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トラス首相がクワーテング財務大臣を更迭し法人税減税案を撤回

イギリスで大きな動きがあった。トラス首相がクワーテング財務大臣を更迭し法人税減税案を撤回した。財務大臣を更迭し経済混乱の責任を取らせた形だが、当然メディアはトラス首相は辞任しないのかと追求している。保守党内からも交代論が出ているそうだ。トラス政権ができてからまだ1ヶ月しか経っていない。

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これまでの流れを簡単におさらいする。ジョンソン首相がパーティーゲートで退任を表明した。後任の党首候補はリズ・トラス氏とリシ・スナク氏だった。党内ではスナク氏の人気が高かったが庶民アピールに余念のないトラス氏は減税提案を掲げ保守党員の支持を獲得した。一方でスナク氏は「金持ち」と言う印象があり保守党員の人気は高くなかった。高級革靴などが「金持ちぶっている」などと揶揄されていた。

トラス氏はスナク氏が掲げていた法人税増税案に反対の立場だった。詳細は示さないものの「再び経済を成長させるために減税を行う」と主張していた。エリザベス2世女王崩御の服喪期間がありその間には何も起こらなかった。国葬が終わりクワーテング財務大臣がミニバジェットと呼ばれる提案をしたのをきっかけにパニックが起こり通貨ポンドの下落や国債の利率高騰などが起きていた。

一般の保守党員とロンドンの金融市場では大きく意見の相違があったようだ。減税を行いつつ経済成長によって減税分を賄うというトラス氏の提案は金融市場からは受け入れてもらえなかった。また、イギリス経済は高いインフレに見舞われおり中央銀行は経済を冷やす必要がある。中央銀行が経済を冷やそうとしているのに政府は景気を活性化させようとしている。中央銀行は終始戸惑い気味だった。

結果的にトラス首相は党首選キャンペーンでスナク氏への対抗策として主張していた「法人税を増税しない」という公約の撤回に追い込まれた。英首相、法人税減税を撤回 25%へ引き上げへとロイターが書いている。結局この点についてはリシ・スナク氏が正しかったことになる。

このように問題はトラス氏にあるのだからクワーテング財務大臣を更迭しても何の解決にもならない。案の定イギリスのメデイアは「なぜトラス氏が辞任しないのか」と迫ったようだ。トラス氏は質問を4問しか受け付けなかったためメディアは納得していないようだ。おそらくこれは金融市場の関係者にとっても同じことだろう。

クワーティング氏は国際会議から呼び戻されトラス氏の解任要求を受け入れた。在任期間はわずか38日だったそうだ。AFPによるとクワーテング氏に責任を取らせたことで反発が広がっており保守党の内部からも辞任論が出ているそうだ。

イギリスは長年続く低成長から抜け出そうとして大規模な法人減税を行おうとして金融市場を混乱させた。アメリカでは40年ぶりと言われるインフレが続いているが原因がよくわかっておらず抑制にはしばらく時間がかかりそうだ。イギリスも同じようにインフレに見舞われている。インフレを抑制するためには景気を冷やす必要がある。一方で法人税減税は企業の金回りをよくしようと言う政策であり両立は難しそうだ。つまり、まずはインフレを抑制しなければ成長戦略には移れないということになる。

さらにいえばイギリスが経済成長できなかったとすればそれは何らかの構造問題のはずである。EU離脱やスコットランド独立問題など枠組みの議論に明け暮れていたがおそらく構造改革の問題は先送りになっていたのだろう。つまり法人税を減税したら魔法のように経済が成長を始めるというようなことはなさそうだ。

現在は経済的には嵐の中にあり下手に動くとパニックになりかねない。全く動こうとしない日本と下手に動いてパニックを起こしたイギリスでは大きく明暗が分かれた。

トラス首相がなぜ「法人税を減税すればイギリスの経済成長が再び始まり全ての問題は解決する」と思い込むようになったのかはよくわからない。だが、いずれにせよ彼女の考えは市場に否定されて終わることになった。

トラス氏は外相時代にロシアのラブロフ外相に引っかけ問題を出されたことがあった。ロストフとウォロネズ地域と言うロシアの地域とウクライナの区別がつかないままでラブロフ外相と対決していたのである。外務大臣時代のこの逸話は彼女の思い込みの強さを印象付ける。この時には「単なる勇み足」で済んでいたのだが、今回は首相として国を率いてゆく立場である。

トラス首相は自分の考えが間違いだったとは思っていないようだ。「難しいことだったが、私たちは嵐を乗り越える」と述べたそうだ。嵐を作り出しているのはトラス氏自身かもしれないが彼女は「私はどんな逆境も乗り越えてみせる」とドラマの主人公のように決意を新たにしたようである。

こう言う人が一番危ない気がする。問題は彼女を諌める「長老」と言えるような重鎮がイギリス保守党にいないということなのかもしれない。

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