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ウィンドフォールタックス(棚ぼた税)とスナク新首相

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イギリスとEUである税金が議論されている。それがウィンドフォールプロフィットに対するウィンドフォール税だ。日本語では「棚ぼた利益に対する棚ぼた税」という名前がついている。BBCが「What is the windfall tax on oil and gas companies?」という記事を書いている。貧困対策費用をどこから捻出してくるかという議論なのだが、スナク新首相が「結局はどちらの味方なのか」という論点を含んでいる。

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現在石油価格が上昇している。石油価格が上昇すると原料も値上がりするが利益も増える。このためエネルギー企業の利益は増加していると考えられている。この「ラッキーな利益」に課税して貧困者対策に回すというのが基本的な仕組みだ。

もちろん企業寄りの政治家はこのような税には手をつけたくない。自信も富豪であり金融界出身のスナク氏もその一人だろう。環境問題について話し合うCOP27に参加しないことを決めた。表向きの理由は「忙しいから」である。環境問題の優先順位が低いのは明らかだ。

棚ぼた税はもともと労働党の提案だったようだ。労働党は当然ながら企業に課税し労働者に還元すべきだという主張を持っている。だが燃料価格が高騰しジョンソン首相のパーティーゲート事件の影響もあり保守党は何らかの課税を行わなければならないと考えたようだ。当時のリシ・スナク財務大臣が棚ぼた税の導入を発表した。

リシ・スナク首相が財務大臣だった時代に導入されたこの棚ぼた税はその効果が疑問視されている。エネルギーへの支援は2023年4月に切れる予定になっている一方で「企業の不当な利益が守られている」という野党批判の温床になる。

労働党は「この法律には抜け穴が準備されている」と考えている。化石燃料の採掘に投資すると節税を申請できる仕組みがあり、結果的に家計を支えるための費用が石油会社に転嫁されているというのだ。また、ロシアの石油事業から撤退すると損金が出る。これも棚ぼた利益を帳消しするのに役に立つ。結局「総利益」が対象になっているためいくらでも操作できてしまうのである。有権者と野党の干支がなければ、補助金と棚ぼた税の調整で政府はいかようにも企業に収益を移転できる。

実際はどうなのか。BBCはShellは史上二番目に高い利益を得たのにたなぼた税を支払っていないと報道した。大規模な投資をしたから利益は上がっていないというのである。第三四半期の利益は順調で第4・四半期に15%の増配を実施する意向も示している。移転は明らかとメディアはみているようだ。

これらの記事を読むと「企業の言いなりに高いエネルギー価格を支払っているイギリス人はATMのように扱われている」というような感情的な議論が並んでいる。企業は庶民から金をむしり取ってスナク氏のような富裕層にそれを回しているという批判が出れば保守党の今後の政権運営は難しいものになる。合理的に訴えることはできず感情論に支配されることになるだろう。イギリス史上最も若い首相になったリシ・スナク首相は同時に国王よりも金持ちと噂されている。「結局は金持ちの味方」と思われかねない。

同じような議論はEUでも出ている。マクロン大統領はたなぼた税に賛成している。Bloombergは「超過利潤税」と呼んでいるようである。だが、レプソルのCEOは「EUがその気ならばアメリカの投資を移す」と脅かしている。

ロシアからエネルギーが入って来なくなると、ヨーロッパは燃料政策を転換する必要がある。このためにはエネルギー企業の協力が不可避だ。と同時に各国政府は貧困層・庶民に対する援助もしなければならない。このため「不当な利益を上げている企業」への風当たりが強くなり「儲けているところから税金を取っては」という議論がでてくるのである。

結局「庶民と企業のどちらを優先するか」という二者択一的議論が始まり状況が膠着する。

戦争やインフレ対策の影響を受けるのは庶民階層だが、政府は「民主主義を守るためだから我慢しろ」としか言わない。それでも不満が蓄積すると野党からの批判をかわすために「対策を講じている」と主張する、だが蓋を開けてみるとそれらの諸対策の実効性は乏しい。そうなると視野に入ってくるのは「支持率低下」「政権交代」「政治離れ」などである。

イギリスはそのような状態に陥っている。

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