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なぜかトランプ劇場になりつつあるアメリカの中間選挙

アメリカの中間選挙の最終結果がなかなか出ない。どっちかが勝ったという報道が出ればスッキリと収まるのだろうがまだ宙ぶらりんのままだ。この間を埋めるのに広がっているのがトランプ氏をめぐる問題だ。

中間選挙は政治家と有権者との間に大きなすれ違いが起きているようである。また選挙制度も時代に合わなくなりつつある。課題は色々あるのだが日本のテレビはトランプ氏が激怒しているということに注目している。アメリカの選挙事情にはあまり興味はないがトランプ氏は見ていて飽きないということなのだろう。

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当初、民主党は負けるだろうと言われていた。バイデン大統領が「価値観闘争」を前面に打ち出していたが有権者はインフレ対策などの関心を持っていると言われていたためだ。つまり民主党と有権者の間には大きな乖離があった。

トランプ氏がこの潮流をいち早く感じ取った。トランプ氏はここでこの潮流に乗れば最高のカムバックの舞台になると考えたのだろう。この潮流に乗ってバイデン政権を攻撃し始めた。実はこれも誤算だった。

共和党支持者の中にいるMAGAと呼ばれている人たちは「民主党と対抗するためにはトランプのようなめちゃくちゃな人物を対抗馬に立てるしかない」と思っている。つまりトランプ氏を支持しているわけではなく、トランプ氏がメチャクチャな人であるところに期待を寄せているのである。

BBCは「【米中間選挙】 なぜ共和党圧勝の「赤い波」は起きなかったのか」という分析記事を出している。

  • 第一にアメリカ人の中にはインフレの影響を受けている人とそうでない人たちがいる。つまり経済的に分極している。
  • 選挙終盤にトランプ派共和党支持者が「相変わらずの言動」をやめることができなかった。この言動が危機感になり民主党支持者たちを選挙に動員できた。
  • 無党派層が増えているが、彼らはトランプ氏の影響力を削ぐために動いた。前回の選挙の否定論者たちが多く落選しているところを見るとトランプ氏は信任されなかったことになる。

共和党のコアの支持者たちの組織率が落ちている。一部はMAGA共和党に占拠され、また一部は無党派層によって支えられているという状態である。周りの極端な人は動いたがコアの共和党支持者たちはあるいは動員されなかった可能性がある。

共和党支持者たちが関心を持っている問題は国境問題や治安問題だということになっている。実際には「アメリカが白人中心の国」でなくなっていることに怒っている人が多いようだ。エマニュエル・トッド氏の分析を引き合いに出すまでもなく白人の中には競争に脱落する恐怖を感じている人たちがいる。自殺やアルコール中毒がメジャーな死因として伸びているというのはおそらくその証拠だろう。トッド氏に言わせれば「米国社会について真実を言っているのはトランプだった」ことになる。つまり、トランプ氏は有権者の個人的な問題を社会問題化することには成功した。

彼らの頭の中では南から押し寄せる移民問題、アメリカが白人の国でなくなりつつある問題、自分達が競争から脱落しつつある問題などがごちゃごちゃになっている。だが最も重要な問題はおそらく自分の人生の行き詰まりである。

だがトランプ氏が問題にしていたのも実は自分だった。大統領選挙の候補者でいる限りは司法当局も自分に手を出しにくい。また選挙資金集めは良いビジネスになる。自らの身の安全を確保しつつ興行を続けるためには大統領候補者でい続けなければならない。トランプ氏はおそらく有権者には関心がない。そのことに多くの有権者が気づき始めている。

いずれにせよ、トランプ氏が「自分の復帰の舞台を作るため」に動き出したことでもとからいた共和党員や無党派層が離反した可能性がある。つまり、仮に共和党が身近な治安問題などに集中していればあるいは「赤い津波」が起きていたかもしれない。

つまり、当初民主党の支持が盛り上がらなかった理由も最終的に共和党が勝たなかった理由も「有権者は身近な問題にしか興味がない」が、政治家たちは「民主党・共和党の闘争にしか興味がない」というすれ違いである程度説明ができてしまう。

このため、トランプ氏に我慢をしていた人たちの不満が一気に吹き出し一部ではトランプ氏を批判する動きが起きている。次に期待されているのはフロリダ州のデサンテス知事である。トランプ氏の手法を模倣して台頭したが次第に距離を置き始めているようだ。現在は自身の大統領出馬を強く示唆している。

一方で日本のマスコミはまた違った見方をしている。トランプ氏という「絵になるキャラクター」がおもちゃのように扱われている。選挙前にはまるで「王の帰還」のような扱いをされていたが、蓋を開けてみると「トランプ氏が苛立ちを周囲にぶつけている」というようなニュースになった。どちらもCNNの報道を引き合いに出している。CNNは中立ではなく「反トランプ」だが冷静な分析よりもトランプ氏ががっかりしているというニュースの方が面白いのだろう。


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