党中央大会で胡錦濤氏が「つまみ出された」問題で憶測が広がり続けている。新しく分かったこととまだ分かっていないことをBBCの「胡錦濤氏の退席めぐる謎、新たな映像で深まる 中国」をもとに短くまとめた。習近平氏が中央大会でコントロールができないのは前の最高実力者である胡錦濤氏だけだった。それを「排除」したことで全てが習近平氏のコントロール下に入ったという印象がついた。
BBCの記事には元ネタになったビデオが掲載されている。かなり異様な状態だったことがよくわかる。明らかに不自然で緊張した動きだ。
これまでの報道から分かっていること
- 市場化・西側との関係強化という江沢民・胡錦濤路線が否定されて西側に強く対峙する習近平体制が強化された。
- 中国は国内向けには何の発表もしなかったが対外的には「一時的な健康問題である」と説明された。習近平氏は国内外の記者たちに演説し「客観的な報道」をするように求めた。
これらのことから中国が現在の改革開放路線を修正し西側と対峙する政治体制に向かいつつあるものと分析されている。中国の民主化期待は裏切られ「民主主義が世界のスタンダードになる」グローバル化の時代は終わったということになる。東洋経済は経済政策に明るい人が指導部からいなくなる一方で軍事技術に強い人が新しく入っていると指摘している。
新しく分かったこと
- シンガポールのチャンネル・ニュース・アジアが、胡錦濤氏は赤いファイルを見ようととしてつまみ出されたいう新映像を出した。
- 今季限りで政治委員を退任する栗戦書氏が胡錦濤氏を止めた。栗戦書氏は胡錦濤氏の側近で「団派」である。序列3位だったが政治局常務委員を引退する。
- 栗氏は胡錦濤氏を介助しようとしたようだが王滬寧氏に引き留められた。引き留めた王滬寧氏は江沢民・胡錦濤体制でも「軍師」の役割を果たしていたが政治局常務委員に留任する。空気を読み習近平氏に逆らわず習近平氏の体制強化に貢献したものと思われる。
- 温家宝氏を含む高官たちは動揺を示すことなくまっすぐ前を見つめていた。
- これらの様子から習近平氏に表立って逆らう人はおらず習近平氏が党を掌握していることが改めて明確化された。
胡錦濤氏の説明がつかない異常な行動にざわついたものの動揺を表に見せることは許されない緊張した雰囲気だったことがわかる。形式としては胡錦濤氏がいるなかで権力継承が順当に進んでいるということを示すセレモニーなのだからそれをぶち壊しにすることは避けたかったのだろう。また、周囲の張り付いた雰囲気から習近平氏が党大会を支配していると類推することもできそうだ。つまりあの席での不確定要素は胡錦濤氏だけであとは全て習近平氏のコントロール下にあったのだ。
まだわからないこと
- 胡錦濤氏はなぜ退出させられたのか。「見てはいけないファイル」が目の前に置いてあるはずはないのだからファイルを見たことじたいが理由であるとは思えない。
- ファイルには何が書かれていたのか。
共同通信は同じ素材についていくつかの事実を伝え二つの類推をしている。
- 事実
- 胡氏の手元の書類を栗氏が取り上げるような様子が映っている。
- その後、習氏から何らかの指示を受けた会場係に支えられ、胡氏は退場した。
- 類推
- 胡氏は政治体制改革などを巡り習氏とは立場が違うとみられている。
- 中国の国営メディアは体調不良が理由だと既に説明したが、政治的対立が理由だとの見方が消えていない。
共同通信だと「党内に対立がある」という見方になっているがBBCは習近平氏に逆らったり動揺を表に見せる人がいなかったという書き方になっており若干ニュアンスが異なっている。つまり党の中枢部に習近平氏に対抗しうる勢力が残っているのか、あるいは完全に排除されてしまったのかはメディアによって見方が異なるといえるだろう。
日テレも同じ素材で解説記事を出している。日テレからわかるのはこれが会が始まる前の一コマであってその後何事もなかったように会が進行したということだ。習近平氏(新しい最高指導者)と胡錦濤氏(かつての最高指導者)の間で赤い表紙のファイルの取り合いが行われておりまるでカルタ取りのようだったと描写されている。日テレは赤いファイルには人名が書かれていたようだといっており、新しい人事が記されていたのではないかと憶測している。
習近平氏が中央大会でコントロールができないのは前の最高実力者である胡錦濤氏だけだった。それを「排除」したことで全てが習近平氏のコントロール下に入ったという印象がついた。だが今後も習近平国家主席が経済や党内外の不満分子をコントロールし続けることができるのかは誰にもわからない。
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