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習近平国家主席の外交復帰と警戒されるドイツの中国接近

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岸田総理の外交ウィークが始まった。日本ではおそらく日米韓が連携し対中国囲い込みをやるというような報道になると思われる。産経新聞などは「韓国は具体的な徴用工問題の解決手段を提示しておらず反省をしていないではないか」などと書いている。

ところが今回の外交ウィークには全く別の見方がある。ASEANと韓国は米中対立に是々非々で対応しておりドイツは中国に接近している。ドイツの中国接近にはEU諸国からも警戒する声が上がっている。報道を丁寧に拾うと日本語でも情報は取れるのだが見落としがちな視点だ。

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まず日本側のナラティブによる記事を見てゆこう。中国の囲い込みのために「世界」が動いていることになっている。おそらくこれがワイドショーなどで語られる外交ということになるだろう。これはこれで事実なので間違っているわけではない。単に一部を切り取っているだけである。

バイデン大統領は「ルールに基づく秩序にへの重大な脅威に対抗する」と言っている。これは中国を念頭に置いた発言で「中国は国際秩序に反しており重大な挑戦」なのでASEANと一緒に戦わなければならないというような意味になる。バイデン大統領の期待は非常に明確なのでASEANは対処しやすいと考えるだろう。

ところが韓国側の報道には全く別のことが書いてある。それがAOIPである。AOIPについては2019年に記事が出ていた。

  • EUのような政治連携は目指さない
  • 対中国の囲い込みを念頭に置いたアメリカ中心の仕組みとは距離を置く
  • ただし援助は期待したいので価値観はアメリカに合わせる

アメリカの勢力圏に巻き込まれるのは嫌だし政治的にも口出しはして欲しくないが、市場は大きくしたい。そして、貰えるものは米中どちらからももらっておこうということになる。表向き話を合わせておけば色々うるさく言ってこないだろうというのは一種の正解といえる。ロシアのように直接対峙すると色々と面倒なことになる。

ミャンマー軍政に対する評価が分かれていることからもわかるように、ASEAN構成国は必ずしも民主主義擁護国ばかりではない。また、韓国も日米韓の枠組みに協力するとしながらAOIPにも力点を置いている。つまり日本を除くアジアはおおむね中国ともアメリカとも是々非々で付き合ってゆくという立場なのだ。

バイデン大統領は自分の価値観を伝えたことに満足しており日本はその流れに乗れたことに安堵している。一方でアジアの各国は中国とアメリカの両方と付き合うことで各国から協力を引き出すことができると期待している。バイデン大統領の期待はわかりやすいので話を合わせるのも簡単だ。何を言い出すかわからないトランプ前大統領よりも相手がしやすいはずである。

中国と是々非々で付き合ってゆこうという国は実はヨーロッパにもある。

ここでは二つの西側の報道を見てゆく。一つは習近平国家主席が外交に復帰したという話だ。CNNが伝えている。こちらはアメリカの脅威を宣伝材料に使っていて、タンザニア・パキスタン・ベトナム・ドイツの首脳と会っている。

バイデン大統領はその時々に自分が思っていることを各国に伝えることができただけで満足してしまう。自分自身も自由と民主主義を至高のものだと考えておりまた国内の支持者たちにもアピールができると考える体。一方の中国はなぜか将棋や碁といったゲームのように国際問題を考えており「地域の要所に駒や石を置いておきたい」と戦略的にアプローチしているようだ。東アフリカ・南アジア・東南アジア・ヨーロッパの首脳を選択して会っている。

この中にドイツが含まれているのがポイントである。ドイツはメルケル時代にはロシアとの交流が深かったがエネルギー問題でロシアに依存しすぎてしまい現在問題になっている。もともと穏健な中道左派のショルツ首相は中国にはあまり嫌悪感を持っていないのだろう。対ロシアでの協力を求めて中国に接近している。

だがBBCの報道によると「ぬけがけ」で中国に接近しすぎているのではないかという懸念が生じているようだ。「EUの他の国々との調整がなかったため、欧州各国の神経を逆なでした」という一説がある。ドイツ国内にも「中国への接近」を好ましくないと考える人もいるようだ。

岸田首相は今回名指しでの中国批判に踏み切ったことから会談への事前交渉はあまりうまくいかなかったのかもしれない。おそらく国内では「宏池会系の首相にしては中国に対してよく言ってくれた」というような評価になるだろう。国際的な潮流には乗り遅れていることがわかるが日本での報道を見る限り人々がそれに気がつくことはなさそうだ。日本にとって世界とはアメリカのことなのだし、突然それとは違う「世界」があるなどと言われても人々は不安になるだけだろう。

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