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クリミア橋の爆破の原因は爆薬を積んだトラックではないとBBCが報道

クリミア橋が爆破された。プーチン大統領の側はトラックの爆破が原因になっておりそれはテロだといっている。そしてロシアはおそらくはこの分析に従って相手側を無差別に攻撃した。犠牲になるのは民間人であり従ってこれは通常の戦争の規範を大きく逸脱する。いわゆる「戦争法違反」である。だから、この一連の出来事は国際的に非難されてもしかるべきである。

ところがBBCが「いや待てよ」といっている。今回の爆発のきっかけはトラックではないといっているのである。この報道にはもう一つ重要な情報がある。今回事件を仕掛けた何者かが破壊しようとしているのは橋ではなく「信頼」かもしれないというのだ。信頼が崩れれば戦争の基礎となるプーチン体制が弱体化する。そして、プーチン体制の弱体化で得をする人たちは何も外だけにいるのではない。

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まず、BBCの報道は「しかし、映像を詳しく点検すると、このトラックは爆発と何の関係もないことがわかる。」と短く断定している。「可能性がある」ではなく断言しているところがポイントである。ただし何が爆発を引き起こしたのかについては書いていない。どうやら橋の下で爆発があったようだ。

すると狙われたのは貨物列車の方でトラックは巻き込まれただけということになる。たまたま火薬を積んでいただけということになるわけだ。自爆という線は消える。識者の中には「自軍が有利にもかかわらずわざわざ民間人を巻き込んだ自爆攻撃をやるだろうか」という指摘をする人もいた。これまで民間の犠牲は極力避けて「防衛」に徹していたというのだ。この見方には合理性がある。なりふり構わぬテロ攻撃に手を染めれば西側の支援が得られなくなる。西側は民主主義を守るためという大義がなければ支援を続けることはできない。

BBCが指摘するように「トラックが主因でない」とすればこれら一連の疑問が解消されるわけだ。ただし「火薬を積んだトラックが通りかかった」という「偶然」は残る。ロシア側はトラックの運転手がインターネットで爆薬を注文したという情報を流しており、時事通信がそれを伝えている。ただ独立系メディアの情報とは言えこれは単にロシア当局がそういっているだけだ。

BBCは無人ボートを疑っているようだがこれは誰でも操縦ができる、もちろん外からやってきた可能性もあるがロシア内部の誰かの犯行かもしれない。ロシアで「軍事作戦の不調を誰に押し付けるのか」という議論もあるようだ。つまり悪者として粛清される側にも動機はある。またオリガルヒの中にも戦争を継続したくない人たちがいる。彼らは表向きはプーチン大統領を非難できないため軍に矛先を向けている。だがお金で排除できるなら排除したいと考えるだろう。また「面従腹背」という人たちもいるかもしれない。表向きはプーチン大統領に従っているふりをしているが実はロシアを掌握したいと考えている人がいても不思議はない。さらに今は鎮圧されているがかつてはチェチェン独立派などの過激な人たちもいた。現在は「特別軍事作戦」で内部の治安維持は手薄になっているだろう。「容疑者」はいくらでも浮かぶ。

この「わからない」という点が実はポイントだ。だから誰も「自分達がやりました」という声明を出していない。こうすることによって「誰がやったのか」との疑心暗鬼を呼び込むことができる。

仮に実際に反乱が起きていなかったとしても、外から「実は内部に裏切り者がいるのではないか」と囁き続ければ大勢の内部に疑心暗鬼を呼び覚ますことができる。そして一旦疑心暗鬼が広がれば不確実な状況を内部に生み出すことになるだろう。諜報機関出身のプーチン大統領が諜報戦に絡め取られてしまうのだ。

つまり、実際に内部対立が起きている必要はなく潜在的な疑いに火をつけてやればいいのである。BBCはこれを「巧みな情報戦」といっている。

今の所地上波のテレビでは「トラックが爆破されプーチン大統領が報復を誓った」という線での報道を続けている。プーチン大統領と体制に疑心暗鬼を生じさせることが目的だとすると真相が伝えられることはなくしばらくの間は曖昧な情報が飛び交うことになるのかもしれない。

ただし残念なことに内部で混乱が続くとその攻撃が外に向かいかねないというのもまた事実だ。仮に今回の件が内部分裂の結果だったとすればキーウなどの一般市民の攻撃は単なる巻き添えだったことになってしまう。またザポリージャ(ザポロジェ)原発をターゲットにした攻撃も続いておりこちらも一歩ぱ違えれば大きな被害が生じかねない。

安保理の常任理事国が核を持って立てこもっているという状況には違いがないのだが現在の国連の体制ではこれを止めることができない。

いずれにせよ今回の件はかなり情報のアップデートが早く昨日までの常識がすぐに覆る。その度に構築してきたフレームワークを全て崩して一から作業し直すことになる。

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