共同通信が「政府、13日に円買い覆面介入? 日銀統計で市場に観測」という記事を出している。日銀の発表した当座預金の残高が1兆円減っていることから「何かに使われたのではないか」と噂になったようだ。ロイターは「財政等要因で4兆0900億円の不足」と書いている。当初の予想は3兆円程度の不足だったことから「何か政府が緊急に使ったのでは?」と考えられいるようだ。「財政等要因」とは政府が税金などを貯めておく日銀の「普通預金口座」のようなもののようである。ここから1兆円ほど消えていることから「何か急に必要なことがあったのだろう」と言われているということになる。
この「覆面介入」があったと仮定してもその効果は限定的だった。この記事を書き始めた時点のドル円レートは「148.95」になっている。おそらく「1兆円使っても効果がありませんでした」などと言えば「政府にはこれ以上の対策はできないのだ」という不安が一気に広がるだろう。このため政府が介入について言及することもなさそうである。だが「おそらく多勢に無勢で効果はないのだろう」という見込みは強くなることだろう。
ただし政治はこの問題については全く無力と言って良い。
まず、日本の国会ではこの問題はほとんど話し合われることはなかった。立憲民主党は「統一教会問題を煽れば政権の支持率が下げられる」と期待をしているようで午後の予算委員会はほとんどこの問題にかかりきりだった。立憲民主党は参議院選挙前に「岸田インフレ」「黒田円安」というレッテル貼りはしているが特に対策は提示していない。ただ円安で暮らしが苦しくなるが岸田総理は国会を開かず対策を講じようとしなかったと主張するのみだ。勉強をして理解しようという意欲は無くなっているのだろう。
唯一黒田総裁に質問をしたのは自民党議員だったが「そのうち嵐は過ぎ去って再び低成長に戻る」との持論を展開して終わったようだ。おそらく自民党議員は反論をしなかったのだろう。ただしこれはいつもの黒田節でありマーケットに影響を与えることはなかった。専門的な勉強なしにこの問題について黒田総裁を追求し議論ができる人は国会にはいないのであろうということがわかる。黒田さんは「年末にかけて物価は上がるだろうが海外要因だ」と説明したようだ。つまり「国民生活は苦しくなるだろうが自分のせいではない」と考えており、国会は「ああそうですね」と引き下がったことになる。
一方でバイデン大統領はアイスクリームを片手に「今のドル高は他の国の政府のやり方がまずいからだ」と笑顔で記者たちに答えていた。ワイドショーでは盛んにこの映像が流れていたので「バイデンさんは感じ悪いなあ」という印象を持った人は多いのではないだろうか。ただバイデン大統領も国内インフレを抑えることはできていない。つまりアメリカにも「政策」はない。いずれにせよ為替問題でアメリカの協力は得られそうにない上にインフレが抑制される見込みもない。こうなるとあとはFRBが経済を「絞め殺す」のを待つことになる。暴れている経済がぐったりしてきたら目標達成という乱暴なやり方だ。
バイデン大統領は中間選挙で頭がいっぱいになっており国際協力にまでは気持ちが回らないだろう。ちなみにバイデン大統領はこの発言でトラス首相のことも批判している。イギリスではトラス降ろしが始まっていることからBBCはこの発言を受けてトラス批判を展開している。
トラス批判発言がイギリス国内のジャーナリズムを刺激したことから「バイデンさんが岸田批判を展開しなくてよかった」という気にはなる。バイデン大統領はドル高を肯定しているだけであって特定の国を名指しして政策批判しているわけではないが、仮に岸田批判などが飛び出していれば国内は大騒ぎになっていただろう。政治的キャリアも終わりに差し掛かり怖いものがなくなったアメリカの大統領を抑えることができる人はそれほど多くないだろうが、その発言が世界経済に与える影響は大きそうだ。さらにバイデン大統領はサウジアラビアと交渉して原油価格を下げさせたりプーチン大統領と対峙して問題解決を図ったりすることもなさそうである。
149円は単なる通過点になるかもしれないという予想もある。2022年10月17日の「為替介入に伏兵 英国発「とばっちり」円安要因」という記事がある。イギリス政府と中央銀行の間の意思疎通ができていない。このため中央銀行が国債の買い入れを止めればイギリス国債の価格がさらに下落する可能性があるそうだ。途中のプロセスが省略されているためなぜイギリス国債の下落が「ドル高要因になるか」はわからないのだが記事はこのような結論になっている。
- イングランド銀行が英国債買い入れ停止となれば、英国債は再び投げ売られ、利回り急騰が米国債市場にも連鎖して、ドル高・円安がさらに進行する。
- 買い入れ継続の場合は、ドルが売り戻され一時的に円高に転じる場面も想定される。
つまりこれまではFRBの発表とアメリカの各種指標を見ていればある程度ドル円のトレンドがわかっていたのだが、今後しばらくはイギリス中央銀行の動きにも注目が集まる。これをコラムは「二元連立方程式が三元連立方程式に」と表現している。このコラムは149円を超えるだろうとは書いていない。イギリスの中央銀行の動向次第ではトレンドが反転する可能性があるからだ。
通貨防衛を戦争に例えると国会は全くこの問題には役に立っていない。「おそらく兵隊さんたちはきちんとやってくれているだろう」と願いたいところだが、本当にきちんとやってくれているかは誰にもわからない。だがドル円レートは我々一人ひとりの暮らしに大きな影響を与える。しばらくはそんな状況が続きそうだ。
記事を推敲している間についにドル円は149円の壁を突破した。ついに150円を伺うところまで来てしまったようだ。