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アメリカの選挙はなぜ開票が遅いのか。アリゾナ州とカリフォルニア州の事例

アメリカの選挙結果の開票が遅れている。いくつかの州で票の集計に時間がかかっているからである。なぜ時間がかかるのかについて調べてみた。調べれば調べるほど先進国のアメリカでなぜこのような不効率なことがまかり通っているのだろうか?と疑問に感じる。

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アリゾナ州では期日前投票が捌ききれなくなりつつある

まずアリゾナ州の事例である。地元フェニックスのFOXニュースが分析記事を書いている。全米第6位の面積のアリゾナ州だが、人口は700万人程度であり州の人口がマリコパ郡とピマ郡に偏っている。このうちマリコパ郡はアメリカで二番目の大きさの投票管轄区域を持っているそうだ。マリコパ郡内では130万票が投じられたが29万票が期日前投票だった。アリゾナ州は近年人口が増えている。また後述するように選挙に対しての疑念が高まっており期日前投票のニーズも高まっている。

特に問題になっているのが郵便投票だ。事前に署名をしておいて投票をするのだが署名を確認し、スキャンしてから、超党派で確認作業を行う。2020年には10万票だったが29万票に増えたことで処理が追いつかなくなりつつあるそうだ。

さらに今回は投票所でも別の問題があった。マリコパ郡の集計センターの1/4で問題が発生し17,000票が処理できなかった。オンデマンドで投票用紙を印刷する仕組みだったようだがうまく動作しなかった。なぜうまく動かなかったかの理由はわかっていない。当局はプリンターを回収して理由を調べると言っている。

マリコパ郡で早期投票が人気の理由をワシントンポストが書いている。郵送で利便性が高いこと、投票所での混乱が警戒されていたため「安全な」投票を願う人が多かったこと、手渡しで確実に投票したことがわかる期日前投票が好まれたことなどの理由があるようである。

そういえばロイターで「投票所は危ない」とか「自分の票がきちんと集計されているかが不安」と感じている人が多いと言う記事を読んだのを思い出した。

ワシントンポストも開票作業の困難さについて記事を書いている。前回の2020年にはトランプ陣営(トランプ氏とその支持者)が結果をくつがえそうとした。この時には疑念を払拭するために長い時間がかかったが今でも選挙結果に疑念があると主張する人たちが大勢いる。これを警戒して当局は何ヶ月も前から入念な準備を重ねてきたようである。決してサボっているわけではなく1日14時間から18時間も労働しているそうだ。

人々が選挙結果に疑念を持つと当局はより慎重になる。また有権者も「投票所はそもそも安全なのだろうか?」とか「本当に自分の投票はカウントしてもらえるのだろうか?」と言う疑念を持つようだ。

そこで期日前投票が好まれるのだがシステムの効率があまり良くない。例えばオンライン投票を導入すれば問題は解決しそうなのだが、アメリカにはマイナンバーカードのようなシステムはないためオンラインのIDカードのようなものを発行する仕組みがない。

とはいえ地域があまりにも広大なため「手作業で全てを数える」のも難しいそうだ。例えば日本のように全ての投票をセンターに持ち込み開票作業をやるような仕組みも考えられるが途方もない物流上の問題が引き起こされるだろうと予想されている。さらにこれを手作業で数えるとなると25,000人の臨時職員と200万平方フィートの作業スペース(スタジアムと表現されている)が必要だろうと考えられているという。

実は票に名前が書いてあるアメリカの仕組み

さて、ここまで漠然と読んできて「なぜ照らし合わせる必要があるのか」と感じた人もいるのではないか。日本はまず入り口で個人を特定してから中に入れている。つまり投票所は「聖域」になっている。このため投票用紙に名前を書くというようなことはやらない。だからあとで照らし合わせる必要もない。

ではアメリカはどうなっているのか。

カリフォルニア州の州務長官オフィスはなぜか日本語で選挙の仕組みを解説している。これがなかなか複雑だ。おそらく住民登録の仕組みがないため、有権者はまず投票者登録をしなければならない。個人のステータスはオンラインで確認できると誇らしげに書かれている。永久郵便投票者になると自動的に投票用紙が送ってもらえるそうだ。

さらに郵便投票も郵送と持参が選べる。また事前に投票箱に入れることもできるところもある。加えて代理人投票も選ぶことができる。民主主義へのアクセスを容易にするためにありとあらゆる手段が準備されているのがカリフォルニア州だ。

そして、これらの投票用紙がどう扱われているかもシステムでトラッキングができるそうだ。透明性を高めるためにWhere’s My Ballot?というシステムが作られていると言う。名前が書いてあるだけでなくトラッキングまでできてしまうのである。日本では票を入れてしまえばあとはどうなるかわからないのだから先進的な仕組みとも言える。

しかし電子的なトラッキングをやっているわけでもない。つまり確認にかなりの手間がかかる。

このニュースに興味を持ったきっかけはレディトランプと呼ばれるカリ・レイク候補が根拠を示さずに選挙に疑いを持っているというCNNの記事だった。アメリカのような先進国の選挙システムに問題があるはずなどないと考え「あまりにも荒唐無稽だ」と思っていたのだ。だが調べれば調べるほどアメリカの選挙制度が複雑なのだと言うことがわかってきた。その理由はおそらく「多くの人に民主主義にアクセスしてもらいたい」と言う善意や投票プロセス透明化なのだろう。

だが皮肉なことにこれを追求しようとすればするほどシステムは複雑化し多くの人が選挙結果に疑念を持つことになる。さらに疑念に答えるために制度を複雑化させると「もう即日開票はできません」ということになってしまう。こうしてアメリカの一部の州では即時性を犠牲にして延々と票と署名の照らし合わせをやっているのである。

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