ポーランド東部の農村プシェボドゥフで爆発騒ぎが起きた。一時は「NATOとロシアの直接対決か」などと言われていたのだがG20のためにインドネシアに集まっていた首脳たちが事態を沈静化させたため、最悪の状況は回避された。焦点になったのは2名の死者を出した当事国ポーランドの対応だった。
ポーランドの農村プシェボドゥフにミサイルが着弾したとして大騒ぎになったのは日本の早朝だった。まずはポーランドメディアが報じAP通信が捕捉したことで情報が一気に拡散した。だが、その後の状況がなかなか入って来なかった。ポーランド警察が一体を封鎖しメディアはアクセスできなかったようだ。一方でNATOは早くから偵察機により状況を把握していたものとみられる。結論は明かさなかったが「事態は把握されている」というメッセージだったのだろう。
その後、緊急会談が行われ首脳たちは状況を把握したものとみられる。欧米各国の首脳から事態を沈静化させるような情報が出てきた。バイデン大統領が曖昧な形で「バイデン氏、ポーランド着弾のミサイルは「ロシアから発射された可能性低い」」と沈静化を図った。
オランダのルッテ首相もいち早くこうTweetした。後にCNNが「ポーランド爆発、ロシアのミサイル攻撃なければ「起きなかった」 オランダ首相」と記事にしている。ウクライナの責任は問わないと立場を明確にした上で調査の重要性について言及している。
状況は一時考えうる限り最もややこしい状況に陥った。
- NATO加盟国に人的被害が出た
- だが被害は敵対国からの攻撃ではなく支援している国(だが域内ではない)の防衛の一環だったようだ
- NATOが敵対国への宣戦布告をする材料にはなり得ないが
- NATO加盟国の首相は前のめりである上に
- 心情的には何もしないわけにもいかず
- さらに黙認すれば敵対国も増長しかねない
- 逆に支援している国の責任を問う世論が出ても困る。
事実がどうだったというより「それをどう解釈するのか」が問題になっていったようだ。
最終的には「不幸な事故だった」という扱いにされた。ポーランドの対応が注目されていたが大統領が出てきて状況を認めるような発言をしている。一方でドイツが領空警備に協力を申し出るなどポーランド国民を納得させる情報も併せて提示された。短い時間の中でかなり綿密で濃厚なやりとりがあったことが窺える。
- ポーランド着弾、ウクライナ防空システムが原因の可能性 ベルギー高官
- ポーランド着弾で「意図的な攻撃示すものない」 NATO総長
- ポーランド大統領、ウクライナ防空で着弾の可能性「非常に高い」
- ポーランド領空警備に戦闘機派遣を提案 独国防省
ポーランドでは大統領と首相がそれぞれ権限を持っているようで意思決定に関する役割分担がよくわからない。当初NATOに対して前のめりなのは首相だった。NATO加盟国に緊急事態が起こった場合NATOはその要請に応えなければならないという「第四条」が問題になった。
実はポーランドは移民流入問題でも第四条を使おうとしていた。2021年11月15日のロイターの記事によると「ポーランド首相、移民流入問題でNATOに具体的措置求める」となっておりモラビエツキ首相はEUとロシアの間に壁を設置すべきだと主張していたのだ。この時にはNATOからの協力は得られなかったようだ。壁は作られなかった。
初期の段階においてポーランドは着々と状況を作っていった。日本時間の8時30分ごろにポーランド外務省が「現地時間の午後3時40分にロシアからのミサイルが着弾した」と発表しロシア大使を呼び出した。報道ベースではなく政府の公式発表に格上げされた瞬間だ。第四条を発動する可能性が高いとは言っているが、どこから飛んできたミサイル稼働かは確認できないだろうとも言っている。つまり当初ポーランドは「どこから飛んできたものであろうがNATOに対処を求める」と考えていた可能性が高い。
だが、最終的に「状況の解釈」をしたのは大統領だった。首相も「第四条に基づく要請」ができないか模索しているようだが必要はないかもしれないと状況を修正している。Poland may not have to launch NATO art. 4 procedure, says PMとロイターの英語版が伝えている。
G20ではロシアを非難する声明が出された。だがロイターの報道内容をよく読んでみると国連総会決議を引用する形になっており、ラブロフ外務大臣の要請とみられる「異なる意見もあった」とする内容が盛り込まれた。
NATO、欧米首脳、G20の首脳宣言などをみると「これ以上戦争をエスカレートさせたくない」という主要国の思惑が強く滲む形になっている。これが結果的に最悪のシナリオを抑止した。
なおウクライナ側はこの裁定に必ずしも納得していないようだ。現場への見聞を認めさせてほしいと言っている。
NATOを始め、各国政府からは「ロシアが攻撃をしていなければこんなことにはなっていなかっただろう」という声明が発信されており、依然関係国との関係維持に苦慮している様子が窺える。
確かにオランダのルッテ首相が指摘するようにロシアの無謀なウクライナ侵攻がなければこのような事態にはなっていなかった。BBCがウクライナの受けた攻撃についてまとめている。厳しい冬を目前にウクライナのインフラがロシアに破壊されているのは事実である。
一方的な侵略行為は世界から非難されるべきだ。安全保障理事会は機能不全に陥っているが国連総会では「ロシアへの賠償を求める」という決議が出ている。最悪の事態はかろうじて回避されたが危機が去ったわけではなさそうだ。
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