ついにトラス政権が崩壊した。辞任表明までの期間は45日で「最短」とされるそうだ。31日に中期財政計画が発表されることになっており取りまとめをやっているハント財務大臣は党首選には立候補しない予定だ。
現在、スナク氏、モーダント氏が後任候補とされているが、ジョンソン前首相も立候補に前向きな姿勢だ。ハント財務大臣の取りまとめで金融市場は一定の落ち着きを取り戻しているが、政治的には不安定な状態が続いている。次の首相とハント氏のの相性はまだわからないからである。次の首相は28日までに選出される。つまり今回は保守党員による選挙は行われない。
イギリスの内閣では混乱が続いていた。クワーテング財務大臣に続いてブレイバーマン内務大臣が辞任した。表向きの理由はスマホから政府文書を送ったこととなっているが、実際にはトラス首相を批判したことが問題になったと考えられている。「ハント財務大臣が指示をした」などと書き立てるメディアもある。つまり指示系統が混乱し内閣が内側から崩壊するという前代未聞の状態になっていた。
なぜ今回ブレイバーマン氏の辞任がトラス氏の辞任につながったのか。イギリスでは辞任する大臣が手紙を書くことになっているが中身が強烈だった。「公式文書の扱い」は軽微な形式的なもの(技術的なと表現されている)だが「間違いは間違いだから潔く認める」といっている。その上で「あなたはマニフェストを撤回したがまだ首相の地位に留まっている」と当てこすっている。
後任のシャップス内務大臣はさらに強烈だった。BBCは次のように書いている。内務省に着くとシャップス紙は内務大臣として働くのは光栄なことであると表明しジェレミー・ハント財務大臣の仕事ぶりを称えた。だが、首相についての言及はなかったそうだ。
この時点で「保守党内部で混乱が起きておりトラス政権はもう長くないだろう」と言われていた。
トラス氏は議会からも総攻撃を受けていた。議会では「私は戦士(a figher)であり負け犬ではない(a quitter)」と強がっていた。BBCはa quitterを「根性なし」と訳している。簡単に諦めるとか途中で投げ出すというような意味があるようだ。だが一夜でトラス氏はa quitterとなった。チャールズ3世国王に辞任を伝える最初の首相となったが、国民への挨拶はそっけないものだった。
首相の政策変更でここまで混乱するのかという気もするのだが、金融市場との関係は正常化しつつある。つまり民主主義の仕組みがうまく機能したということができそうだ。おそらく財政計画はハント氏の元でまとまりつつある。政党内にバックアップがあり一つの政策が失敗しても次が準備されている。
穿った見方をすれば「安易な減税がどんな結果を招くかよくわかったでしょう?」と国民に示した形になる。
ただし財政再建派の意見がそのまま通るかどうかはわからない。ジョンソン氏が立候補を計画しているからだ。順当にスナク氏が選ばれれば話はスムーズだが「ジョンソン復帰」となれば、ハント氏がまとめた計画に横槍が入りかねない。逆にジョンソン氏がポピュリストを演じつつ国民負担を増やす提案が裏で粛々と進行されるということになる可能性もある。ジョンソン氏には熱烈な支持者もいるがかなり根強いアンチ感情もあるようである。
BBCが速報を次々と情報を出しているが、ジョンソン氏はカリブ海で休暇を満喫中で、ブックメーカーたちの間ではスナク氏の「株が急騰」しているそうだ。また党首選に出るには100人の議員の支持が必要なのだそうである。ジョンソン氏が100名集められるかはまだよくわかっていないようだ。
日本にいるとあまり情報が伝わってこないのだが「国民の半数が食事を減らしている」という調査もあるそうだ。AFPが伝えている。国民は「燃料費補助」がいつまで続くのか、政府は約束を守ってくれるのかと疑問視している。
首相には議会を解散する選択肢もあるが今は最悪のタイミングだ。おそらく議会解散はないものと思われる。だが野党は「即時総選挙」を要求している。前回の首相は限られた保守党員の「間違った判断」で選ばれ結果的に国を混乱させた。今回は保守党員の選挙すら行われないため「保守党議員だけで決めたリーダーには従えない」という声は当然大きくなりそうである。
イギリスの政治は議会制民主主義のせいで大混乱しているともいえるが、この程度のことでは国が潰れることはないという言い方もできる。つまり、イギリス国内で暴動が起きたという話はない。マスコミ報道は加熱しているがある意味「静かに」推移を見守っている。