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「あの時ちゃんとやっていれば」北朝鮮の弾道ミサイル日本上空通過でテレビは大騒ぎ

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朝方のニュースは大騒ぎだった。朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)が中距離弾道ミサイルを発射し日本の上空を越えたからだ。岸田政権は「情報の分析に努める」というのが精一杯だった。

バイデン大統領はなかなかステートメントを出さなかったが日本側から働きかけ25分の時間をもらったようだ。「日米同盟という保証書は切れていない」ということだけは確認ができた。

2017年にも同じ騒ぎがあった。この時は「国難」として総選挙が行われた。政権は支持率を伸ばすことには成功したが実効性のある対応は検討されなかった。今になって慌てても遅いのだが「あの時ちゃんとやっていれば」という気がする。北朝鮮の技術は進展しているため、このままでは核と大陸間弾道ミサイルを持つ「何をやるかよくわからない国」があるという現実を受け入れてゆくしかなさそうだ。

今後防衛費増強の議論が出てくるが税源の見通しは立っていない。経団連の十倉会長は「財源は国民全体が負担するものであって企業が負担するのはおかしい」と言っている。

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前回このようなエスカレートが行われたのは2017年だったそうである。ミサイルが日本を飛び越えたのは8月29日だった。

この後安倍総理は「北朝鮮に断固とした対応をとる」として国難突破解散を強行し勝利した。加計学園問題が炎上しており支持率は急落していたのだが「北朝鮮に断固とした対応をとる」と空気を変えることに成功したのだった。実際には「北朝鮮に断固とした対応がとれないのは野党がうるさいからだ」という主張だった。いうまでもないことだがこの総選挙が北朝鮮に何ら影響を与えることはなかった。この時に実効性のある対応を取っていれば現状は違っていた可能性はあるが日本は何もしなかった。

今回も松野官房長官が「あらゆる選択肢を排除しない」と言っている。だがおそらく「あらゆる選択肢」が検討されることはないだろう。2017年当時も北朝鮮に対してどのような選択肢を取るべきなのかが盛んに議論された。BBCの記事【寄稿】北朝鮮核実験 軍事的オプションとはは次のように言っている。

  • オプション1:封じ込めを強化する。これまで成功してこなかった。またアメリカは世界各地の封じ込めに多額の資金を使ってきたがそれが負担になっている。
  • オプション2:北朝鮮を打撃する。ただこのやり方で北朝鮮を完全に封じ込めることはできないため全面戦争に突入する可能性が高い。
  • オプション3:全面侵攻する。朝鮮半島が戦場化するため韓国はこの戦略に乗らないだろう。

つまり北朝鮮を攻撃しても朝鮮戦争が再燃するだけなので手出しができないということだ。日本が単独で北朝鮮を叩くという選択肢はないわけだから結局朝鮮半島有事に結びつく行動は取れないということになる。

こうしてアメリカが北朝鮮にどう対応するのかを考えあぐねていた時トランプ大統領が採用したのが電撃的な北朝鮮への訪問だった。2019年7月1日だった。

ところがアメリカが継続的に北朝鮮と対話をすることはなかった。あくまでもパフォーマンスの一環でありそれ以上の意味を持ち得ないとううことだったのだろう。バイデン政権は専制主義との戦いを民主党の支持率アップにつなげる戦略に切り替わったため「完全な非核化なしの対話には応じられない」という姿勢である。今回日本は25分間の電話階段の時間をもらい「日米同盟という保証書はいまだに有効である」と確認することには成功した。だがバイデン大統領は内政上の諸課題をいくつも抱えておりおそらく戦争が起きているわけでもないこの地域にはあまり関心はないだろう。なかなかステートメントは出ず記者の質問にも答えなかったようだ。

いずれにせよ北朝鮮の技術力は向上してきているが日米韓の議論はそれほど進展していない。このまま「核と長距離弾道ミサイルを持つ不気味な隣国」という状況に慣れてゆくしか選択肢はなさそうである。

ロシアや北朝鮮などの専制主義の国が核兵器の保有にこだわるのはそれが唯一の体制保証につながると考えているからである。これがよくわかるのがロシアの一方的な併合に対する北朝鮮の態度だ。米国は旧ユーゴスラビア、アフガニスタン、イラクなどの主権国家に侵略戦争を仕掛けたが、安保理から問題視されたことはないと言っている。アメリカ合衆国は自分達の価値観を押し付けてくる傲慢な国であり自分達の価値観に合致しない国を許さないだろうという見通しを持っているのだろう。また中国も経済制裁には強く反発している。大国が一枚岩ではないというのは北朝鮮にとっては好材料だ。

もちろん日本にも軍事力を向上させるという選択肢はある。実効性はないかもしれないが「何かをやっている」という安心感にはつながる。このため、今後具体的な課題は軍事費の財源をどこから持ってくるかが具体的に検討されることになるはずだ。政府は円安で利益を得た企業の貢献を期待するが経団連の十倉会長は「まっぴらごめん」のようである。日経新聞の防衛費増の財源、法人増税けん制 経団連会長によると防衛費増額の財源として政府内で浮上する法人税引き上げ案について「(防衛費は)国民全体で負担すべき性格のもの。法人税の議論が先行するのはいかがなものか」と発言したようである。

単に「安心感を買う」だけなので誰も財源負担はしたくないわけだ。

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