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ロシアが「日米のハイマース訓練に抗議」なのだが実際には発射訓練は実施されていなかったようだ

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【訂正】Twitter経由で国民保護法が制定されたのは2004年という指摘をいただいた。ポータルサイトには平成16年の通常国会で成立した「国民保護法」というセクションがある。お詫びして訂正する。


ロシア外務省が日本に抗議したというニュースを見かけた。北方領土付近でハイマースの訓練を実施したというのが理由である。テレビでよく見るあのハイマースが日本にもあるんだなと思った。だが「ハイマース」で検索すると意外なニュースが検索できる。弾薬が三沢から届かずに発射訓練が行われていなかったというのだ。一体何がどうなっているのだろう?

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ロシア外務省がハイマース訓練に抗議したと言う記事は時事通信ロイターが伝えている。訓練が行われたのは陸上自衛隊矢臼別演習場という場所だそうだ。北海道東部なので「北方領土に近い」と言えば確かに近い場所ではある。「この訓練はロシアを敵視している」というのがロシア側の抗議の理由らしい。

ロシアはクリミア橋を攻撃されたという理由で報復攻撃を行った。報復は民間人とインフラを狙い撃ちしており明らかな戦争犯罪と言える。まともな神経の国ならハイマースの訓練くらいはむしろやってもらわなければ困るという気分になる。

ところがこのアメリカの支援がどうも心もとない。

テレビ朝日が月曜日に「砲弾が三沢にあり北海道に届かなかったようだ」と密やかに伝えていた。つまり射撃訓練は行われていなかったようなのだ。このため陸上自衛隊の多連装ロケットの訓練だけが行われたという。ロイターはロシア側の「発射された」というクレームだけ伝えているのだが、実際には発射されていない可能性がある。

だが、実際には発射されたのかされていないのかはよくわからない。あまり大きなニュースにならなかったからである。

いずれにせよ日本側はハイマースを持っておらずアメリカから貸してもらうかアメリカに撃ってもらうしか方法がないようである。ハイマースの射程は300キロの1/4ということなのでだいたい75キロということになる。CNNの記事によるとアメリカは供与国にどこまで防衛させるかをかなり細かくコントロールする傾向にあるようだ。

北海道や北方領土のGoogleマップで調べてみるとよくわかるがこの75キロというのは北方領土に届くか届かないかという非常に微妙な距離だ。日本が仮に「もっと射程が長い武器を自前で作りたい」と言ってもアメリカが許可してくれない可能性もあるのかもしれない。

もう一つ気になったことがある。それはお値段だ。「実戦で使う場合は無料でどんどん撃ってくださいということにはならないんだろうなあ」と感じた。砲弾というのは札束を空に向かってバラ撒くようなものだ。デモンストレーションは「販促費」なのだろうが実戦のお会計がどのようなものになるのかは国会で追求してもらったほうが良さそうだ。

このニュースが大きく報道されることはなかったことから多くの人が「現在の戦争は所詮他人事」と思っていることもわかる。戦争当事国が頑張っているとか負けていると言うニュースに熱狂する人は多いが「自分の身に降りかかってきたらどうしよう」と考える人は皆無だ。

例えば、Jアラートがなってもどうしていいかわからないと言う人が多いはずだし、調べてみようなどと考える人もいないだろう。

実は内閣官房に「国民保護ポータルサイト」というものが作られている。2017年の国難解散で整備されたと思っていたが、実際に作られたのは2004年だそうだ。ポータルサイトにその旨の記述がある。検索すると消防白書の中にアメリカの同時多発テロについての記述があることから当初は北朝鮮というよりも「テロとの戦い」などが念頭にあったのかもしれない。ニューヨークの高いビルに飛行機が突っ込んだというニュースに衝撃を覚え「日本でも同じことが起きたらどうしよう」と考えた人は多そうだ。と同時に法律ができてから20年近く大きな事件が起きていないということがわかる。

Wikipediaのまとめによると北朝鮮は1998年にテポドンを発射している。だが、核実験が行われたのが2006年ごろからだそうである。その後「衛星打ち上げ」などを繰り返していたが2017年ごろからミサイルと発射実験という目的を隠さなくなったようだ。BBCの2017年の記事にはもう少し詳しい状況が載っている。古くから国策としてミサイル開発をおこなっており2017年にミサイル発射実験を公言するようなったときにはすでに「北朝鮮は現在、さまざまな性能のミサイルを合わせて1000発以上保有していると考えられる。」と書かれるまでになっていたようだ。

北朝鮮は着々と準備を進めるが、日本側の意識は2001年の同時多発テロの時からあまり変わっていないようだ。このような事情を改めて知ると「今さら慌ててももう遅い」といえるのかもしれない。

地方自治体には危機管理の部署を設けているところもある。災害避難訓練に加えてミサイル防衛などの「国民保護」を担当しているようである。

実際に市役所などに問い合わせてみるとこの国民保護計画は全く共有されていないことがよくわかる。存在を知らない人もいるし「一応あるにはあるのですが……」とおずおずと出してくる人もいる。

大抵国のガイドラインをそのままコピペしたウェブサイトが準備されており「一時避難場所」が準備されている。だが「こんなところまですぐに避難できない」というような地域の偏りがある。東京や大阪など地下鉄網がない都市には都心にしか大規模な地下構造物がない。このため国民保護計画を見ても「自分で頑丈な建物を探して避難しれくれ」とか「物陰に身を隠そう」くらいのことしか書かれていない。おそらく実際にミサイルが飛んできても何の役にも立たないだろう。

NATOはかなり具体的な検討が始まっている。核兵器の使用はNATOに対するレッドラインとなっており「物理的な対応」が引き起こされるだろうと言っている。いよいよ核兵器の利用を実際の可能性として検討するところまで来ているようだ。

岸田総理の「相当の増額」はアメリカに対する口約束から始まった。その後「だったら2%がいい」などと額についての議論が先走っており過去の政策の実効性は検証されていない。このためいつまで経っても実効性のある提案が政府からは出てこない。

岸田総理に近いとされる岩屋毅元防衛大臣は「数字ありきの議論はいかがなものか」と苦言を呈している。財政規律を回復したい財務省とこの機会にとれるだけとっておきたい防衛省の間に綱引きがあるのだろう。

そんななかまた北朝鮮が夜間にミサイルを飛ばしてきた。そのつど防衛大臣が夜中に会見を開き「今分析中です」とか「北朝鮮に抗議しました」と記者たちに説明することになる。変則軌道で飛んでいるものはあらかじめどこに着弾するかは予測できないのだから、おそらく現在の装置では迎撃をするのは難しそうである。金正恩氏 戦術核運用部隊の長距離巡航ミサイル発射を指導=北朝鮮メディアと聯合ニュースが伝えている。現実感は薄いが確実に危険性は高まっているようだ。

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