イタリアでメローニ政権が成立した。メローニ政権はEUとNATOに「良いメンバー」として止まることを表明した。一方でECB(中央銀行)のことは批判している。EUからの補助金を受け取ったこともあり「イタリアはEUから離脱するのではないか」という観測も今はなくなった。だが、EUの財政政策には納得していないようだ。政治的には主権を温存し連邦にならないままで通貨を統合したヨーロッパの難しさがある。
メローニ新首相は議会で初演説を行い欧州中央銀行(ECB)の金融引き締めを批判した。高債務国に打撃が大きいというのだ。イタリアの債務はギリシャに次いで大きいという。
程なくしてECBはまた金利を上げた。利上げは3会合連続で、0.75%の利上げは前回9月に続き2回連続だった。米ドル独歩高は一段落したがヨーロッパの人たちはお金が借りにくくなる。アメリカの経済指標があまり良くなかったこともあり「利上げのペースが落ちるのではないか」という希望的観測がある。このため日本円の価格も上昇したようだ。ただ「金融市場の希望的観測」のため期待が裏切られる可能性は十分にある。
イタリアは不思議な状態にある。EUの高すぎるスタンダードにはうんざりしているが出てゆくこともできない。このため内部からEUを批判し続ける道が選ばれたのだろう。通貨統合を拒み最後にはEUから出てゆくことを決めたイギリスとは対照的だ。
もともとイタリアには南北問題があった。北部が一生懸命働き南部が浪費するという構図だ。ところがユーロという通貨同盟ができるとこの構図が一変した。つまりドイツなどが北部になりイタリア全土が「南部化した」のである。
当初は厳しい財政規律に反抗して家出してしまうのではないかと言われていた。検索したところ2018年6月のロイターの「コラム:イタリア問題の本質、恐れるべきは恐れそのもの=高島修氏」という記事が見つかった。財政規律が乱される政治的リスクがあるという理由で黒字のままで「通貨危機」が起きたそうだ。
結局、2018年の不安は的中しなかった。イタリアが期待したのはEUからの支援だった。同盟と五つ星運動は仲違いし困り果てた大統領が選んだのはドラギ氏だった。これが2021年2月のことだ。
この記事はかなりあからさまに「欧州連合(EU)から受け取る2000億ユーロ(2400億ドル)超の復興基金の活用計画を直ちに策定する必要がある。」と書いている。イタリアは援助に依存する国になってしまったのである。
援助を得るためにはEUの経済政策・金融政策に精通したドラギ氏の助けが必要だった。だが援助が得られることがわかると再び政権が動揺してドラギ氏は政権を維持できなくなった。「貰えるものはもらえたからあとは好きにいろいろ言わせてもらう」ということになる。ただし出てゆくほどの余力はない。
ドラギ就任時の記事に「内閣に加わっていないのは極右政党「イタリアの同胞」のみ」と書かれている。これが現在首相になったメローニ氏だ。メローニ氏に人気があるのは実はEUとの約束に関わっていないからである。ただ今回の総選挙で南部の投票率はあまり高くなかったようだ。イタリア南部は「南部」から「実質的な部外者」に変貌しつつある。
おそらく、イタリアはヨーロッパの外に出るつもりはないだろう。これがイギリスとの大きな違いだ。EUの官僚主義に反発したイギリスはて外に出ることにした。このため財政政策・経済政策の変更によって大きく揺さぶられることになった。だがこれは市場のメカニズムによって財政・経済政策が健全化されるということでもある。
一方で、イタリアは貰えるものはもらいつつ内側からヨーロッパを批判することにしたのだろう。通貨統合と統一市場化がいかに困難なものなのかということがわかる。