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ルラ氏優勢のブラジルの大統領選挙で高まる暴力への不安

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穏健な選挙はその国の民主主義の成熟度合いを計測する指標になっている。ブラジルで大統領選挙の決選投票が行われるのだが、結果を受け入れない人たちが暴動を起こすのではないかという不安が高まっている。きっかけになったのは現職大統領の「盟友」が警察に対して起こした発砲事件だ。

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ブラジル大統領選挙は汚職の疑念が完全に払拭されていない元職のルラ氏と派手な言動で知られる現職ボルソナロ氏の一騎討ちになっている。ボルソナロ氏が「意外に健闘」し決選投票に持ち込まれたという状況だ。ところが終盤になってボルソナロ氏が失速した。

失速の原因は元議員のロベルト・ジェファーソン氏だ。オンラインで判事を攻撃したという理由で逮捕された。ジェファーソン氏はすでに組織的な「反民主主義行為」を主導した疑いで自宅軟禁されていた。このジェファーソン氏が武力で警察に対抗したため大騒ぎになった。

ボルソナロ氏は治安維持対策が好感され人気のある大統領だった。このため「犯罪者」であるジェファーソン氏と距離を置こうとした。だが、ジェファーソン氏が大統領官邸を訪れる写真がSNSで投稿され却って火に油をそそぐ結果になってしまっている。

また自宅軟禁されているはずのジェファーソン氏がなぜ武器を持っていたのかという点も解明されていない。ブラジルの警察は貧しい人や黒人には厳しく対応するがなぜかジェファーソン氏への取り締まりは行われていなかったようだ。

この事件から、選挙結果を受け入れたくない人たちが「実は武装しており組織化も図っている」ことが明らかになった。いざとなれば警察と対峙して実力行使する可能性があると示されたわけである。

ロイターの記事によるとボルソナロ氏は最高裁判所と戦うために「奴隷になることを避けるために武器をとって戦うべきだ」と主張していた過去があるそうだ。また、ボルソナロ氏は銃規制の運用を緩やかなものにしてきた。これがジェファーソン氏の事件と結び付けられると「ボルソナロ氏の主張のためにブラジルが危険な状態に陥っている」という結論が得られる。これが支持率低下の理由になっているようだ。

このロイターの短い記事を読むとボルソナロ氏がダブルスタンダードを持っていることがわかる。

  • 治安の悪化を恐れる中間層の市民たちのために治安維持を強化すると約束してきた。
  • 一方で官僚主義と戦うために「自衛のための武器を持つべきだ」と主張してきた。

つまり自分の身の安全を守る武器は良い武器だが貧困層や犯罪者などの悪い奴等が持つ武器は悪い武器だという主張である。ジェファーソン氏の登場でこのダブルスタンダードの前提が大きく崩れてしまった。

大統領選挙は30日に行われるが、今回の事件のためルラ氏の優勢がやや広がっているという。つまり負けを認めたくないボルソナロ氏の支持者たちが暴動を起こす危険性が高まっていることになる。実際に暴動が起こるかは未知数だが、少なくともそうした懸念を流布することでルラ氏には有利になる。

実は同じような懸念が中間選挙を控えたアメリカ合衆国にもある。43%が投票所での暴力や威嚇行為を心配しているとロイターが伝えている。共和党支持者は「自分たちの票が正しく扱われていない」と懸念する傾向にあり、民主党支持者は「選挙結果を受け入れられない人たちが暴動を起こすのではないか」と感じる傾向が強いそうだ。

選挙が穏健に行われるかどうかはその国の民主主義の成熟度の度合いをしめす。さらに言えば「かつて穏健な選挙が行われていたから」といってそれが未来永劫続く保証はない。先行きへの不安が広がり社会が複雑化する中で「穏健な選挙」の前提が崩れつつある。

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