岸田総理が土壇場で補正予算の増額を決めたというニュースが入ってきた。経済対策は大きければ大きいほどいいと考える方もいらっしゃるのだろうが、どうも様子がおかしい。「安倍総理の後継は岸田政調会長」という期待が消えた2020年のことを思い出した。だが、今回は事態収集に動く二階幹事長や菅官房長官はいない。
岸田総理大臣がコロナ対策の補正予算を決めた。土壇場で総理が指示して増額が決まったそうだ。経済対策は大きければ大きいほどいいとは思うのだがどうも様子がおかしい。岸田総理がまたもや「聞く力」を発揮してしまったようなのである。
ロイターの記事には次の一節がある。実は自民党議員の要求に応えるため目玉政策の規模が減額されている。大事なことは大抵細かくしか書かれないものなのなのだが、これは自民党選挙対策予算であってインフレ対策ではないのかもしれない。
追加した「今後への備え」には財政支出ベースで4.7兆円をつぎ込み、不測の事態に備える構えだが、追加項目を講じたことで、対策の筆頭格に据える物価高騰・賃上げ対策の財政支出については、逆に13.7兆円から12.2兆円に減額となる。
今わかっていることは二つある。1つは財務省が反対していたという点である。もう1つは増額を決めたのは萩生田政調会長だった。時事通信がまとめている。
予算案は鈴木財務大臣の調整で一旦まとまりかけたが萩生田政調会長が増額を要求した。ところが蓋を開けてみると庶民に直接関係がある物価高騰対策・賃上げ対策の予算が削られた。自民党の人たちが「自分達は相当頑張った」と言っているところから、彼らのお願いが多く入ったのであろうということがわかる。議員の先生たちはこれで支援者に「説明」ができる。
今回のドタバタ劇を見ていて「政調会長時代に似ているな」と感じた。あの時も「業界お願い型」予算が入る一方で現金給付や企業支援には慎重だった。
前回は公明党が待ったをかけたことでこれが暗転した。
当時の記事を読み返すと安倍総理は官邸主導で岸田政調会長に取りまとめを依頼したことになっている。岸田総理はなぜか抑制的な給付案をまとめる。ところが公明党がこれに反発し二階幹事長が同調したこともあり暗転し「公明党主導で一律10万円が決まった」などと報道された。
二階幹事長は当初岸田政調会長の現金給付案に反対し商品券を推していた。結局、岸田政調会長は自民党のお願いだけを聞いて予算案をまとめる。ところが二階さん「反撃」に出てきて勝手に「与野党協議会」を立ち上げた。公明党を入れたかったのだろうが実際に乗ってきたのは野党だった。そのうちになぜか公明党が総理に直訴して連立離脱まで仄めかし「一律10万円給付」という話になる。結果的に自民党の若手などは「手柄を全て公明党に持ってゆかれた」と不満を口にした。
後に日経ビジネスが「真相」を書いている。実は岸田さんは直前に麻生さんからお願いをされていたようだ。支給額を増やして「インパクト」を演出するが「支給要件を厳しくして」総額を抑えようという方向性だった。
自民党・公明党共に「岸田政調会長主導」に反発していたが、実質的には麻生財務大臣の「忠告」への反発だったことになる。これでは選挙に勝てないというわけだ。
今回も実は同じことが起きている。鈴木財務大臣が抑制的な案を出したがそれに反発した萩生田政調会長が横槍を入れる。岸田総理はそれを聞いてしまった。だが、蓋を開けてみると「一律給付」にあたる庶民向けの対策費は削られている。それがどこに回されたのかはよくわからない。
財務省はおそらく今回の件を面白くないと感じているだろう。財務省や厚生労働省発進で「国民負担増」の話が五月雨式に報道されるのはおそらくそのためだ。
例えば防衛費も「国民全体で負担すべきだ」という議論が政府税調から出ている。財務省主導で「国民負担」を訴えるメッセージがこのところマスコミ向けに流され続けている。岸田総理はこの点について記者に聞かれたが曖昧に「一体的に議論しその時々に判断します」とあいまいに答えるしかなかった。つまり、岸田総理が「聞く力」を発揮すれば発揮するほど、候補者を支援する人たちに分配しその財源を一般から広く求めるしかなくなってしまう。
有力野党が不在なのでこれが自民党の支持率低下につながることはない。むしろ政権支持率が下がると自民党が有利になり萩生田政調会長の発言力が増すという構図があるようだ。
もう一つの懸念は党内の不満の蓄積だ。おそらく今回の対策に不満を持っている人は多いはずだ。結局「最後に声が大きい人」が成果を総取りするという構図だからだ。前回は二階幹事長と菅官房長官がこれを収拾した。連立離脱を仄めかす公明党を宥(なだ)めたのである。だが今回の岸田総理にはそのような幹事長も官房長官もいない。全ての火の粉は岸田総理がかぶることになる。統一教会問題を見ているとそれがよくわかる。
とここまで政権与党内外の圧力という点だけを書いてきた。これに国債依存が高まりますます利上げが難しくなるという全く別の問題が入ってくる。財務省はこれを「なんとか破綻しない形に仕上げろ」という指示を受けているはずだ。おそらく名幹事長・名官房長官がいたとしても金融市場とは喧嘩できない。この辺りは「何事もありませんように」とただ祈るしかなさそうだ。
日経新聞は呆れ顔で「財政・金融もたれあい 限界」と書き、増額ありきで予算を積み増して年度内に使い切れるのか?と懸念を表明している。