新型コロナの流行が始まった見込みだ。このままでは第7波を超える可能性も出てきた。分科会からアドバイザリーボード(助言組織)と名前が変わったがメンバーは相変わらず「自己責任での備え」を求め続けている。
誤解があるといけないので時事通信の記事を丁寧に読んでゆく。
- 事実:全国の新規感染者数は前週比1.4倍に増えた
- 加藤厚生労働大臣の見通し:加藤氏は、今夏の「第7波」と同じスピードで感染者が増えた場合、「2週間後には前回(第7波)を超える可能性も想定される」と述べた。
- 脇田座長のレコメンデーション:座長の脇田隆字・感染研所長は会合後に記者会見し、「第7波の感染者数が下がりきっていない中で増加傾向となっている」と強調。ワクチン接種や解熱剤の備蓄など「個人でできる準備をしておく必要がある」と訴えた。
正確に言えば「感染者が増えた」と言っているだけである。あとは予測と要請だ。このため共同通信は確定的なことは書けず「つながる可能性」と曖昧な書き方になっている。脇田座長も「第7波と同じかそれ以上」と言っている。おそらく国民の行動喚起にはつながらないだろう。
かなりの流行を予測はしているものの「具体的に何をやります」という提案は聞こえてこない。脇田座長が「ワクチンを早めに打って」「解熱剤を備蓄しろ」と言っているだけだ。つまり病気になっても熱が出たぐらいなら病院にはゆくなと言っていることになる。自己責任で黙って寝ていれば病院には迷惑がかからず医療機関が混乱することはないということなのだろう。
つまりこれは「何もしない」と言っている。医療機関への罰則規定を加えて感染症対策を見直すという話もあるが2024年の話である。
「政府はひどい」と書きたいところなのだがもはやそんなことを書いても仕方がない。特にかかりつけ医を持たない人は病院に行けない可能性があるのだから自分で備える必要があるのかもしれない。
例えば神奈川県は「ご家庭に医療用・一般用抗原検査キットを常備しましょう」と呼びかけている。脇田座長の提案するワクチン・解熱剤の他に検査キットを備えて自己診断をできるようにしておこうと言っている。「セルフ診断キット」は厚生労働省の提案するフローに円滑に乗るためには必要な備えだ。
ところがこの検査キットを入手するのがなかなか難しい。検査キット自体は十分に行き渡っていて価格も安定してきている。ところが情報が錯綜しているのである。
もともと検査キットには医療用しかなかった。数が限られていることもあり薬剤師のいる病院で名前と電話番号を書いた上で使い方の説明を受ける必要があった。この制度は今も続いており一部のドラッグストアで厳格に運用されている。
ところがこれでは足りなくなり「一般用」という新しい区分ができた。これを理解した上で神奈川県のウェブサイトを読むと確かに「医療用・一般用」と分けて書いている。ではなぜ「検査キット」と書かないのか。実はこの他に「研究用」というものが売られている。厚生労働省のウェブサイトには「新型コロナウイルス感染症の一般用抗原検査キット(OTC)の承認情報」という情報がある。わざわざ写真付きで「研究用を買うな」と書いてある。ところがここには「医療用」が含まれていない。
- 医療用(すでに売られていたもの・薬剤師に相談して買う必要がある)
- 研究用(すでに売られていたもの・診断には使えないので個人が備蓄しても意味がない)
- 一般用(新しく売られ始めたもの。ネットでも買うことができる)
この区分を国民生活センターが「わかりやすく」書くとこうなる。ほぼ何を言っているのかわからない。また、検索をすると昔の情報が多数出てくる。さらにドラッグストアでも一般のレジと薬剤師のいる窓口では言っていることが違ったりする。薬剤師も医療用の話をするが一般用のことはわからないという人と、これまで医療用を扱っておらず一般用の話をする人がいる。一般のレジの人はアルバイトだったりするのでさらに情報はあやふやだ。おそらく都道府県によっても情報はバラバラだと思うので、結局は「都道府県に聞かないと正確なところはわからない」ということになるだろう。
自己責任というのだからそれなりに備えようと情報収集しても結局何が正しいのかよくわからないということになっている。
そもそも今の時点で「テレビも騒いでいないのに」検査キットを求める人などいないだろうが、おそらく感染者が増えればいつものように「発熱外来に行けない」とか「検査キットが手に入らない」というような情報が事後的に溢れるはずである。国民に自己責任を求めるなら厚生労働省では助けられないので自分で早めになんとかしてくださいと呼びかけるべきだ。
加藤厚生労働大臣が何をどう考えているのかはわからないのだが、おそらく第8波入りが明確になるまで何も言わないだろう。さらに第8波入りが明確になっても「医療機関には迷惑をかけるな」というようなことしか言わないものと思われる。知事会は国に対して「経済活動も続けさせろ」と要求している。早めに流行宣言を出し経済活動を抑制するようなことはやってくれるなというわけだ。
国民はそんな中で「自己責任を押し付けられる冬」を迎えようとしている。