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2025年に法案提出予定の年金改革が「岸田政権の姑息なトリック」と批判される

これまでの政権批判といえばリベラルな野党勢力が政権交代を狙っているものが多かった。安倍政権はこれを逆手に取り「あんな人たち」が反抗しているなどという印象づけを行い支持率の維持に利用した。ところが岸田政権は様子が違う。マネーを扱っている人たちからの反発が大きいのだ。日本の財政がいよいよ行き詰まりを見せていることがわかるが、安全保障の議論とは違って誰かに損を押し付ける必要がある。マネーポストの「国民年金を厚生年金で穴埋め 岸田政権が進める「令和の年金大改悪」の姑息なトリック」もそんな記事の一つだ。年金改革でサラリーマンが損をすると言っている。

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マネーポストWEBが怒っている。国民年金の未納率が高まっているため厚生年金から流用することにした。これを「年金改悪」「姑息なトリック」「サラリーマンの年金で穴埋め」といっている。

ただしニュース自体は新しいものではない。また改革自体も2025年の通常国会での法改正を目指しているとされており、実際にどのような案が出てくるのかはまだわからない。足元では国債の売買が3日間成立しないという事態になっている。さらに、防衛費の構成も今とは大きく変わることが予想されるためおそらく2025年の財政は今とは大きく変わっているはずだ。

ニュース自体は既に日経新聞が9月28日に報じている。「国民年金「5万円台」維持へ 厚労省、厚生年金で穴埋め」というタイトルになっている。日経新聞は国民年金の信頼を守るための制度だが小手先であると批判している。こちらも日経の割には手厳しい評価だ。

国民年金は自営業者を念頭に置いている。つまり家業があるために6万円程度を補えばそれなりに収入が安定するということが前提になっている。しかしながら現在の想定では将来5万円を下回ることが予想されるため2024年末までに制度変更をまとめ2025年の通常国会でも法改正を目指しているそうだ。

厚生労働省は財源として厚生年金側のマクロ経済スライドの適用の終了を25年度以降に伸ばして帳尻を合わせようとしている。つまり今後も日本の経済は低成長を続けるであろうと予想していることになる。年金生活者は増えてゆくが物価も上がらず賃金も上昇しないという世界がこのまま続くといっているのである。また加入期間を40年から45年に伸ばす案も検討されているそうである。

マクロ経済スライドは「一度に減額すると国民が騒ぐ」から「徐々に首を絞めてゆこう」という名目で制度に織り込まれたということがよくわかる。2019年に既に「年金を減らす仕組み」と看破されていたが当時の首相は頑なに認めなかった。しかし論理的な説明もできないため野党の追求に対して「ひたすらに連呼する」という作戦で応じた。景気の動向に合わせると説明されていたが当時から厚生労働省は「どうせ日本の経済はそのまま沈んでゆくが自分達の制度だけは守らなければ」と考えていたことがわかるが実際にその予想は当たっている。

今回の話は国民年金側はこれ以上削れないので厚生労働省で削ってそれを国民年金に使おうというような話である。ステルス値上げでクッキーの量を減らしてきたがいよいよ誰も買ってくれなくなりそうだから別の製品を減らして穴埋めしようというような話だ。するとそれまで別の製品を買っていた人が「クッキーを買っている人のために自分が損をするのは嫌だ」と騒ぎ出す。メーカーは「損をするのは高級品を買っている一部の人である」と説明するが消費者は納得しない。いずれ自分達の製品も量を減らされるのでは?と憤っている。

そんな感じだ。

岸田総理は「所得倍増」や「分配」といった聞こえの良い言葉を繰り返し使っているが、実は足元の財政状況はかなり厳しくなっている。前代の「トリクルダウン」から始まって分配側の言葉は「検討」されたのち使われなくなる。一方で負担増の議論は粛々と進められている。この負担増の議論が各部門ごとに行われており一つの絵をつくらないまま五月雨式に降りてくるというのが岸田政権の特徴である。これは長年改革と実効性のある成長プランを放棄していた民主党を含む前政権の遺産であって岸田政権だけを非難するのは筋違いかもしれない。

日経新聞の記事の解説には「サラリーマンのための年金が国民年金に回されるというのは誤解である」という日経新聞の編集委員の指摘がある。損をするのは高額世帯(1790万円以上)だけであるといっている。だがそもそもどういう制度になるのかはよくわからないのだからこれも「現在の厚生労働省の説明では」という条件をつけなければならない。

マネーポストWEBは「トータルの年金財源が変わらないのに年金支給額が増えるはずがない」と疑っている。つまり日経新聞がいうこともわかるがそんなにうまい話などあるはずがないという主観的な分析だ。クッキーなら別の会社のものを買えばいいのだが国の制度はそうはゆかない。

いずれにせよ、今回の措置は一時的な穴埋めであり将来また国民年金の財源に不足が生じる可能性がある。結局「将来にわたって年金システムが安心」かどうかはわからないということになる。こうした漠然とした不安がある一方で「ではどうすれば年金財政が安定させられるか」という議論は聞こえてこない。前提になっている少子高齢化という現実が変わらないためだ。

Twitterはこの記事に反応し「年金が不安だ」「岸田政権は何をやっている」という声で持ちきりなのだが、では具体的にどう行動しようという提案は見られない。なんとなく「岸田政権は何もやっていない」という印象だけが残りじわじわと支持率が下がってゆくという状態が継続している。ただ対策を講じない限り少子高齢化も進む。茹でガエル的に状況が悪化する中で「犯人探し」が続いている。

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