米中デカップリングについて調べていたところ日経新聞に面白い記事があった。進む円安、細る外国労働力 ドル建て賃金4割減だ。これを読んで「日本の地方でも人件費が高騰する時代」が来るんだろうなと思った。仮に人件費が高騰しないとすると地方経済が消えることになりそうだ。ベトナムやフィリピンからの人材調達が難しくなりそうだと書かれている。
円安で外国人労働者が「調達」しにくくなっている。米ドル換算だと10年で4割減価したことになる。つまり外国人はドルベースで6割しか稼げなくなった。
ドルベースでなくベトナム・ドンベースでも減価が進んでいる。この2年で20%減価したそうだ。ベトナムの経済成長の影響でベトナム国内賃金も10%から20%も上昇している。
マイナビのヂョンマンホウン氏によるとベトナムはベトナム戦争の影響で海外に流れた同胞が多い。政府も国家間協定で労働者を海外に輸出していたがライセンスを民間に解放してからその流れが加速したそうだ。2022年現在ベトナムのGDPの6.4%が海外労働者からの送金になっており労働者の輸出はベトナムの主要産業だ。
このためベトナム政府にとって「労働者を良い条件で輸出する」ことは大きな政治課題だ。
ベトナムのダオ・ゴック・ズン労働・傷病軍人・社会事業相はハノイで中谷元首相補佐官と会談し「ベトナム人労働者の待遇改善」を求めたという記事があった。住民税と所得税を免除してほしいと要求したようだ。送り出し国として「技能実習生の受け入れ業種を増やしてほしい」とも要請している。
ベトナムのダオ・ゴック・ズン労働・傷病軍人・社会事業相は日本を訪れたときにも同じ話を加藤厚生郎大臣にしたようだ。窪田順生氏によるとSNSでは反発する声が溢れたと書かれている。いつもの窪田調なので「SNSで話題になった」という話は割り引いて考えた方がいいのだろうが当たらずとも遠からずという側面はありそうだ。
このダイヤモンド・オンラインの記事は「日本のブラック労働」がベトナム人労働者に依存してしまっている実態について指摘している。ベトナム政府はブラック労働には目を瞑る代わりに「有利な条件」で労働者を売り出そうとしていることになる。窪田順生氏の見立てによるとベトナム政府は労働者を「ブラック労働に売って」いて日本政府は麻薬のようなこの取引に応じてしまっているということだ。
ただし現在はSNS時代だ。日本に問題があることが伝わればすぐにSNSでベトナム人に知られることになる。またベトナム政府も「もっと条件がいい国に自国の労働者を売り込もう」という気になるはずだ。記事は韓国やオーストラリアがその候補になっていると伝える。
日本人が英語を苦手とすることも問題になっている。フィリピン人は英語が使えるオーストラリアなどを就職先として選ぶことが増えているようだ。賃金面での格差も縮まる。製造業ではまだ競争力があるが建設や看護などという「非成長産業」では差が縮まっているそうだ。
もともと日本に対する送り出し国の代表格は中国だったのだが、中国の経済成長が進んだことでベトナムシフトの流れが生じた。このベトナムもいよいよ送り出し国を卒業しそうだ。すると近い将来ベトナムからの人の流れは止まることになる。低賃金労働者に慣らされていた地方の医療福祉やサービス分野は大きな打撃を受けることになるだろう。
海外労働者に日本を選択してもらうためには、住民税や所得税を優遇し日本人が英語を覚える努力が必要だ。だがおそらく日本人の意識はこのような変化には対応できないだろう。日本は豊かな先進国でありアジア人は進んで日本に来たがるはずだという認識はおそらくそう簡単には消えない。
となると次に労働者不足がどのように日本経済に作用するかを考えたほうが良さそうだ。仮にアメリカのようにコストが転嫁しやすい構造になっていれば割高の日本人労働力に依存することになるのだからインフレ要因になる。ところがコストが消費者に添加できないとビジネスそのものが消えることになる。特に政策的に賃金がコントロールされている医療・福祉分野では「人材調達ができない」ことはそのまま医療福祉崩壊につながるだろう。
前回はアメリカのインフレの影響としての中国ファクターについて勉強した。おそらくアメリカ国内ではこの問題はあまり意識されていないが「グローバル化の巻き戻し」が起こり国内労働力に依存するようになったことで人件費が一気に高騰した。おそらくグローバル化の反転がなくても中国の格安労働力を利用して国内価格を抑えるような政策は徐々に取りにくくなっていだだろう。
ところが、日本は少子高齢化が進んでおり政府にも民間にも余剰が少ない。こうなると単に人材が調達できないからサービスが維持できなくなったとして、地方から産業が消えてゆくのかもしれない。
ただし、今からそんなことを心配してもしかたががない気もする。日本政府はさまざまな政策課題を抱えており医療・福祉システムの持続可能性にも疑問符がついている。直近片づけるべき問題が多すぎて、とても近い将来のことなど考えている余裕はなさそうだ。
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