今回は少し気分を変えて円買い介入の流れだけを書いてみようと思う。額については月末にまとめて確定値が報告される。だが、手法についての具体的な発表はないのですべてメディアの「根拠のある憶測」になる。記事を集めてみてそもそも時系列に並べてみないと何が起きているかわからないと感じた。おそらくある程度学習しつつ手法を変えている。また、当初のメディアの予想も後になって「実は違っていた」ということが起きているようだ。
9月22日の円買い介入について
当初は「米国債は売っていない」と思われていた
当初の説明では「レポファシリティ」という仕組みがあり、それを使ったために「アメリカの機嫌を損ねることなく米国債を売ることができたのでは?」と言われていた。Bloombergによるとレポファシリティの残高は1100億ドル(約15兆6500億円)とされる。実際に介入後に60億ドルが減ったそうである。
- 日本の為替介入、米国債への波及リスク低い-FRBのドル供給策で(Bloomberg:2022年9月23日)
- 米連邦準備制度への外国中銀預け入れ減少-日本の介入後約1週間で(Bloomberg:2022年9月30日)
当初は1兆円強などと言われていたが、のちに介入額は2.8兆円だったということがわかっているそうだ。財務省が9月30日に発表している。理由はよくわからないが確定値を月末に報告するということになっているようだ。つまり10月分も程なく確定値が財務省から出てくる。
- 9月22日の為替介入額、2兆8千億円か…1日の円買い介入としては過去最大(読売新聞:2022年9月30日)
実は日本が持つ外債の保有が減っていたことが判明
ロイターの日本チームは当初「米国債売りはなかったのではないか」と書いていたが、10月の初旬に日経新聞が「実は米国債を売ったのではないか」と書いている。外貨準備の減少は2カ月連続で減少額540億ドルも過去最大だったことが根拠だ。一方で、外貨預金は1361億ドルあるそうだがそれは変わらなかったという。こうなるとアメリカは米国債売却を認めたことになり「日本の立場を理解」の意味合いも違ったものになる。
- コラム:円買い介入で米市場に波乱、日本に株安波及し交錯する思惑(ロイター:2022年9月26日)
- 外貨準備最大の4%減 為替介入で9月末、米国債売却か(2022年10月7日)
橋本龍太郎総理は「国債を売りたいと仄めかしたことでアメリカの逆鱗に触れた」などと噂された。なぜ岸田政権ではそうならなかったのかは考察に値するだろう。米国債市場が混乱すれば利上げとなり円高に作用する。つまり、アメリカ政府の機嫌を損ねずなおかつ円高要因になりそうな市場への影響を避けつつオペレーションを遂行する必要がある。
米国イエレン財務長官は米国債市場に懸念を表明
イエレン財務長官は米国債市場に混乱が起こることを懸念し持って回った言い方でレポファシリティへの期待を表明している。この仕組みがあまり使われておらず利用を促したのかもしれない。日本の為替介入の影響のほかに「大きな買い手たち」が米国債市場から退出しているという事情があり米国債の価格が安定しなくなるのではないかという懸念もでている。
- 米国債の最も強力な買い手たち、一斉に退却-日本の年金基金・生保も(Bloomberg:2022年10月7日)
- イエレン財務長官、米国債市場の「十分な流動性」の喪失を懸念(Bloomberg:2022年10月13日)
10月の円買い介入について
10月13日にも介入?
- 市場に円買い介入観測 日銀当座預金残高1兆円下振れ(日経:2022年10月14日)
- 政府、13日に円買い覆面介入? 日銀統計で市場に観測(東京新聞:2022年10月17日)
差分を見ており減少額が2兆9000億円になると思われていたが4兆900億円も減っていたために「10月13日に介入がありその資金として1兆円程度を使ったのではないか」と言われた。財務省が試行錯誤しつつ手法を研究しているのがわかる。
この後にまた覆面介入が起きるのだが次第にオペレーションと報道のパターンができてそれが踏襲されるようになる。
10月の大規模介入でも当座預金から資金が移動
21日と24日に目だった動きがあった。NHKは次のようにまとめる。
- まず、10月21日に再介入が行われた。ニューヨークでの「覆面介入」だったとされる。7円以上の価格変動があった。
- さらに週明けの24日の午前8時半ごろに4円ほどの値上がりがあった。ここでもまた介入が行われたものと思われる。
21日分の介入の規模推計
- 為替介入、5.5兆円規模(日経:2022年10月25日)
- 21日の円買い介入、過去最大級の5.4兆─5.5兆円か 市場参加者の推計(ロイター:2022年10月24日)
日銀が円資産を減らすと日銀から国庫に円が移動すると書かれている。詳しいことはわからないが「そういうものだ」と考えるしかない。決済は2営業日後に出るため「手の内」は数日のうちにわかるそうだ。ロイターも同じ内容の記事を書いている。
24日分の介入の規模推計
ということで24日分も同じ仕組みを使った介入だったようだ。無事に推計が出てきた。
- 24日に7000億─9000億円規模の円買い介入か、市場参加者の推計(ロイター:2022年10月25日)
パターンができれば投機筋がそれを読み解くのが簡単になる
神田財務官は「24時間体制で介入できるスキームを構築した」と胸を張る。神田さんとしては「いつでも介入できる」というメッセージを伝えたつもりなのだろうが、ある程度パターンが読めれば、それを利用して利益が出せるということになる。
- 介入有無は当面コメントせず、24時間365日の体制構築=神田財務官(ロイター:2022年10月24日)
おそらく今も試行錯誤しながらオペレーションは続けられているのだろう。現在のレートは147円台後半だった。今のところ防衛には成功しているようだ。