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なぜ11月3日のJアラートは大混乱しているように見えてしまったのか?

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11月3日は文化の日だったのだが朝のテレビ番組はそれに似つかわしくなかった。ワイドショーがJアラートに占拠された形になったからである。マスコミは「Jアラートが混乱した」と報じているが混乱したのは政府であって警報ではないだろう。特に松野官房長官が何も仕事をしていないことが浮き彫りになったと言って良い。

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松野官房長官が論点整理をしていないために複数の論点がごちゃごちゃに語られている

現在伝えられている問題を切り分けると三つある。

  • まず、10月のJアラートにはテストデータが残っており間違った情報が出た。これについて総括ができていない。つまりシステムの運用の信頼性に重大な懸念がある。
  • 次に、ミサイルが通過したと予想された時間は7時48分だが最初のJアラートが出たのは7時50分である。これでは逃げられない。もっと早く発出する必要があるがそもそもそんなことができるのかがよくわからない。
  • 最後にJアラートは100%の精度ではない。だから、その都度情報を更新してゆく必要がある。この更新を誰がやるのかということが決まっていない。

緊急地震速報も同じような仕組みだが予想が外れたからといってそれを非難する人はいない。科学的に地震が予知できないということは誰でも知っているからである。与えられた条件でどこまで正確な情報が出せるかが重要だ。

これがごちゃごちゃに語られているというのが今回の問題といえる。だが防衛省はJアラートは役立たずのおもちゃではないと強調したいため「間違っていなかった」と言っている。これが結果として言い訳に見えてしまう。

誰がか問題を整理しなければならない。その誰かを内閣で見つけるとすれば総理大臣か官房長官であろう。総理大臣が最終決定を下すならば、松野官房長官が情報と論点を整理する必要がある。だが、この人は全く仕事をしていない。最終的に「システムを改修します」と約束したが松野官房長官の仕事は論点を整理した上で具体的にどう対策するかを決めることだった。「情報収集します」では話にならない。

背景には制度やシステムに対する自信のなさが伺える。このため何とか警報が機能していると見せかける必要がある。この動揺が我々にダイレクトに伝わってくると不安が増してしまうのである。

そもそもなぜ「訂正」されたのか

TBSがなぜ訂正されたのかについて考察しているのだが、よくよく話を聞いてみると「情報は更新された」というべきだった。

対象になったミサイルはICBMだと考えられている。ICBMならば日本の上空遥か彼方を飛び越えてゆくために警報対象にならないようだ。一方で「ICBMから切り離された破片」は日本に落ちてくる可能性がある。切り離されたものが捕捉されたのではないかという説がある。政府の分析は出ていないが、小谷哲男教授は「破片が捕捉された」説を採用している。

つまりこれは「誤報ではなかった」と言って良い。可能性が少しでもあるのならば予防的に警報を出すことには合理性がある。緊急地震速報と同じ理屈だ。

だが、これを訂正ではなく情報更新というためには今の北朝鮮の技術水準に日本の防衛システムが追いついていないことを認めなければならない。今の政府にできないのは「今の技術ではできません」と宣言することなのだろう。

さらに北朝鮮側の技術も不十分だった。つまり、相手のシステムが「こちらの狙い通りに」飛んでこないと警報が出せないシステムなのだが、相手もテストをやっているのだから想定通りにミサイルを飛ばすことができない。考えてみれば当たり前だ。

最終的に読売新聞は順安付近からICBM1発が発射されたが2段目を分離した後で失敗したようだと書いている。火星17号と呼ばれるタイプでうまくゆけば1万5000キロを飛行するそうだが日本海上空で2000キロの上空まで到達し750キロ地点で日本海に落下した。

右往左往の官邸は情報のアップデートができなかったようだ

「誤報」扱いされたのは政府の発表がいかにも自信なさげだったからだ。ここからはNHKの情報も付け加えて時系列にまとめてみた。官邸は情報収集に奔走していた。確実なことがわからないと伝えられないという思い込みがあったのだろう。情報を確定してから伝えたいという気持ちが大きかったようだ。

  • ICBMらしきものが発射されたのは7時39分だった。ところがこれとは別に日本に飛んでくるかもしれないものが捕捉された。のちに切り離されたものらしいと分かる訳だがこのときにはまだ確定できなかった。さらに北朝鮮の想定通りにも飛ばなかった(らしい)ということが後から分かる。
  • 韓国軍合同参謀本部が7:45に中長距離の弾道ミサイルと推定と発表した。発射から6分後だった。
  • 最初のJアラートは7時50分に発出された。「7時48分に通過しているものと見られる」という内容で宮城・山形・新潟に警報が出た。補足から発表が遅れるのはシステムが自動的に発出するわけではなく内閣官房で人間が判断するからなのだそうだ。つまり伝達でディレイが発生するのである。ただしこの仕組みは「警報を空打ちしない」という配慮のもとに決まっているそうなので妥当かはわからないが一定の合理性がある。
  • 続いて8時00分に「落下したものとみられる」という2回目のJアラートが出た。結果的にこの「見込み」が違っていた。これが浜田防衛大臣の「訂正」発言につながってゆく。つまり全てのJアラートが訂正されたわけではなかった。そもそも限られた情報の中で瞬時に警報を出す仕組みなのだから訂正よりアップデートと呼ぶのがふさわしい。
  • 政府からは何のアップデートもないので「8時20分になってもPAC3の対処はなかったようだ」とNHKが伝えた。ワイドショーも「北朝鮮進行」を続けていた。
  • 海上保安庁が「2回目の発射があったようだ」と8時41分に発表した。ワイドショーではこの時間になると「すでに決着したのではないか」と感じたようだが放送を止めることはできなかった。
  • 8時47分になって海上保安庁から「すでに落下したものとみられる」という情報が出てきた。
  • 8時51分になって海上保安庁が3回目も落下したものと見られると発表した。次第にワイドショーは通常の放送に戻っていった。

ここまできても官邸は「情報収拾中」だった。NHKによると外務省から初の観測が出てきたのが9時で内容は「官邸もバタバタしている」というものだった。複数の情報が入り情報が錯綜しているというニュースが五月雨式に入ってきた。日本政府が北朝鮮の動向を正確に把握できていないのは明らかだがそれを認めたくない。その動揺は「いつまで経っても政府要人からの肉声が聞かれない」という不安に変わっていった。

岸田総理が公邸から官邸に入ったのが9時だった。当然状況はわかっておらず「適切な対処を指示している」と言及するにとどめた。浜田防衛大臣も同時刻に記者団に答え「Jアラートを出したが訂正する」と答えた。

今回の「誤報・訂正」騒ぎで機能不全を露呈したのは松野官房長官だろう。第一に前回東京都に間違ってJアラートが出た時に総括がされていない。訓練データが残っていて間違えたという印象が残っている。さらに2回目のJアラートがなぜ「見込みを間違えたのか」についても言及はなかった。

求められる「ニュースキャスター的」官房長官

では官房長官の仕事は何なのだろう。仕事は二つある。ニュースデスクとニュースキャスターである。

松野官房長官は「国民にしっかり説明してゆく」との決意を表明した。「今説明してほしい」わけで「後で説明をする」という決意を聞きたいわけではない。政府が「全力を上げて対応する」と言えばいうほど「実際にはなにもやってくれないじゃないか」という不安が増してゆく。松野官房長官が把握していないものが岸田総理に伝わることもないわけで、結果的に岸田総理が「力強いリーダーシップ」を発揮すればするほどそれが何か曖昧であやふやなものに見えてしまうのである。

必要な情報を精査して「放送に乗せる」のがニュースデスクの仕事だ。官房長官の場合は官邸から上がってくる情報を精査し総理大臣が何を説明するのかを決めることになるだろう。ただ、ニュースデスクだけをやっていたのでは不十分である。

最終的に松野官房長官は「危険性を速やかに知らせるものであって問題はなかった」と総括した。共同通信がこれを伝えたのは10時50分だった。日本テレビも防衛省の見解として「Jアラートは正常に作動した」と伝えている。

これは確かにその通りだ。緊急地震速報は「誤報」があったとしてもそれは「結果的に大きな地震がこなくてよかった」ということになる。地震を100%予知できるわけではないと「科学的に」説明されているからだ。単純な物理システムなのでミサイル防衛システムにも同じことが言える。

ミサイル技術は進歩しており完全に把握し切れるものでもない。今回のように複数が発射され事故により想定とは違った軌道を取ることもあるだろう。不安を払拭するためにはその時々に得られる情報を正確に伝えて間違いがあればそれを潔く認める体制を作らなければならない。

ただこれは技術的にはかなり面倒な仕事だろう。これをうまくやっていたのはテレビ朝日の羽鳥慎一さんとフジテレビの三宅正治さんだった。特にフジテレビは台本が必要な谷原章介さんでは「回せない」と判断したのではないかと思う。アナウンサーと俳優の違いがでた。

「誰が情報の整理をやるか」は別にして情報を随時アップデートする体制を作るためには、情報を集めてくるスタッフ、情報が集められるスタジオ、瞬時に情報を捌いて正確に伝えることができるアナウンス技術を持ったキャスターが必要になるということがわかる。松野官房長官や濱田防衛大臣が「台本なしで進行できる人」かは精査した方がよさそうだ。またこの場合には別途「裏で情報を捌く人」が必要だ。つまり警報は出しっぱなしにはできない。出した後が重要なのだ。

普段から「やってる感」を演出している政府だが、その背景には「実はきちんとできていない」という後ろめたさがあるのだろう。それがそのまま透けて見えたというのが今回の事例だったのかもしれない。官僚の書いた台本を読んでいるだけでは臨機応変な対応はできない。

気象庁の緊急地震速報では専門家から説明があるのが常だ。文民統制という制約はあるにせよ気象庁と同じように防衛省の責任者が直接マスコミに説明する機会を作るべきなのかもしれない。官邸に「キャスター」がいないのなら技術的なことがわかる担当者の方が明確な説明ができるはずだ。つまりキャスターは放送局に外注し政府は「情報の送り出し」に努めるべきだということになる。

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