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民間軍事会社 世界を混乱に陥れかねないプーチン大統領の危険な発明

日本で国鉄・電電公社・専売公社の民営化が政府効率化のためという理由で持て囃されたことがあった。この流れは郵政の民営化まで続き自民党の内紛の原因になっている。

最も巨大な産業である軍隊でこれをやったらどうなるのか? というのがプーチン大統領の発明だった。このプーチン大統領の発明は単なる失敗ではなく世界情勢を巻き込んだ大惨事に発展している。さらにこれを模倣する人たちが出て来ればさらに混乱は加速するだろう。今回はプーチン大統領が発明したワグネルとアフリカのお話である。

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プーチン大統領が高い支持率を獲得した理由にはいくつかあるのだがおそらく最も大きい要因が「ロシア国民を戦争から解放したこと」だった。それまで徴兵から成り立っていた素人の軍隊を改革し「プロ」による効率的な軍隊を作っていると考えられてきた。さらに国内テロの要因になっていたチェチェン紛争を解決したと思われていた。また「民間ができることは民間にやらせる」ことにもした。

ロシアから人が逃げ出すまではこれらは全て成功例とみなされてきた。一説には20万人の動員のために70万人が逃げ出したとも言われているそうだが多くの人が逃げ出したのはプーチン大統領の約束が嘘だったとわかったからである。

ただし国民が逃げ出してもプーチン大統領は今の暴走を止めるつもりはないようだ。

ロシアでは低出力核兵器を使うべきだと主張し自分の10代の子供を軍隊に送ると主張していたカディロフ首長が新しい上級大将に任じられたという。カディロフ首長は個人的に決定を知らされたと喜びをあらわにしているそうだ。プーチン大統領が主戦派のカディロフ首長を頼もしく思っていることは間違いなさそうだ。カディロフ氏はチェチェン紛争を終わらせた功労者だとされていたのだが実はチェチェン人がチェチェン人を弾圧するチェチェン紛争のチェチェン化を起こしただけだった。つまりスラブ系のロシア人たちから問題を隠蔽してきただけだったのである。

ロシア人の視界から戦争を消すというのがプーチン大統領の人気の秘密だった。その一環として発明されたのが民間軍事会社ワグネルだ。ロシア政府は公式には存在を認めていないことから「軍事を国民から隠す」狙いを持っているものと思われる。ワグネルが大きく注目されるようになったのは刑務所での徴兵活動だった。BBCが「ロシアの雇い兵組織「ワグネル」が刑務所で募集 動画が流出」でその様子を紹介しているが「恐ろしい犯罪者が兵士として野に放たれれば何をしでかすのだろう?」と誰もが感じるだろう。

ワグネルはロシア人の視界から戦争を隠しただけではない。主権国家体制である国連では軍事行動は主権国家が監視することになっている。だから民間が同じことをやってもそれを規制することは難しいのだ。民間なのだから「ニーズ」がなければ成立しないのだがこうした「ニーズ」がふんだんにある地域がある。それが欧米が撤退したアフリカである。

NHKがいくつかの記事を残している。「追跡!ロシアの“よう兵”たち 暗躍するアフリカで何が」は次のように伝える。

フランスがマリなどサブサハラ地域から撤退した。フランスは引き続きマリを支援しイスラム過激派との戦いを支援している。だが、民主主義が定着しないためフランスの継続的支援は難しそうだ。そこに入ってきたのがロシアである。この正体不明の「ロシアからやってきた軍隊」は戦時法など気にする様子もなく民間人も巻き添えにした掃討作戦を行なったようだ。

無秩序な戦争はやがて地域を滅ぼすと最初に気がついたのはヨーロッパ人だった。このことに気がついたヨーロッパでは主権国家体制が作られ戦争に関する一般的な取り決めが整備されてゆく。だがこの原則はロシアにまでは届かなかったようだ。

ソ連が成立するまでのロシアはヨーロッパの枠外にある「アジア型の」帝国だった。アジア型の帝国は力の均衡と帝国同士の相互不可侵から成り立っているが周辺地域では常に混乱が起きているという主権国家体制とは全く違った形態の世界だ。現在ユーラシアには、中国・インド・トルコ・イラン・ロシアという帝国への回帰を目指す勢力が現れてヨーロッパとアメリカが中心とする主権国家体制に反抗している。これがロシアや核ミサイルを整備する北朝鮮にとって追い風になっている。

NHKはまた「存在しない兵士」として軍事作戦に参加した元傭兵のインタビューをその名は「ワグネル」 ロシアの“謎のよう兵集団”とは?元メンバーが語るとして残している。

記事は民間軍事会社には三つの効果があると言っている。

  • 民間軍事会社が入ると責任の所在が曖昧にできる。あくまでも民間がやったこととなり政治が責任を問われない。
  • ロシア国民に被害を報告する必要はなく(あくまでも民間の会社の損出なので)ロシア国内の世論対策にもなる。
  • 見返りが期待できる。中央アフリカでは金鉱山の利権が与えられたとされている。

元傭兵は「ワグネルの成果主義ぶり」について「戦うためなら犠牲も厭わずになんでもやる組織だ」とその実態を告発する。

ワグネルが狙うのは中央アフリカの希少鉱物とマリの石油だ。こうした国々から直接戦争に必要な物資が送り込まれれば西側の経済制裁の効果も薄いものになってしまうだろう。さらに言えばこの地域の資源が収奪されれば西側の経済は大きく打撃を受けることになる。

西洋型のフランスが撤退しロシアが代わりに入り込むと何が起こるのかがわかる事例がある。それがブルキナファソである。ブルキナファソでは大統領が軍のクーデータで排除された。代わりに軍から押し上げられたのがダミバ大統領だったがダミバ大統領もトラオレ氏らの一部軍人に排除されてしまう。トラオレ氏はおそらくロシアの支援を受けている。ブルキナファソの国民は「ロシアはフランスと違ってイスラム過激派を追い払ってくれる」と期待を寄せているそうだ。ロシアの介入にはニーズがある。ブルキナファソの国民の期待は失望に変わる可能性が高いと思うのだがロシア人よりは抑え込むのが簡単なはずだ。国外退避難民の発生もアフリカでは日常茶飯事であり特に驚きをもって迎えられることはない。

現在の国連体制の機能不全は帝国に戻りたい中露とそれに賛同する地域大国の反乱と言って良い。それを陰で支える装置の一つが「民間軍事会社」だ。

常任理事国の一つが「存在しないはずの民間軍事会社」を利用し「存在しないはずの軍人」を使って民間人を巻き込んで地域紛争に参加するようになっている。内部の裏切りだから国連がそれを抑止することは難しい。主権国家が前提の国連はこうした事態を想定していない。

だから国際社会はこれを無視してきた。

これまではただ「こんなことは許されるべきではない」と言っていればよかった。帝国志向の国々の経済力はそれほど大きくなかったからだ。しかしながらここまで広がりを見せるようになると「許さない」「断固として抗議する」だけでは不十分なのかもしれない。

日本では「防衛費の相当な増額」が決まり、岸田総理はいまだに任期中に憲法を改正すると言っている。一体どんな前提で何を準備しようとしたのかはきちんと精査されなければならない。グランドデザインを作るためにはまず基礎になるコンセプトがきちんとしたものでなければならないからだ。基礎がしっかりしたものでなければ建物を立てても途中で傾くだけになるだろう。下手をすれば基礎工事をした段階で先に進めなくなってしまうかもしれない。

徹底的に状況を分析せずその場の雰囲気でフワッと何かを変えてみるようなことはやらないほうがいい。

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