アメリカのイエレン財務長官は本当に日本の為替介入に怒っているのか?

日本のいくつかのメディアがイエレン財務長官の発言について伝えちょっとした動揺が広がった。余裕がないイエレン財務長官は「情報がない」と言っただけなのだろうが、読売新聞は「東京から何の通知もない」と報告がないことを問題視しているようなタイトルをつけた。まるで報告する義務があるかのようだ。おそらくアメリカの逆鱗に触れることを恐れた記者たちは神田財務官に説明を求めたが、神田さんは「容認してくれているのだろう」と根拠なく曖昧に答えるのみだった。

イエレンさんは怒っているのか、怒っていないのか。考えてみた。






Bloombergがイエレン財務長官の発言を紹介している。タイトルは「イエレン米財務長官、日本の円買い介入「知らない」-通知ないと言明」というものだ。英語でも読んでみたが、当然全く同じように翻訳されている。単に情報がないと言っている。

ただ気になる曖昧さはある。原語ではfell short of endorsing the moveとなっている。英語は逐次訳するので「推奨するとまではいかないが理解はする」と解釈できる。ところが日本語になると「〜とまではいかないが(最低限)が落ちてしまうので「一応理解すると表面的には言っておくが実際にはどう考えているのかわからない」と思えるような表現になってしまう。この曖昧さが動揺の一つの原因になった。

マスコミのヘッドラインの付け方もあまり良くなかった、日経新聞はブルームバーグと同じ線で留めているが読売新聞は「何の通知もない」と感情が乗るヘッドラインをつけている。日本はアメリカに万事報告をしてお伺いを立てるべきだと読売新聞は考えているのかもしれない。いわゆる「ホウレンソウ」だ。

ではなぜイエレン財務長官はこのような曖昧な態度を続けているのだろうか。アメリカの国債市場は動揺している。中間選挙も控えているためこれが政治問題化することは避けたい。このためイエレンさんは「市場のボラティリティ(変動性)が高まっておりアメリカ国債市場の安定性が損なわれる懸念がある」と分析し「レジリエンス(回復力)の強化が必要だ」と対策を提示している。問題を否定せずに解決策を示すやり方だ。

イエレン財務長官は「日本がやっていることは自分の意思とは関係がない」がと責任を回避した上で、「やっていることは私の考えに合致している」という表現にとどめているのであろうと理解することができる。

これを踏まえて日本側の対応をみるといくつかの工夫がされている。市場とアメリカを刺激しないように配慮されているのだ。

  • 鈴木財務大臣はイエレン財務長官と平仄を合わせるかのように「ボラティリティ」の問題についての発言に終始し「投機筋との戦いである」と強調している。
  • 岸田総理大臣はこの件については発言しない。不足の発言が市場やバイデン政権を動揺させかねない。
  • オペレーションの内容については事前に一切告知せず、後になっても何をやったのかはいっさい公表しない。介入額だけは月末に公表されている。これも市場の動揺を防ぐ目的があるのだろう。

日本政府には「橋本龍太郎のトラウマ」がある。米国債を売ろうと仄めかしたことでアメリカの逆鱗に触れたとされる都市伝説めいた風評だ。今でも一部で根強く信じられている。仮に橋本発言がアメリカを怒らせたとすればそれは国債を売ろうとしたという事実ではなく首相の不用意な発言が米国国債市場を(一瞬だけであっても)動揺させたということだろう。

おそらく今はバイデン大統領にもイエレン財務長官にも日本の為替介入について考える余裕はない。だが今後同じ状況が続くかもわからない。実はイエレン財務長官とNECのディース氏には中間選挙以降の退任論がある。

現在の財務長官が「黙認」していたとしても次の2年間のバイデン政権がそれを黙認し続けるかどうかはわからない。

いずれにせよ神田財務官は「イエレン氏発言、介入の有無公表しない日本の方針を尊重=神田財務官」と記者に説明したそうだ。特に理由や根拠は示さなかった。

おそらく現在のバイデン政権には余裕がなく日本の状況にまで口を出している余裕はない。だが日本にはアメリカに対する怯えがある。中間選挙を控えているため今後2年間がどのような2年になるかはわからないが、日本政府はとにかく走り出してしまったのだからこのまま防衛を続けるしかないという状態になっている。

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