ざっくり解説 時々深掘り

ペロシ邸襲撃事件と中間選挙で高まる暴力の懸念。今起きていることを短く要約。

すでにご存知の方も多いと思うのだがサンフランシスコのペロシ邸が襲撃されペロシ下院議長の夫が頭蓋骨骨折の怪我を負った。アメリカ合衆国では、この件に関する報道は抑制的だ。中間選挙に向けて投票所の暴力行為が懸念されているため世論を刺激したくないのだろう。短く関係報道を追った。

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動機や組織的背景はいまだに不明

事件のあらましはCNNが伝えている。狙われたのはナンシー・ペロシ下院議長だった。ペロシ下院議長は留守だったため夫のポール・ペロシ氏が代わりに襲われた。拳銃が容易に手に入るアメリカ合衆国だがなぜか今回使われたのはハンマーだった。「ナンシーはどこだ」と聞いているところからペロシ下院議長の動向を把握していなかったものと思われる。組織性と計画性のなさが見えてくる。

デービッド・デパピ容疑者(42)という名前と年齢は公表されているが、連邦政府も州も捜査当局もこの事件が「政治的テロ」だったとか「暗殺未遂事件だった」というラベリングはしていない。当初の当局の発表でも記者の質問を受け付けなかった。この辺りにアメリカの複雑な事情がある。

日本語で取れる情報としてはBBCの方が詳細だ。デパピ容疑者の名前で開設されたブログやSNSには陰謀論が溢れていた。すでに否定されている「選挙は何者かによって盗まれた」という主張も多く含まれていたようだ。英語版ではCNNも同様な報道を出している。陰謀論を信じた人の襲撃事件だったことが示唆されている。

What we know and still don’t know about the attack on Paul Pelosi(CNN)

最新情報では犯罪の経緯やデパピ容疑者のSNSアカウントについては多く伝えられているものの動機や組織的背景などについては報じられていない。バイデン大統領を含めて個人的な感想は伝わってきているが政府としての意味づけは行われていない。この事件の扱いを間違えると混乱が広がりかねないというアメリカならではの危うさがある。

投票所が襲われるのではないか:暴力に対する漠然とした不安が広がっている

実はすでに「暴力に対する懸念」は広がっている。

この事件が起こる前の調査をロイターが紹介している。半数近く43%のアメリカ人が「きたる中間選挙では何か暴力事件が起こるのではないか」と懸念していた。共和党支持者は自分の票がきちんとカウントされていないと信じる人が多く、民主党支持者には暴力・威嚇行為があるのではないかと懸念する傾向がある。つまり、前回の大統領選挙とその後に起こった議会襲撃事件の余波がまだ消えていないのである。

ホワイトハウスはこの件について声明を出していないようだが、BBCの報道によると全米の警察署に「イデオロギー的な不満」を抱えた個人による、選挙の立候補者や職員に対する、国内の暴力的な過激主義の「脅威が高まっている」と警告したとされている。この件を表沙汰に批判して民主党・共和党の争いを激化させることは避けたい。だが「イデオロギー的な不満を持った人」にペロシ邸が襲われており類似の犯罪が起こりかねないという危機意識があるようである。

BBCはアリゾナ州で武装した人たちが選挙監視団を結成し投票所に来た人たちの顔写真をSNSにアップしているとも書いている。選挙は盗まれたという陰謀論的な主張を信じている人たちの一部が過激化していることを物語る。

これらの状況はロイターが紹介している調査が必ずしも杞憂でないということを示唆している。

日本のメディアは危機感を共有せず

一方で日本にはあまり緊張した状態は伝わってきていない。時事通信は2本の記事で「民主党が劣勢らしい」と報じている。民主主義の危機よりも「今後の日本への影響」が気になるのだろう。また、アメリカ合衆国は民主主義の本場であるという漠然とした了解があるため、まさかここまでの緊張状態になっているとは感じていない人が多いのかもしれない。

トランプ氏はブラジルに「外遊」中

トランプ氏、極右ボルソナロ氏を応援 ブラジル大統領選(AFP/時事)

この件で聞こえてこないのがトランプ氏の動向だ。実はブラジルで大統領選挙が行われていてトランプ氏はブラジルでボルソナロ氏を応援しているようだ。

ボルソナロ氏は現在やや劣勢と言われているが負けても選挙結果を認めるつもりはないようである。トランプ氏はボルソナロ氏に加勢して「この選挙は盗まれたものだ」という持論を展開するのかもしれない。

アングル:大統領盟友が警察に発砲、暴力懸念高まるブラジル選挙(ロイター)

実はブラジルでもボルソナロ氏の「盟友」が警察と銃撃戦を展開したという件が問題になっており選挙後の暴力の懸念がある。トランプ氏は「選挙は盗まれた」というメッセージをブラジルにも輸出してしまった形になるが、火種としての危険度はブラジルの方が高いのかもしれない。

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