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岸田政権の政府税調で「退職金課税を勤続年数にかかわらず一律化する」議論が浮上 その狙いについて考える

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Twitterで「退職金課税「勤続年数関係なく一律に」 政府税調で意見」という日経新聞の記事が話題になった。Twitterでは「岸田政権が続く限り何をされてもおかしくない」というような論調だ。単なる課税強化と判断したのだろう。

だが記事をよく読むとターゲットは退職金課税ではなく終身雇用制の解体と新しい産業への人材の移転である。つまり財務省・税調発信で終身雇用制の解体議論が始まったことになる。

退職金の課税強化どころか「退職金をなくせ」といっている人もいる。コロンビア大学伊藤隆敏教授だ。退職金を取り崩して賃金に回すと賃金上昇が見込める。正社員の既得権益崩しを狙う維新が喜びそうな提案だが、共産党の「内部留保の放出」にも合致する。一方で立憲民主・国民民主には都合が悪そうだ。

全体像が分からないためこれが直ちに国民的議論につながることはなさそうだ。岸田政権の問題は総合パッケージの出し方にある。今回は財務省発信だが「金融課税強化」との関係は不透明だ。また、経済産業省が何を考えているのかは見えてこない。

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Twitterの反応だけを見ると「政府税調で退職金課税強化議論:あなたの退職金が狙われている」というような煽った書き方がしたくなる。おそらく岸田政権は財務省の立場が強い内閣であり国民への負担強化が強まる公算も高く、つまりは課税強化につながる可能性は否定できない。

賛成・反対を決める前にまず記事を読む。

  • 「勤続20年を超えると1年あたりの控除額が増える。転職をためらう要因にもなりかねず……」と書かれているところから税調としては終身雇用制度を破壊しようとしているようだ。つまり勤続年数による優遇を無くそうとしている。これが「課税強化」にも見えるが「労働移転を促そうとしている」とも理解されうる要因だ。
  • 「生産性が高い分野に資本や人が移動しやすくなる税制にすべきだ」とされているところから政府が生産性が低くなった今の企業から人を追い出そうとしていると見た方が良さそうだ。少なくとも日経新聞はそのような印象がつくコメントを抜き出している。
  • 「長期的な人生設計の前提となる制度の安定性というのは一定程度重要だ」とフォローされており大胆な変化が世間の反発を生むことも意識されている。おそらくバブル世代と呼ばれる世代は「今回も逃げ切りができる」公算が強い。

政府税調で議論が始まったばかりであり素案にもなっていない。つまりこれで賛成・反対を決めるのはまだ早い。岸田政権になってから投資に対する課税強化、マイナンバーによる所得や貯蓄の把握などといった話が五月雨(さみだれ)式にでている。だから「税収に行き詰まった岸田政権が国民負担を強めようとしているのだろう」という疑念はどうしても拭えない。

ではこれは悪い話なのだろうか。これとは全く別のところで「なぜ日本は“安い国”に? コロンビア大学伊藤隆敏教授インタビュー【モーサテ】(2022年10月17日)」というYouTubeビデオを見つけた。退職金の議論だ。

実際の議論はYouTubeを見ていただくのが早いと思う。伊藤教授は終身雇用制のために賃金体系が硬直していると言っている。これを解消するための一つの案として「税制を変えて退職金優遇を取りやめるべきだ」と言っている。政府税調と同じようなことを言っているのである。

  • 退職金リザーブ(内部留保の一部)を今の賃金に回せば賃金上昇が見込める

というのが伊藤教授の提案である。つまり将来生産性が低くなった人に過大な給料を払うことをやめて今生産性が高い人に回せという提案だ。

もちろん維新のように「正社員の既得権益をなくせ」といっている政党とっては賛成しやすい提案なのだが、実は共産党の主張とも合致してしまう。共産党は今回の円安議論で「まず賃金を上昇させれば円安がおさまる」と言う不思議な提案をしている。おそらく議論にはあまり関心がなくとにかく「賃金上昇」と主張したいのだろう。

共産党はおそらく経営者が不当に利益を得ていると考えているのだろうが、将来の退職金支払いの原資をいつまでも抱えていられないという企業も多いはずだ。不思議なことに退職金をなくせば企業の都合と共産党の要求が合致する。

おそらく共産党が此の提案に乗ることはないだろう。

  • 退職金は減る
  • 給料は人によっては増えるかもしれない

という提案だからだ。不確実な成果よりも確実な損に目が向くことになるはずである。結局は企業や政府に対する信頼の問題になってしまうのだ。

ただ、少なくとも立憲民主党や国民民主党などにとっては極めて厳しい政策転換になりそうだ。結局のところスキルを蓄えて次の就職先を探せる人たちが有利な制度だ。企業によっては単に退職金を削り給料も上げないというところが出てくるだろう。優秀な人材は去り「とにかくことを荒立てないようにじっと耐えていよう」という人たちは「単に退職金がもらえないだけ」ということになる。仮に税調で議論されているようなことがそのまま実施されれば既得権に守られてきた大きな労働組合はかなり厳しい状況に置かれるはずである。政党存続の危機になるだろう。

いずれにせよ、総合政策が出ないまま五月雨式に個別の情報が流れてくる今のやり方では改革は進まないだろう。一人ひとりの国民にとって何が得で何が損かがよくわからないし、どう動けば給料が増えるのかもよくわからないからだ。そこに「確実に退職金が減る」という打ち出しがなされれば反対する人が増えるのは当然である。

いよいよ自分の考えで行動できる人や努力して頑張る人が優遇される制度ができるのかなという期待もあるのだが、岸田政権は「各所からのお願いをまとめる」という色彩の強い「聞く力内閣」だ。各所の希望を聞いているだけでは大胆方向転換は難しいのかもしれない。

今後、此の議論がどう展開されるのか、またどのような議論と一緒に展開するのかに注目が集まる。

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