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「紙の健康保険証廃止計画」が突然浮上したわけ

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TBSが独自として健康保険証の原則廃止を伝えた。今後はマイナンバーカードが原則となるという。日経新聞NHKが後追いしており既定路線と言えそうだ。今回の発表形式には少し違和感があった。伝統的な読売新聞や産経新聞の独自ではなくTBSが使われたからだ。よく言えば突破型で課題解決を前に進めるための発表とも言えるし悪くみれば「また混乱するだろう」という予測もできる。岸田政権の「学級崩壊」の一環のように見える。

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TBSは10月11日のお昼過ぎに記事を出しており「明後日発表だ」と言っている。木曜日の発表ということになる。NHKは確認をとり夜の10時前に記事を書いている。日経新聞も記事を出したのが夜の11時過ぎだ。NHKの記事をもとに情報をまとめると次のようになる。

  • 現在の申請数は7064万枚余りで全国民の56%が持っている。
  • 政府は2024年秋頃をめどに原則として紙の保険証を廃止する。
  • 政府はマイナポイント事業をさらに加速させたいため「原則紙の廃止」という方針を打ち出したい。
  • 今後マイナンバーカードを取得していない人や対応医療機関をどのように増やすのかを考える。

「対策をこれから考える」とは何とも心もとないのだがTBSの報道はさらに意欲的だ。政府は2024年までに在留カードや運転免許証との一体化を目指しているという。誰か極めて野心的な人がトップダウンで発表しなければここまでの「計画」は書けないだろう。

今回はNHKや読売新聞ではなくTBSが独自をさらっていった。このことから情報ソースが官邸ではなかったのだろうと思える。ちなみにマイナンバーカードは総務省管轄だがマイナンバー制度そのものはデジタル庁が管轄しているようだ。日テレの報道によると「発表は河野デジタル担当大臣が行う」となっており「あらかじめ炎上上等」で「テレビ中心」に情報が撒かれた可能性がありそうだ。事前に盛り上がれば批判的な書き込みでもでニュースバリューは上がるからだ。

今回反発した人も実はのせられている可能性があるということだろう。

問題はいくつかある。マイナンバーカードは申請と受け取りのために地方自治体の窓口を訪れる必要がある。これが面倒だという。デイリー新潮は二つの障壁という記事を出している。受け取りにゆくのが面倒だという理由で廃棄されるカードもあるという。こうした利便性の問題は運用方法を工夫することで乗り越えることができるがこれは総務省の管轄だ。つまり今回情報を仕掛けた人たちが総務省と協力しなければ「やはり不便だ」というネガティブな印象が強化されかねない。

また強引なやり方は「使うことを強制されている」と感じる一部の人たちをさらに硬化させたようだ。Twitterをみると「政府から強制されるものは絶対につかいたくない」という人たちがいる。岸田総理は丁寧な説明をスローガンに掲げているが今回の突然の発表は「丁寧」とはかけ離れている。「マイナンバーカードを普及させるために健康保険証を人質にしている」というような感情的な文章が書かれてそれなりに読まれているようだ。

政府が強引なやり方を進めれば進めるほど「うまくいっていないんだな」という印象がつくのだが実はすでに運転免許証と同じくらいの枚数が出ている。運転免許証の発行枚数は8000程度であり発行枚数ベースで言うとそれほど変わりはないのだ。運転免許証を身分証明に出しても誰も驚かないがマイナンバーカードを使うと驚かれることがある。実は普及していないという印象が一人歩きしているに過ぎない。

もう一つの障壁は医療機関の協力姿勢だ。健康保険証をマイナンバーカードにしてしまうと医療機関で端末が必要になるのだが医療機関は「自分達が損になる」出費は一切したくない。そこでその端末導入を誰が負担するのか?ということになっているようだ。最初はマイナンバー保険証使用税だなどと言われたため「紙の保険証を持っている人が負担をする」という制度に変わった。だが小手先の調整に終始したために、1ヶ月前のクロステックの情報では「対応できていない医療機関は追加負担がないため最も格安」というおかしな状態になっているそうだ。

医師会は「政府」に協力するつもりはなさそうだ。「医療現場でも混乱が生じる可能性もある。しっかりと手当てをして頂きたい」と言っている。言い換えれば「自分達が持ち出してまで協力するつもりなどないからそれ相応の補填は考えているんだろうな」ということだ。ただ患者が混乱した時(保険証が手に入れられないなど)に対応を迫られるのは病院側なのだからこう言わざるを得ないのだろう。

今回誰が仕掛けたのかはわからないが、どうやらデジタル庁の方からいろいろな音が聞こえてくる。実は河野大臣には前科がある。コロナの要請者把握がうまく進まなかった時「活躍のチャンスだ」と考えた河野大臣が「私がシステムを作ります」と宣言した。見切り発車だったため全てのシステムを掌握できずシステムの分断がおき、現場では「システムハラスメント」と揶揄されたという。結局爆発的な感染者数増大に耐えられなくなりコロナの全数把握システムは運用が難しくなった。

医師会が協力できない理由はこの辺りにあるのかもしれない。現場を知らないままで「名前を売りたい」「改革姿勢をアピールしたい」という人が政府にいることが警戒されている。そして岸田総理はこの手の部下を管理できていない。

河野さんの「置き場所」は比較的軽いところが多い。情報発信力に期待しているがあまり中枢にインパクトを与えてもらっては困るという配慮なのだろう。だがこれはいろいろなプロジェクトに取り掛かっても最後まで責任を取らずに済むということになる。できるだけインパクトのある「改革」をやりたがるがシステムが運用され混乱する頃には異動になっている。

岸田総理に「私が最後まで面倒を見ます」と一言添えてほしいところなのだが、FRIDAYから「首相としての残り時間が見えてきたため息子に秘書官という肩書きを今与えておきたかったのだろう」などと書かれている。こちらもあまり期待はできそうにない。

結局、この話も「そういえばこんな騒動があったね」ということになりかねない。原則廃止は決めたものの例外規定が残り続けるという未来が想定できるからである。もはや「使いやすいシステムを」などと期待するつもりはない。「とにかく一度言い出したことはきちんとやり遂げてほしい」と祈るような気持ちになった。「鳴り物入りの発表」がどの程度大がかりなものになるのか注目が集まる。

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Comments

“「紙の健康保険証廃止計画」が突然浮上したわけ” への2件のフィードバック

  1. これは恐らく無理でしょう。ワクチンでも絶対打たない
    人が2割います。また給与金も受け取らない人が2割
    います。マイナカードはさらに反対が多く3割は拒否と
    予想されます。
    恐らく7割迄は行くと思いますがそれからが難しい。
    特に高齢者はマイナカードを嫌う者が多く、結局特別
    健康保険証を紙で出す事になると思います。

  2. 下村 博隆のアバター
    下村 博隆

    マイナンバーカードに対して反対ではない、しかしマイナンバーカードを統括しているOSの問題です。
    マイナンバーカード発足時のOSはウインドーズ8,1だったのではないか?
    現在はウインドーズ11になろうとしている、ウインドーズ8,1の企業に対してのサポートもそろそろ切れる頃ではないかな。
    ウインドーズ11に更新し、莫大な金額をマイクロソフト社に支払って、更新しても新たなウインドーズ?・・・発売されまたサポート切れと、何時まで経ってもきりがないウインドーズとのいたちごっこ。
    日本独自のOSの確立を行って、情報を抜かれない処置を行うのが先決だと思っています。
    現在のままでしたら、日本人の全ての人口の情報が駄々洩れになることは必定、故に現状のままでは反対です。

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