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国際金融のトリレンマで日本の通貨政策は身動きが取れない

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ロイターが「コラム:「国際金融のトリレンマ」からみた円安、150円目指す動き濃厚=内田稔氏」と言う記事を出している。結論だけを書くと日本は為替の安定政策を放棄すべきだと言っている。つまり為替介入などせず今の円安水準を甘受せよということだ。

内田氏は

  • 為替相場の安定
  • 金融政策の独立性
  • 自由な資本移動

の三つは同時に実現しないためどれかを諦めろと言っている。

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「金融政策の独立性」とは政府から独立していると言う意味ではなく国際的な中央銀行の流れに従うか独自路線をとるかということを意味しているそうだ。具体的にはFRBに追従するかどうかということになりそうだ。日本は長年経済成長していないためアメリカとは条件が著しく違っている。つまりFRB追従政策にはあまり現実性がなさそうだ。また、黒田総裁ははっきりと「追従しない」と言い続けている。

さらに新興国のように資本移動に制限を加えると言う選択肢も取れそうにないと内田氏は主張する。

すると「結果的には為替の安定を放棄するしかない」のではないかと言うことになるようだ。要するに「金融を国際化してしまったのだからなるようにしかならない」という趣旨のコラムだ。

もちろん、世界のインフレが収束し金融緩和政策が終われば円安の条件の一つは崩れることになる。また原油価格が急落して日本の貿易赤字が解消する日が来るのかもしれない。こうなれば日本の円安にも出口が見える。

だが実際にはこれとは逆の動きが起きている。例はいくらでも探せるのだがここでは思いついた三つを挙げておきたい。

初動が大きく遅れたバイデン政権は物価の安定化に失敗した。原油価格を一時的に抑えることには成功したがようだが、依然コアCPIは40年ぶりの高い伸び率を示しているようだ。民主党にとっては大逆風だが結局インフレ抑制はできなかったことからバイデン政権にも今何が起きているのかがよくわかっていないと言うことになるだろう。民主党は中間選挙で負けるかもしれないがバイデン政権自体はあと2年続く。もちろん共和党政権になったからといって状況が改善する保証もない。

またOPECプラスの減産が先延ばしになっている。高いインフレにつながるためバイデン政権は是が非でもこれを阻止したい。一方でサウジアラビアは必要な措置であるとして譲らない。アメリカは「減産で石油価格が値上がりすればロシアに有利になる」などとサウジアラビアを非難しているがおそらく本音は石油価格の再上昇を抑えたいのだろう。いずれにせよOPECプラスは石油減産に向けて動いている。ヨーロッパでは冬を目前に深刻な危機が起きているが、燃料価格の高騰はしばらく続くことになりそうだ。日本の冬も厳しいものになるだろう。

別のエントリーで詳しく見たようにイギリスでは急激な財政政策の変更提案がパニックを引き起こした。やり方も悪かったのだろうが時期もあまり良くなかった。つまり今のような「嵐」の状態で下手に動くとさらに状況を悪化させることになると言うことが言えそうだ。日銀はアメリカの経済が安定している時にしか「出口」を目指せないため、おそらく日銀が金融政策を今すぐ変えるのは不可能だろう。

世界経済は嵐の中にあり、IMFも「今は動くな」と言う立場のようだ。これまでも日銀の政策を正当化し続けていたが「最近の市場の急変動によって超低金利やイールドカーブ・コントロール(YCC)政策を維持する必要性が高まったと述べた。」とロイターが紹介している。イギリスの事例なども見ると「今下手に動けば国際金融がさらに混乱しかねない」ということになりそうだ。IMFとしてもこれ以上混乱材料を増やして欲しくないのだろう。

こうなるとに日銀はしばらく動けないことになる。なぜこうなる前に出口を目指さなかったのかと言う気にはなるが「今それを言ってもどうにもならない」のかもしれない。おそらく円安を放置すれば地上波や新聞が大きく取り上げることになるだろう。すでに支持率が危険水域に入ったと言われる岸田政権には「丁寧な説明」が求められる。

今は動けませんが出口がどこにあるのかもよく分かりませんと説明し続けるしかない。

世界経済の冬」が本格的に来るのは2023年になるとIMFは予測している。つまり現在の状態はまだショーのほんのプレビューと言うことになる。

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