政府が防衛費増額に向けて具体的な検討に入ったようだ。これまでの争点は「どれくらい増額されるか」だったのだが、今後は誰が負担するかと何を防衛費とみなすかに移りそうだ。懸念していた通り「構造について深く考えることなく各論に入ってゆきどんどん各論が迷走する」という日本独特の深みにハマっているようである。必要性については誰も否定しないが「進んで負担したい」という人はいない。
そもそもいつからこんな話が出てきたのかと考えて記事を漁ってみた。岸田首相「防衛費の相当な増額」伝える…対中国、日米同盟の抑止力強化で一致に答えが書かれている。日付は2022年5月23日で伝えた相手はバイデン大統領だった。バイデン大統領の気持ちを日本に引きつけてゆくためのジェスチャーが既成事実化してしまったことになる。「アメリカに約束してしまったから」と結論ありきになっている。国葬・国葬儀問題でもみられた岸田総理の「得意パターン」である。意外と話し合いをしないまま考えを口に出してしまうという傾向があるのだ。
現在も具体的な構想がまとまっていないところから、このときの岸田総理にはおそらく明確なプランがなかったことがわかる。仮に岸田総理が思慮深い総理大臣であれば発表と同時にプランが官邸から出てきていたことだろう。
具体的プランは出てこないが共産党にはアメリカへの約束ではなく日本の自主的な取り組みだと説明している。結果的に岸田総理が一人でボールを持って突っ走っているということになっているだから当然「切り取りたいように切り取る」人が大勢出てくることになる。
読売新聞は「防衛費の増額幅、骨太原案で明示せず…NATO並みGDP比2%なら総額11兆円に」と書いている。一方で東京新聞は「防衛費倍増に必要な「5兆円」教育や医療に向ければ何ができる? 自民提言受け考えた」と使い道を勝手に議論し始めた。考えるのは勝手だが財源が降ってきたわけではない。安倍元首相 “防衛費をGDPの2%に増額 骨太の方針に明記を”とNHKが伝えるように安倍元総理は2%を既定路線にしようと頑張っていた。
こうして結論ありきで「数字を埋める」という作業に関心が移ってゆく。7月には参議院選挙があったが具体策は出ず「一体岸田さんはどうするのだろうか?」という点にばかり関心が集まっていた。
石井幹事長は公明 石井幹事長 “防衛費増額の恒久財源確保へ増税も選択肢”と言っている。国債は使うべきではないという立場である。経団連は、防衛費増の財源、法人増税けん制 経団連会長というように法人税増税NGという立場を取る。こうなると残るのは所得税の値上げや消費税増税ということになるだろう。どちらもおそらく岸田政権が持たなくなる。
日本は政治にはあまり関心を持たない代わりに国民は負担もしないという「相互不可侵」で運営されている国家だ。そこで岸田総理が思いついた奇策が「統計の組み替え」だった。防衛費の定義を変えて比較ができなくすればいいのである。
防衛費、5年間で総額43~45兆円に 政府検討 22年度は5.4兆円と毎日新聞が伝えている。
厳しい財政状況を踏まえ、海上保安庁の予算や研究開発費など防衛省以外の省庁の予算も「防衛費」として計上し、防衛費の増額と国民の負担抑制を両立させることも選択肢とする。
防衛費、5年間で総額43~45兆円に 政府検討 22年度は5.4兆円
と書かれている。記事の最後の方は「恩給も防衛費に入れてはどうか」という意見があるそうだ。出したいのは山々だが出せないから「今までもこれは実は防衛だったんですよ」と集計の仕方を変えると言っているのだ。
議論が混乱するのは目に見えている。
よく考えてみるとこれは岸田総理のアメリカ大統領への発言が一人歩きし制御不能になったというだけの話だ。笑い話にしたいところだが、プーチン大統領は核の使用を仄めかし北朝鮮は日本を超えてグアムに届くようなミサイルを鋭意開発中である。北朝鮮 弾道ミサイル2発 EEZ外の日本海落下か SLBMの可能性もというニュースが夜中の2時にNHKから出ている。井野防衛副大臣は午前3時に記者の質問に答えることになった。
「日本がこれを阻止できない」レベルの話ではなく国連を中心とした集団の安全保障体制は壊れていて機能していない。そんな中、日本の安全保障はどうすべきなのかを議論した方がいいと思うのだが、国会で与野党を超えた議論をやりましょうという声は聞こえてこない。