ドイツが脱原発政策を転換 ー リベラルな緑の党には逆風

ドイツのショルツ首相が国内に残る原発3基の稼働時期延期を決めた。とりあえずの延長期限は4月15日になっており「当座冬を乗り切るため」の苦渋の選択だ。だがこれでも「年内で原発を停止する」と決めていたため大転換と見られている。

閣内には脱原発で党勢を拡大したリベラルな緑の党がいる。緑の党はあくまでも「暫定的な措置である」と強調しているが、エネルギーの調達先が見つからなければ今後も同じような状態が続くことが考えられる。

脱原発・環境推進派の緑の党が今後もドイツで存続できるかという意味では正念場と言えるのかもしれない。






ドイツが「とりあえず春までは原発を温存」と政策を変更

脱原発に乗り出した原因は福島の事故だったそうだ。惨状を目の当たりにしたドイツでは「一度事故が起こると取り返しがつかなくなる」という衝撃が広がり脱原発に一気に舵を切った。

2011年から10年以上かけてようやく漕ぎ着けた脱原発だったがここにきて急展開することになった。政策転換の背景にあるのはやはりロシアのウクライナ侵攻である。ドイツはロシアからのガス供給を遮断されておりエネルギー調達は危機的な状態だ。ノルウェーやオランダからの天然ガスに加えてアメリカやカタールからのLNGを買っているが、これでもまだ足りなかったとことになる。

ドイツでは盛んにガスの節約が呼びかけられている。ロイターはこう書いている。まさに緊急事態なのだ。

  • 連邦ネットワーク庁のクラウス・ミューラー長官はロイターに「一般家庭、企業、産業界で少なくとも20%節約しなければ、この冬のガス緊急事態回避が難しくなる」と語った。
  • ドイツは、ロシアからのガス供給減少を受け、ガスに関する3段階の緊急計画で第2段階の警戒段階にある。

だが、ウクライナの戦争が終わらなければ状況はさらに悪化するかもしれない。Newsweekにおいて木村正人さんは「解くのが極めて難しい連立方程式」と言っている。

「緑の党が閣内に入っている左派政権のために意思決定が遅れた」と見ることもできそうだが逆に中道・右派系の政権で緑の党が閣外から反対していれば反対運動が盛り上がっていた可能性もある。つまり、責任ある立場に閉じ込められていたために却って意思決定が早かったということができるのかもしれない。緑の党は今後議会活動を通して脱原発を訴えるものと見られるが「議員団と協議する」とも言っており今後の政権の枠組みに影響があるかもしれない。

緑の党のレムケ環境大臣は「脱原発政策は維持される」と改めて宣言した。脱原発政策で党勢を拡大した歴史があるため、原発政策に関する妥協はおそらく緑の党にとってはかなりの打撃になるのだろう。記事を読む限り緑の党は「3基のうち1基だけでも廃止する」という政治的成果を残そうとしたがショルツ首相に押し切られたようだ。成果を得られなかった緑の党は「あくまでも暫定的な措置であり基本方針は変わらない」としている。

左派リベラルの妥協は村山政権で自衛隊を容認した社会党のような印象を持つ。日本ではこの妥協が社会党の実質的な解体につながった。冒頭のロイターの記事によると閣内にいるハーベック経済気候相はコメントを拒否し、緑の党指導部議員団と対応を協議すると言っている。今後しばらくは緊張が続きそうである。

イギリスでは年間の世帯あたりエネルギーコストが70万円を超えるという予想も

エネルギー価格の急騰に怯えるのはドイツだけではない。イギリスでも混乱は起きている。実際に何が起きるのかはよくわかっておらず最新記事はまだ日本語化されていなかった。BBCによるとイギリスは政府はエネルギー価格(電気とガス)の上限を年間2500ポンドに定めている。だがこの補償は2023年4月に切れてしまう。この支援がなくなると年間の光熱費は4347ポンドに値上がりする可能性があるそうだ。今後の対策はこれから話し合われるためイギリスの家庭は政治の動向に注目している。

2500ポンドというと日本円で40万円以上になる。4347ポンドは73万円程度だ。月にならすと6万円程度だがもちろん冬の方が支出額は多くなる。

そんな中でイギリスではトラス首相のUターンと呼ばれる政治的惨事が起きた。トラス首相の約束していた減税はなくなりエネルギー料金負担支援も縮小したためトラス首相の不支持率は77%になっている。混乱は今も収まっておらず最新情報ではハント財務大臣が「指示」を出して内務大臣を更迭したという話まで出ているようだ。つまり誰が最終的な意思決定をしているのかが全くわからなくなっている。

背景にある産油国との感情的な軋轢

せめてOPEC+の産油国が西側先進国に協力的でいてくれればいいのだが減産の方向だ。高い時に売っておきたいという気持ちがあるのだろう。これだけを聞くと先進国の弱みに付け入ったひどい措置のように思える。

だが実は石油価格は近年下落していた。2014年から2015年にかけては66%もの暴落があった。アメリカでシェールオイルの採掘が盛んになったためアメリカで石油在庫がダブついたと言われているそうだ。サウジアラビアの石油採掘コストはシェールオイルよりも安いためサウジアラビアはこの低価格を容認した。比較的採掘コストが高いロシアは石油が売れなくなりクリミア半島問題の「経済制裁」としても機能していたとされている。

さらに近年では新型コロナの封じ込めのために経済が減速し原油価格が低迷していた。この環境が大きく変わったのがウクライナの戦争だった。ロシア産の石油が西側に回らなくなり一時急落していた石油価格が急騰し乱高下といわれた。

アメリカはサウジアラビアに対して減産をしないように圧力かけていたようだ。中間選挙を目前にして「今、石油価格が上がることは好ましくない」と考えているのかもしれない。バイデン大統領の遠慮のない物言いもありサウジアラビアが態度を硬化させ「バイデン大統領のメンツを潰す」形で減産が表明された。

バイデン大統領はこのところアイスクリームを食べながら「ドル高は他の国の経済政策がうまくいっていないからだ」と主張している。アメリカの調子がいい時にはこのような態度でも「強い国の豪胆な大統領だ」と高評価される。バイデン氏の対応も「アイスクリームを食べながらフランクに記者たちに応対する」と見られただろう。だが、バイデン大統領は国内のインフレ対策もうまくできていない。そうなると「時代感覚のない傲慢で危ない失言お爺さんだ」ということになってしまう。

バイデン政権はOPEC+に対しても「ロシアに味方をするために政治的に減産を決めたのだろう」と言いがかりとしか言えないような主張をしていた。バイデン大統領は就任以降問題を解決せずどちらかと言えば問題を作り出す側に回っている印象だ。

サウジアラビアが態度を硬化させるとサリバン補佐官は「武器の輸出について考えなおす」などと仄めかしていた。これまでであれば効果的だったのかもしれないが、これが効かなくなっている。

一見すると戦争によって自動的にエネルギー価格が値上がりしているという印象を持つ。だが背景を調べてゆくと、これまでエネルギー供給で世界経済を支えてきた産油国が不当に評価されているという不満を持っていることがわかる。

これまで中国の事情を見てきたのだが、グローバル化の巻き戻しは産油国との間にも広がっているようだ。冷戦構造の崩壊後世界が構築してきたものが一気に崩れようとしており、それが日本を含む西側先進国の家計にも直接的な影響を与えているようだ。

日本も経常収支がギリギリ黒字というところまで追い込まれているが、燃料価格の高騰が続け貿易収支が悪化しさらに円安に触れるかもしれない。これが財政上の懸念材料になればおそらく円の価格はさらに下がるだろう。原油価格は日本の財政や経済の将来にとってもかなり重要なファクターになりつつある。

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