アメリカでは議会襲撃に関する1月6日委員会というものをやっていた。最終的な狙いはトランプ大統領(当時)が議会を襲撃したという結論を得ることだったようだが、ショーはおそらく「ラスボス」を迎える前に閉幕することになりそうだ。中間選挙後に民主党が議会主導権を失うことが予想されているからである。
日本では聞きなれない「召喚状」という言葉だが英語ではsubpoenaと呼ばれる。法的強制力を持っており裁判で訴えられる可能性が出てくる。つまりトランプ氏に法的強制力がある呼び出しがかかったことになる。だが不思議なことに「トランプ氏が応じる見込みはない」と分析するメディアが多い。
中間選挙のスケジュールが影響している。アメリカでは11月8日に中間選挙が行われるが共和党が下院で優位を獲得するのではないかと言われている。下院で共和党が優位になればおそらく1月6日委員会は解体されるだろう。共和党では「トランプ氏を吊し上げる目的だった」と理解されている。
このため召喚状の返信期限は11月4日ということになっている。つまり中間選挙直前のタイミングである。「召喚に応じなかった」という実績だけを作っておきたいのだ。
こうした事情があり召喚状はまるで裁判の判決文のようになっている。証言を聞くまで結論は出せないはずだが「状況証拠」は固まっておりほぼ有罪であるというのが1月6日委員会の結論なのだろう。BBCは次のように翻訳している。
今回の特別委の召喚状はトランプ氏に対して、「アメリカの大統領が選挙結果を覆そうとしたのは初めてで、かつほかに例はなく、あなたがその中心にいた」として、「この活動が違法で違憲だと、あなたは承知していた」と批判している。
米下院特別委員会、トランプ氏に召喚状 議会襲撃について証言要求
今回の委員会には二人の共和党議員が参加している。一人はトランプ氏に対立候補を擁立され立候補ができなくなりもう一人はそもそも出馬するつもりがなかったようだ。つまり、共和党からの参加者が議会に戻ってくることはない。
アメリカの議会襲撃は「民主主義国家アメリカでもこんなことが起こるのか」と世界的に大きな衝撃を与えた。だが、その後も劇場型の政治は続けられ委員会は選挙キャンペーンに利用された。本来ならなぜこのようなことが起こったのかを静かに議論すべきだったのだろうが、それは実現しなかった。
ただ民主党にとっては環境があまりにも悪すぎたと言えるかもしれない。平時であればこうした劇場型の政治が人々を熱狂させていた可能性も否定はできない。歴史的に見れば暴挙であることは間違いがないからだ。だが経済を立て直せない中で劇場型政治だけを行えば、人の目を逸らすために騒いでいるだけに見られる可能性の方が高い。民主党は戦う相手を間違えたと言えるだろう。
ではアメリカの経済はどれくらい悪いのか。
アメリカではリセッション入りが確実だとされている。Bloombergという媒体の政治的立ち位置もあるのだろうが、中間選挙を前に「1年以内の米リセッション、確率は100%-ブルームバーグ予測モデル」という記事をリリースしている。
- 向こう1年間のリセッション確率は100%
- 11カ月以内の確率は73%(前回分析の30%から上昇)
- 10カ月以内の確率は25%(前回分析の0%から上昇)
仮にこれがアメリカ国民の実感と合致していなければ選挙動向には影響を与えないのだろうが、実際に民主党への逆風となっているところを見るとおそらく不景気の到来を予測している人が多いものと思われる。
当たり前のことだが議会がやるべきだったのは政敵を吊し上げることではなく実効性のある経済対策を一つでも多く実現させることだったのである。ただ共和党が有利になってもおそらく対立構造は続くため攻守ところを変えて同じようなことがあと二年繰り返されるのかもしれない。