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ロシアの一方的な4州併合はなぜ国際法違反なのか?

ロシアが一方的に4州を「併合」した。銃で脅して住民投票を実施した上で一方的に既成事実を作ったのである。国際的には許されるべきではなくすぐに撤回されるべきだろう。だがこれが「どのような理由で何が国際法違反とみなされているか」を知っておくのは極めて重要だと思った。面倒な話なのだが一度整理しておきたい。現在の国際社会が置かれている状態が整理できてニュースが読みやすくなる。

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その問題に触れる時に参考になるのがトルコと中国の対応だ。中国とトルコはこの4州併合に複雑な感情を抱いている。自国の中で住民投票を行われては困る地域がいくつもあるからだ。

産経新聞が「中国、露との溝に苦心 「住民投票」相いれぬ立場」という記事を書いている。例えば中国が自国の領土であるとされている台湾で住民投票が行われ独立が決まってしまうと中国が主張する主権は無効になってしまう。同じことがチベットや新疆ウィグル自治区にもいえる。新疆ウィグルにはイスラム系で歴史的に共通点が多いカザフスタンやウズベキスタンなどの国がある。このため中国はウクライナのクリミア併合も承認していないそうだ。

だが中国はロシアとの関係を壊したくない。西側の経済制裁にも反発しているからだ。国連安保理ではインド、ブラジル、ガボンと共に棄権に回ったが拒否権は発動しなかった。国連の機能不全の直接の原因はロシアだが、この4カ国は「共犯」と言っても良いだろう。

トルコもこの併合が国際法違反であると言っている。領土保全に深刻な懸念を表明していることから自国への波及を恐れているのだろう。トルコもクルド人地域を抱えている。

確かにロシアによる併合は違法であり無効だとする意見は多い。一方で国際法違反が堂々とまかり通っており誰もこれを止めることができていないのも事実だ。実効性のない国際法にはあまり意味がない。

そこで、そもそもどういう理屈で国際法違反なのだろうかを調べてみることにした。朝日新聞の「ロシアによる「併合」は違法であり無効 宮内靖彦・国学院大教授」を読んでみよう。

宮内靖彦教授は「この現状を作り出したロシアの武力侵攻が違法」なのだから併合も違法だと言っている。併合は住民投票の結果もたらされたからこれも違法という筋立てになっている。

グテーレス事務総長も「国家の領土を武力行使によって併合することは、国際憲章と国際法に違反する」と言っている。つまり住民投票と武力行使が一体のものであると解釈することによって「国際法に違反している」という言い方だ。BBCもそのような書き方になっている。住民投票単体では「違法行為」だと断定できないことがわかっていて、別の記事では一方的な自国領編入を認める国際法はないという書き方になっている。

整理すると次のようになる。

  • 国連は一方的な侵略を大きな国が中心となって抑止する体制である。大きな国の一つが一方的な侵攻を始めてしまったわけだから本来はこの時点で機能が停止しているはずである。つまり国連は死んだか仮死状態にあるといっていい。蘇生の目処は立っていない。グテーレス事務総長はこの立場からロシアを非難する。
  • アメリカは民主主義を守ると言っているがウクライナには直接手が出せない。しかし態度を明確にする必要がありNATOを守ると言い換えている。そして現実的にはウクライナの民主主義を守ることができていない。またインド、ブラジル、トルコといった地域大国はアメリカの動きに同調していないことから国際社会への影響力が落ちていることもわかる。
  • ヨーロッパには経済的な実害が出ている。さまざまな影響が同時に現れた結果としてイギリスの経済は混乱しスウェーデンやイタリアなどの政権に「極右」が入り込んでいる。
  • 中国やトルコは自国に潜在的な民族問題を抱えているためロシアの住民投票の動きには賛同できない。別の大国がロシアと同じような始めると大変なことになる。だが「住民投票を抑止する国際法」などない。また西側による経済制裁に反発しておりロシアをあまり追い詰めることができない。中国も「大国」の一つなのだが期待される役割を果たしていない。

誰もトクをしないのだから協力してロシアに対応すべきなのだが、それができていないというのが現在の状況だ。

ロシアの行為は第二次世界大戦の反省の上に生まれた世界秩序に正面から挑戦状を叩きつけており決して容認できるものではない。だが「上からがっちりと迷惑な存在を抑えてくれる」ような機関は今の世界にはない。中国もそのことがよくわかっている。どこかの常任理事国が武力衝突覚悟で領土を奪いにきた時に納めてくれる国際機関などどこにもないわけである。とはいえ西側にも反発しているため主導的な役割を果たしていない。

国連が機能しないのだから「正義の側」が新しい組織を作ればいいじゃないかという意見は出てきそうだ。だが、実はこのルートも難しそうだ。CNNが破れのある論を書いている。アメリカ合衆国の苦難がよく表れている。

  • バイデン大統領はロシアのウクライナ併合は許されるべきではないと表明した。
  • バイデン大統領は北大西洋条約機構(NATO)の領土を隅々まで防衛すると表明した。

この二つの事象にはつながりがない。NATOはロシアから攻撃されておらずその兆候もない。だがバイデン大統領には米露戦争に突入する選択はできにないため後方支援だけを約束しNATO加盟は「別の機会に検討されるべきである」と言っている。つまり、今は直接は守ってあげませんよと言っているのである。

確かにロシアの侵攻は決して容認されるべきではない。さらに一方的な併合は国際法上は容認されないだろう。だが、その一方で「住民投票のみを違法」とする国際法はない。さらにいえば違法であったとしてもそれを取り締まることができる国家も国際機関も今の世界には存在しないといえる。

いずれにせよ誰も得をしていないのだから速やかに問題を解決すべきだと思うのだが「大国」の利害が交錯しそれができていない。これが我々の世界の現在地である。

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