと「困ったときには助けてもらえる」という信頼感のある人のようである。結局安倍政権下でも長く駐米大使を勤めた。

岸田さんの性格がよく表れている。心理的な責任は誰かに負ってもらいたい。このために置かれたのが「アメリカの意向」である。そして間違いなくそのために着々と政策を実行したい。そのために頼るのが間違いが少なく気心が知れた人材である。

安倍政権時代の消費税増税は「教育費の無償化」というサービスとセットだった。消費税を増税したのに支出も増やされたのでは財務省としてはたまったものではない。「このままでは大変なことになる」という危機感を植え付けた上で増税議論の素地を作れば財務省としての持出は少なくなる。

日本の有権者はほとんど政治に興味を持たない上に「アメリカに約束したことは守らないと仕方がない」という意識を強く持っている。岸田総理はこれは国際公約ではないとしつつも「バイデン大統領も称賛している」と防衛費増税を宣伝している。バイデン大統領を後ろ盾に防衛費だけでなく幅広い増税もやむなしという雰囲気をつくりたいわけだ。

皮肉な話なのだが北朝鮮に対処できないとかJアラートがうまく機能していないという点も「追い風」になる。岸田総理大臣は北朝鮮からのミサイルに対処できない日本という演出をしながら国民が「身の安全のためには増税もやむなしなのかな」と思ってくれることを期待してるのかもしれない。

日本国民は空気に弱くあまり政府批判をしない。徐々に外堀を埋めて空気さえ作ってしまえば、さらに搾り取るることができると考えているのではないかと思う。岸田総理の発言は迷走しているものが多いが、こと増税に関してはブレずに淡々と進んでいるという印象がある。

自民党の支持者たちは「そうは言っても最終的には国債でなんとかしてくれるのではないか?」と希望をつなぐのだろう。だが、今の議論を読む限りそのような結論には至りそうにない。結局、国民は自民党を支持することによって将来の増税を承認・黙認していると言えるだろう。

ただし記事のいくつかは今後自民党内で異論が出ることが予想されるなどと書いている。今後の議論の行方に引き続き注目したい。

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